独VWのソフトウェア内製が大炎上、日本勢は「明日は我が身」
フォルクスワーゲン(VW)のソフトウェア内製の試みは炎上し、方向転換を迫られている。「クルマ屋がソフトウェアを作る」ことの難しさを改めて知らしめている。出遅れている日本勢にとって明日は我が身だ。
フォルクスワーゲン(VW)のソフトウェア内製の試みは炎上し、方向転換を迫られている。「クルマ屋がソフトウェアを作る」ことの難しさを改めて知らしめている。出遅れている日本勢にとって明日は我が身だ。
VWは、中国で販売する自動車に中国電機大手ファーウェイのソフトウェアを使用するための交渉を行っていると、フィナンシャルタイムズ(FT)が先週、報じた。中国市場で外資自動車メーカーに淘汰の波が押し寄せる中、中国政府の戦略的企業であるファーウェイの採用によって政府の歓心を買い、市場シェアを維持したいという目論見を創造することは容易だ。
だが、これは、VWがソフトウェアの内製というこの数年の挑戦がうまくいっていないことを印象づける新たな情報でもある。
VWは2020年7月、テスラのような車載ソフトウェアの内製にこだわり、前CEOのヘルベルト・ディースの下でソフトウェア会社CARIADを設立。VWは2021年、2025年までに合計730億ユーロの研究開発費を投じると発表し、CARIADがサブスクリプションなどの販売を通じて、2030年までに120億ユーロ(約1兆8,000億円)もの収益を上げると予想した。
同社はドイツにある伝統的な車載ソフトウェア開発チームと、シリコンバレー的なアプローチをとるカリフォルニア州サンタクララのチームを組み合わせるなど、異なるワークカルチャーを融合させることにも挑戦してきた。そのためには、異なる安全基準をクリアし、車載ソフトウェアに求められる複雑な要件を理解する必要があった。
これらの試みは暗礁に乗り上げた。2022年までに、CARIADの開発に関する問題や、EV「ID.3」と「ID.4」の発売のためのバグだらけのソフトウェアによって、VWはディースを解雇し、さらにEV「ポルシェ・マカン」を含む自動車向けのEV開発の遅延が報告された。この部門は、その過程で昨年、VWグループに20億ドル以上の損害を与えたとされる。
欧州のテクノロジー誌ArsTechnicaのJonathan M. Gitlinの報告によると、この部門は、3つの異なるオペレーティングシステム(OS)に同時に取り組まなければならなかった。より高度な技術スタックとなる先進運転支援システム(ADAS)と自律走行車(AV)はさらに険しい山としてその向こうにそびえ立っていたようだ。
VWは昨年半ばから現実路線へと転向し、カナダのソフトウェア企業ブラックベリーにOSの一部分の開発を委託。中国におけるADASとAVをめぐって、中国テクノロジー大手百度出身のAIエンジニアが設立したスタートアップ、地平線機器人(Horizon Robotics)と合弁会社を設立し、24億ユーロの出資で株式の6割を取得した。
CARIADは、レベル4までのアシストおよび自動運転機能用のシステム・オン・チップ(SoC)の供給をQualcommに依頼することを発表している。これは中国以外の市場という棲み分けだろう。ただ、Qualcommはインフォテインメントシステムについては実績があるものの、ADASとAVについては新参者だ。
VWは今月初め、ディース時代に任命されたCARIADのほぼすべてのトップエグゼクティブを解任した。VWのソフトウェア戦略は大幅な再構築の中にある。
最近では、CARIADは、次期インフォテインメントシステムにAndroidを採用し、米テクノロジー企業Hereの地図、Googleの位置情報データ、Yelpの地域密着型ビジネス情報などの機能を搭載する予定だ。Androidアプリ開発者を活用し、コネクテッド車向けのアプリケーション提供を含みにしている。
最終的にVWが内製するソフトウェアのコンポーネントはどの程度まで縮小していくか。
VWの苦戦が示すこと
テスラが築いた「ソフトウェア定義自動車(Software-Defined Vehicle: SDV)」における大きなリードを追いかけるレースは、既存自動車メーカーにとって余りにも酷なものであることを、VWの事例は示している。
自動車メーカーがブレーキやステアリングなどのシステムをサプライヤーから購入し、その中にすでにソフトウェアが含まれていた時代とはやり方が異なっている。以前は、ソフトウェアの専門知識は、自動車メーカーではなく、主にサプライヤーにあった。しかし、現在は、自動車の設計とソフトウェアの設計は不可分となっており異なる体制が求められている。
NVIDIAは、SDVのコンポーネントを半導体からソフトウェアスタックまで包括的に提供している。NVIDIAとの取引は自動車企業にとって悩ましいものだ。彼らに下駄を預ければ、長期に渡って競争力の源泉であるソフトウェアを自ら作る力を得られなくなり、またレベニューシェアのようなかつてのサプライヤーとは考え難い取引が必要になるかもしれない。
自動車メーカーはこれらのSDVの決定的な要素技術群を我がものにしたいが、「クルマ屋」がこれまで作ったことがないもので、ハードルが高いことがVWの事例が再び明らかにした。中国のEVメーカーの中には、NVIDIAにSDV部分を依存する選択をしたプレイヤーが多くあることが、4月の上海モーターショーで判明している。