アドテクは死んだ  群雄割拠がデスゲームに変わるまで
Midhourney作. “large billboard advertisement in the futuristic city”と発注.

アドテクは死んだ 群雄割拠がデスゲームに変わるまで

一時は群雄割拠だったアドテクノロジー(広告技術)業界。大手企業が寡占を築き、新興企業が次々と姿を消している。大手との決定的な性能の差と蔓延した不品行が彼らの死を避けがたくしている。

吉田拓史

一時は群雄割拠だったアドテクノロジー(広告技術)業界。大手企業が寡占を築き、新興企業が次々と姿を消している。大手との決定的な性能の差と不品行の蔓延が彼らの死を避けがたくしている。


ゲームエンジン大手Unityとの合併をモバイル広告大手AppLovinとそのライバルであるIronSourceが競い合っている。UnityとIronSourceが合併プロセスを進める中、AppLovinはIronSourceとの「離婚」を迫るプロポーズを行った格好だ。

この異例とも言える一件は、大手が極めて優位性を増していくモバイル広告の世界で生き残るためには、残された一つの椅子から相手を押し退けるしかない、ことを物語っている。同時に、一時は群雄割拠だったアドテクの「バトルロワイヤル」から1社、また1社と参加者が減りつつあることを印象付けた。

独立系株式調査会社Arete Researchのロコ・ストラウスが最近のリサーチノートで指摘したように、Viant、AppLovin、AdTheorent、AcuityAds、Zeta Global、Taboola、Outbrainなど、2020年以降に上場したアドテク企業15社はすべてIPO価格を下回り、中には90%も下回っているところもある。

最も検討している中堅アドテク企業トレードデスクの時価総額は現在、約270億ドルで、2020年後半から100億ドル以上下がっているが、さらに50%から70%下落しても、間違いなくあるべき姿よりも高い水準にあると、Areteのマネージングディレクター兼創業者のリチャード・クレイマーは述べている

クレイマーは、より大きな疑問は、劣悪なアドテクノロジーの全体像、つまり多くのSSP、DSP、データプロバイダーが、長期的に生き残ることができるかどうかである、と述べている。「これらの企業の多くは消滅すると思われる。『ハンガー・ゲーム』のように、3、4社があの世に行き、残りは......ということになりそうだ。ロングテールは切り刻まれるでしょう」。

「我々は、AppLovinのUnityへの合併提案は、モバイル広告ネットワークが『身を寄せ合い』であり、基本的な業績見通しの落ち込みという『悪い知らせを葬り去る』ための試みだと見ている」とクレイマーは投資家向けメモに書いているという。

詐欺が蔓延し淘汰される

ここ数年のアドテクノロジーは、サブプライム時代の住宅ローン業界と似ている。つまり、透明性の欠如が、多くの人々が、長期的な価値の創造にあまり関心を持たずに、短期的な利益のために多額の資金を投じる環境を助長してきた。遅かれ早かれ、真実は明らかになり、現金はすべて使いつくされてきた。

アドテクノロジーの場合、詐欺が横行し、マーケターはしばしばお金を捨てているように感じていた。このような透明性に欠如した市場では、ズルをするのが簡単だった。営業チームを雇い、限られた技術で、優良な在庫と疑わしい在庫を混ぜて再販し、お金を稼ぐというものだ。

しかし、このような不品行の蔓延は、広告主を大手に殺到させた。大手の広告製品は信頼性が高く、安全で、スケールがあった。彼らは広告主の要求に対しても敏感でときにインターネットユーザーのプライバシーを軽く扱うこともあった。そのような慣行がケンブリッジ・アナリティカ事件のような一大スキャンダルを生むこともあった。

アドテク業界で有名なアドテク投資家LUMAScapesのカオスマップ。様々な分野で脱落者が出てきた。
アドテク業界で有名なアドテク投資家LUMAScapesのカオスマップ。様々な分野で脱落者が出てきた。

どんな規制も追い風に変えるビッグテック

一方で、大手企業はなかなかつまづかない。競争環境の変化は、プラットフォームの管理とファースト・パーティー・データを握るビッグプレイヤーに有利に働く。

最近のその顕著な例は、Appleがプライバシーポリシーによってアプリインストール広告市場を破壊し、自社広告事業への露骨な我田引水を行っていることだ。プライバシー規則「App Tracking Transparency(ATT)」は、他の広告プラットフォーム(特にFacebook)には、ターゲティングに利用する仕組みを事実上破壊するプライバシーポリシーの導入という重大なハンディキャップを与えた。

その一方で、Appleは最近、App Storeの検索広告を拡大する方針を明らかにした。長期に渡って広告に投資し、ターゲティングに磨きをかけてきた競合他社はATTによって競争力を減じられている。

FacebookもまたATTの被害者であるのは確かだが、「100億ドルのキャッシュフローを失う」というのは余りにも誇張が過ぎる。

豊富なユーザー数とそれに伴うファースト・パーティー・データを持つ同社は、ATTの影響を部分的に受けているものの、同社の広告事業がモメンタムを失っているのは、利用者のFacebook離れとTikTokに食われていることに起因しているように見える。

何らかの意図があって、事業の不振の理由をAppleのせいにしているのではないだろうか。

iOS 14.5のトラッキング許可はFacebookを殺さない
Appleのトラッキング許可に関する規定は、Facebookのデジタル広告の城の一角に損失を与えることは確かだ。しかし、本丸は揺るがないだろう。苦しくなるのは独立系の広告技術企業だ。期せずしてビッグテックがスモールプレイヤーを押し出すのを加速させている。

また、サードパーティcookie規制をめぐる混乱もまた典型的な例と言えるだろう。欧州連合(EU)は、近年、プライバシーを理由にサードパーティCookie(ウェブ広告のための識別子)をブロックするよう支配的なブラウザであるChromeを展開するGoogleに圧力をかけていた。デジタル広告業界は、サードパーティCookieを殺す方向に進んでいた。

Cookieは滅び、大手テクノロジー企業は繁栄した
サードパーティCookieの死は、インターネット経済がAOLのようないくつかの大企業に分割統治されていた20年前の状況に戻る、きっかけになるかもしれません。

しかし、Googleは2019年10月に、サードパーティCookieが欠落している場合、機械学習を使用し広告の頻度を管理すると発表した。Googleは、サイト運営者やマーケティング担当が広告配信を行いながら、プライバシーに配慮することができるとし、即座にサードパーティCookieの死に対応したのだ。

しかも、サードパーティCookieの死は大手企業にとって有利に働き、フランスのリタゲ業者Criteoのような中堅企業に著しく不利に働くことは明白だった。圏内の企業に不利に働く副作用を勘案したのだろうか、EUはサードパーティcookie規制の適用を2023年まで後ろ倒しにしないといけなかった。