ChatGPTブームが対話型AIをめぐる大決戦を引き起こした

ChatGPTのブームで大規模言語モデル(LLM)をチャットボットとして商業化する競争が急加速した。先行するMicrosoftを追って、腰の重かったGoogleが動き、新興企業も雨後の筍のように現れている。大決戦の模様だ。

ChatGPTブームが対話型AIをめぐる大決戦を引き起こした
Photo by Jonathan Kemper 

ChatGPTのブームで大規模言語モデル(LLM)をチャットボットとして商業化する競争が急加速した。先行するMicrosoftを追って、腰の重かったGoogleが動き、新興企業も雨後の筍のように現れている。大決戦の模様だ。


米国のデザイナーでBingユーザーであるOwen Yinは4日、「新しいBing」へ誘導する画面が現れ、少し経つと消えたと伝えた。Microsoftは、OpenAIのチャットボットChatGPTをBingに統合し、近々アップデートを発表する予定であると伝えられていた。

Yinは、自分が”偶然にも”試すことのできた「新しいBing」ではチャットボットが質問に答えるだけでなく、会話形式で質問できると主張している。これらはすべてChatGPT自体のUIに似ているようだ(下図)。

Yinが試せたと主張する会話形式のインターフェイス。出典:Owen Yin

これに先立った報道では、Microsoftが今後数週間のうちに、ChatGPTの基となるLLMであるGPT−3.5のアップデート版であるGPT-4を統合したBingの新バージョンのローンチを計画していると噂されている(噂の域を出ないが)。

主な対抗馬のAlphabetも早く動こうとしているようだ。3日の決算発表では、AlphabetのCEOであるスンダー・ピチャイは、同社の対話型AI「LaMDA」を検索と組み合わせて「非常に近いうちに」展開する予定であると述べた。LLMで駆動する対話型AIは、Googleの「金のなる木」である検索の重要なライバルとなる可能性がある(もちろん、互助的になる可能性もある)ため、Googleが早く動けるか注目されていた。ピチャイはLaMDAを「検索のコンパニオン」に位置づける、と話している。

GoogleはChatGPTに対抗するために「金のなる木」の検索を殺せるか?
ChatGPTが検索を脅かしていると言われるが、Googleには強力な対抗馬が2つもある。しかし、上場企業のGoogleは毎年数兆円を稼ぐ「金のなる木」を失うリスクを許容できるだろうか。イノベーションのジレンマは「検索の20年選手」にも当てはまるのかもしれない。

Alphabetは、決算説明会でAI研究所のDeepMindをGoogleに再編し、「Other Bets」項目から外すと述べている。DeepMindには世界的に優秀なAI科学者の凝集があり、Googleが直接この力を使えるようにする目論見があるようだ。DeepMind側はGoogleに対して一時NPO化を具申していたが、突っぱねられたと報じられている。

このDeepMindもまたチャットボットSparrowを開発している。同モデルはテキストを生成するのに(他のLLMが持つような)1,000億以上のパラメータは必要ないと主張した独自の言語モデル、Chinchillaをベースにしている。背後でGoogle検索を利用し、質問に対し情報源からの証拠をリンクとして示すという特徴的な仕様が組み込まれている。

ChatGPTに強力なライバル:DeepMindのSparrow
Alphabet傘下のAI研究所DeepMindが開発するチャットボット「Sparrow」は、市場投入時には、ChatGPTより優れた製品になる可能性がある。Sparrowは、証拠となる出典を示し、嘘やなりすましのようなリスクを抑制する工夫をしている。

検索と協働する製品は、リアルタイムな質問への回答精度がより高い場合もあるかもしれない。ChatGPTは回答の「時事性」については、基のLLMのGPTのアップデートに依存するが、Google検索はWebを耐えずクロールしてランキングしているため、情報の変更を見つけることができる。裏返すと時事性が薄い話題については、ユーザーが要する工数が少なく、無駄な情報が付随しない、ChatGPTの方がユーザー体験に優れていると言えるかもしれない。

この検索組み合わせ型にはGoogle以外の重要なプレイヤーが生まれつつある。それは、質問に対し検索を行い出典を明示するチャットボット/検索エンジンを開発している新興企業Perplexity AIである。同社は近く1,500万ドルのシードラウンドを調達しようとしている。

この他にも新興企業の資金調達ラッシュが起きている。先週初め、サンフランシスコに拠点を置くAIスタートアップでChatGPTのライバルであるAnthropicが10%の持分と引き替えにGoogleから3億ドルを調達した。AnthropicのAIチャットボット「Claude」はクローズドβモードだが、その目標を詳細に記した論文では、開発チームは、有害なプロンプトに対して、なぜそれが危険なのか、見当違いなのかを説明し、対抗することを検討している。有害なプロンプトへの対抗はChatGPTも採用しているものの、すでに迂回方法が見つかっており、誹謗中傷、差別、偽情報を低コストで生み出す装置になるリスクが指摘されている。

熱狂を示す事例も出ている。先週、Adept AIを退社した起業家2人が共同設立したAIスタートアップが、最近800万ドルを調達したと報じられた。まだ会社の名前が決まっていない段階での投資決定である。

米データプロバイダーのCrunchbaseのデータによると、近年、AI分野での資金調達はベンチャー企業の資金調達全体の10%前後を占めている。ベンチャー投資が枯渇した昨年でさえ、AI分野にとっては過去2番目に資金調達が盛んな年だった。

戦争は始まったばかりである。

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