Apple、プライバシーの大義名分で競合を責め立てる
Appleはプライバシー保護を強化する姿勢を鮮明にした。これは、iPhoneユーザーのニーズを満たす顧客満足のためのものであり、サードパーティの広告業者・マーケティングソフトウェア会社のビジネスをプラットフォームから押し出そうとする考えの発現でもある。
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要点
Appleは再びプライバシー保護を強化する姿勢を示した。その目的は、フリーミアムと広告で収益化するライバルを圧迫し、Appleが収益成長の種として期待するサブスクリプションサービスやヘルスケアや決済事業に有利な条件を整えることかもしれない。
以前、このニュースレターで、Appleはサードパーティ(第三者)の広告ビジネスに圧力をかけていることについて触れたが、6月7日に始まった世界開発者会議(WWDC)でAppleはさらにプライバシーを強調する技術仕様を発表した。Appleは締め付けをさらに強めていこうとしている。
目的は、自社のプラットフォームの上で競争する、フリーミアムと広告で収益化するライバルを圧迫し、Appleが収益成長の種として期待するサブスクリプションサービスのほか、ヘルスケアや決済のようなフロンティア事業に有利な条件を整えることかもしれない。
かつてAppleはデジタル広告に積極的な企業の一つだったが、GoogleやFacebookとの競争に見通しが立たず、2016年末日をもってデジタル広告事業のiAdを閉鎖した。その後、ケンブリッジ・アナリティカ事件等で、デジタル広告がプライバシーにリスクを与えていることが一般に知られるようになり、Appleは状況を活用する機会を手に入れた。他のプレイヤーのように広告事業のためにユーザーを追跡していない「プライバシー重視」のプラットフォームであるというメッセージを発信し続けている。
最近では、AppleはSafariの追跡防止機能であるIntelligent Tracking Prevention(ITP)で、サードパーティクッキーを弾くようにし、広告技術企業を阿鼻叫喚させた。iPhoneユーザーの9割超はSafariを選択しているとされ、iPhoneへのターゲティングの精度が著しく下がることにつながった。アドテク企業のIndex Exchange社によると、2017年にITPが導入されてから、SafariユーザーのCPM(表示1,000回あたりの単価)は約60%下落していたとされる。
さらに、Appleは、iOS14.5では、トラッキングの許可をユーザーに尋ねることを求める規定を導入した。FacebookやGoogleのようなアプリ広告事業者は様々なアプリに埋め込まれたSDK(ソフトウェア開発キット)を通じて、アプリ利用者の行動を把握するための網を張り巡らしているが、この規定はそれを吹き飛ばしかねないものだった。ただ、アプリ開発者は通知の文言を変更したり、ユーザー体験上の「工夫」を通じて、一定数のユーザーに追跡を許可させる抜け穴を見つけている。
そして、今回の発表でさらに厳しい態度を示している。発表されたプライバシー保護の機能およびアプリケーションの一部を列挙してみよう。これらは、近日発売予定のOSであるiOS 15またはMacOS Monterey向けのものだ。
- App Privacy Report(アプリプライバシーレポート)。iOS 15から、各アプリが過去7日間に位置情報、写真、カメラ、マイク、連絡先へのアクセス許可を使用した回数を確認することができる。このレポートでは、どのサードパーティドメインがユーザーの情報を受信しているかも表示される。
- メールトラッキングピクセルの排除。メールアプリでは、プロキシサーバーを経由して画像を実行するため、メールマーケティング担当者がいつどこでメッセージを開いたかを示すトラッキングピクセルが使用できなくなる。
- ITPは追跡者からユーザーのIPアドレスを隠すことができるようになった。これにより追跡者は、ユーザーのIPアドレスを一意の識別子として利用し、複数のウェブサイトにおけるユーザーの行動を結びつけて、ユーザーのプロファイルを構築することができなくなる。
- Siriリクエストの音声をデバイス上で処理。オンデバイス音声認識では、ユーザーがリクエストした音声は、デフォルトではiPhoneやiPad上で処理される。
- Private Relay。Safariでブラウジングする際、Private Relayによって、ユーザーのデバイスから発信されるすべてのトラフィックが暗号化され、Appleやユーザーのネットワークプロバイダーだけでなく、ユーザーと閲覧しているウェブサイトの間にいる誰もがアクセスして読み取ることができなくなる。
- Hide My Email。Sign in with Appleの機能を拡張したもので、ユーザーが個人のEメールアドレスを非公開にしたい場合に、いつでも個人の受信箱に転送されるユニークでランダムなEメールアドレスを共有することができる。
- HomeKit Secure Video。ユーザーはホームセキュリティのビデオ映像をエンドツーエンドで暗号化して保存できるようになる。
- 現在地の共有。ユーザーは一度だけアプリと現在地を簡単に共有することができ、そのセッション以降は開発者にアクセス権を与えない。現在地の共有ボタンをカスタマイズして、アプリケーションに直接統合することが可能になる。
センシティブな個人情報を扱うビジネスでの優位性
これらはiPhoneの大半のユーザー層が求める仕様だろう。別の視点から視ると、Appleは他のプレイヤーの行動を抑制するためのプライバシーという大義名分を手に入れたようにも映る。
Appleは、自らが影響力を十二分に発揮できるプラットフォームこそが好ましく、そうではないものは徹底的に排除する姿勢をとってきた。いわゆるウォールドガーデン(塀で囲まれた庭)だ。例えば、Appleは、ITPでウェブ追跡を圧迫する一方で、ネイティブアプリと同様の機能を再現できるウェブアプリの総称である「PWA(Progressive Web App)」のSafariのサポートをずっと遅らせている。PWAはGoogleが開発・提唱したものであり、その採用はAppleが整えたネイティブアプリの経済にGoogleの論理が侵食することを意味するからだろう。
この他社の介在が極力排除されたウォールドガーデンのなかで、Appleはアプリベンダーに対して「課税」を行うことで効率的に儲けてきた。調査会社センサータワーの分析によると、App Storeでの消費者の支出は723億ドルに達し、2019年の555億ドルから前年同期比で30.3%増加した。しかし、8月の判決を待っているエピック・ゲームズとのアプリ内購入をめぐる訴訟で、ベンダー側の不満が露わになっている。
それでも、Appleが築いたプライバシー保護の印象は、製品とマーケティングの両面から、オンライン決済、ID、健康などの大きな新市場への進出を可能にするだろう。今のAppleの立ち位置からは、不必要なデータを収集したり、欧州の厳格な一般データ保護規則(GDPR)のようなポリシーに違反したりしないよう新製品を開発することができる。
Appleのヘルスケアアプリは、ユーザーが歩いているときの動きなど、iPhoneからのデータを利用して、転倒の危険性があることを警告できるようになった。また、iPhoneを健康記録システムに接続したユーザーは、その記録を医師や友人、家族と共有できるようになる。ヘルスケアデータは最も規制の厳しいデータのひとつであり、アップルが顧客からの評判や社内での機密データの取り扱い能力に自信があることを示している。今回の会議で、ウォレットアプリに、顧客の個人情報そのものである運転免許証を保存する機能が追加されたことが発表されたのもその現れだろう。
これに対し、広告のための追跡について国際的に厳しい視線が注がれている。先週、英国と欧州の規制当局がFacebookの広告データ利用について競争規則違反の疑いで調査を開始している。Googleはプライベートモードでウェブ閲覧しているときでも、ユーザーから密かにデータを収集していると主張する集団訴訟に直面している。
Image via Apple.
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