EV新興勢力の鴻海・サウジ連合が意味することは?

自国に電気自動車(EV)供給網を持ちたいサウジと、委託製造というエレクトロニクスの手法の導入を目論む鴻海には、共通する利得があるようだ。両者は連合し、自動車産業の外から先行者を急追している。

EV新興勢力の鴻海・サウジ連合が意味することは?
2022年10月18日、台湾の台北で行われたイベントで、電気自動車Model Cの隣で手を振るFoxconn Technology Group(鴻海精密工業)の創業者、テリー・ゴウ。I-Hwa Cheng/Bloomberg

自国に電気自動車(EV)供給網を持ちたいサウジと、委託製造というエレクトロニクスの手法の導入を目論む鴻海には、共通する利得があるようだ。両者は連合し、自動車産業の外から先行者を急追している。


サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)と台湾の鴻海精密工業は、合弁会社を立ち上げ、サウジでEVを生産する計画を進めていると発表した。

両社は、ドイツのBMWから部品技術のライセンスを受け、サウジアラビアでセダンやスポーツ用多目的車(SUV)などの車両を設計・製造する合弁会社Ceerを設立し、同地域の購入者を対象に販売する予定だ。最初のモデルは2025年に発売される想定だ。「インフォテインメント、コネクティビティ、自律走行技術」を備えた自動車の電子機器を開発すると両者は共同声明で述べている。

EV分野で新興勢力になりたがっている同士による興味深い連合だ。サウジは、石油依存からの多角化のために、国内の自動車産業を発展させるという野望を何年も前から持っていたが、その努力はほとんど失敗に終わってきた。

最近、王国は別の戦術を試みており、PIFがこの産業に積極的に投資している。PIFはルーシッド・モーターズの株式の過半数を取得している。ルーシッドは死屍累々の米新興EV企業の中で、リビアンと同様「生き残り組」に入ったと考えられている会社である。

サウジのルーシッドへの支援は手厚い。サウジ政府はルーシッドから10年間で10万台ものEVを購入する契約に調印した。同国は、ルーシッドが紅海の主要貿易港に近いキング・アブドラ経済都市に年間生産能力15万台を目標とする製造拠点を建設する計画を支援している。

サウジは電池製造のパイプラインを国内に持とうとしている。豪化学企業であるEV Metals Groupは電解質の重要な添加剤となる、水酸化リチウム一水和物の処理工場の建設を開始している。豪Avass Groupは、2月に同国とEVとリチウム電池を共同製造する契約を締結したと発表している。現在、同国の研究者たちは、油田の周辺にある塩分を含んだ塩水に含まれるリチウムの加工を採取し、電池に使用するのに十分な純度に加工するための経済的な方法を研究している。

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他方、鴻海は、EVの設計・製造受託サービス(CDMS)のビジネスモデルを開拓しようとしている。鴻海は、コンシューマ・エレクトロニクス製品の委託製造において支配的な地位を獲得したが、郭台銘(テリー・ゴウ)はEV市場について「うまくいけばICT産業と同じようなことができるかもしれない」と述べている。長期的には世界で販売される電気自動車のほぼ半分を製造するというかなり挑戦的な目標を設定している。

鴻海のEV参入は電撃的だった。同社は昨年、台湾の自動車メーカーと共同で設計したEVのプロトタイプを発表。これらは近く納車開始される見込みだという。3月には、鴻海が主導するオープンプラットフォームで設計された電動バスの納入を開始した。

先月には、委託元のOEMが販売する2つの新しいプロトタイプのEVを発表した。これらは、23年後半に納車開始される見込みだと同社は主張している。ゴウは「今後10年間、EV産業における鴻海は、自動車分野におけるCDMSを再定義し、垂直統合型の技術サービスを引き続き推進していきます」と語っている。号の発言は、有名なiPhoneの受託製造ではAppleが設計を握っているが、EVでは設計部分への関与を増やし、より多くのバリューチェーンを取り込もうとしているように聞こえる。

鴻海は、オハイオ州のEV新興企業ローズタウン・モーターズから工場を2億3,000万ドルで買い取り、同社のEVピックアップトラックを増産しているほか、欧米の自動車グループであるステランティスとの提携も拡大しており、両社はEV用のスマートコックピットソリューションを共同開発している。また、自動車用チップの共同開発も計画している。

鴻海はEVの急所である電池にも手を伸ばしている。鴻海の目標は、川上の原料(加工)、川中のセル、川下の電池パックに至るまで、サプライチェーン全体で電池製造の現地化することだ。6月には同社初の電池工場の建設を開始した。この工場は台湾第2の都市である高雄にあり、2024年第1四半期に127万キロワット時のリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)セルの生産を開始する予定だ。同社はGiga Solar Materials、Long Time Technology、China Steel Chemicalの各社と、リン酸鉄リチウム電池の負極材開発で協力。

同社は台湾で得た知見をもとに、最終的には他の国でも同様の生産能力を構築したいと考えているようだ。高雄工場が稼働した後、インドネシアが台湾以外の国で同社初の電池工場となる可能性があると述べている。インドネシアはニッケルの産地であり、精製を国内で行うよう税制を変更したことで、国内に電池のサプライチェーンが生まれ始めている。

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