ナトリウムイオン電池はEVと再エネに衝撃を与える

安価でレアアースに依存しないナトリウムイオン電池が、当初は想定されなかった電気自動車(EV)に搭載されようとしている。再エネのエネルギー貯蔵のコストも下げることも予想され、ゲームチェンジャーの様相だ。

ナトリウムイオン電池はEVと再エネに衝撃を与える
電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が2021年に発表したナトリウムイオン電池(NIB)を説明する動画の一節。出典:CATL

安価でレアアースに依存しないナトリウムイオン電池が、当初は想定されなかった電気自動車(EV)に搭載されようとしている。再エネのエネルギー貯蔵のコストを下げることも予想され、ゲームチェンジャーの様相だ。


電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)とEV・電池大手の比亜迪(BYD)のナトリウムイオン電池(NIB)は、いずれも年内に量産車に搭載される、と地元メディア36krが4月20日に報じた。両者ともNIBとリチウムイオン電池(LIB)の混載になる模様だという。

4月16日、CATLは、中国自動車大手の奇瑞汽車(Chery)の車両に同社のNIBを搭載することを発表した。CATLが2021年7月に第1世代のNIBを発表した際の性能は、バッテリーセルのエネルギー密度は160Wh/kg、常温ならば15分間で80%以上充電でき、摂氏マイナス20度の環境でも定格容量の90%が利用可能。乗用車に搭載した場合、航続距離は最大400キロメートルに達するとされた。

BYDは1月末、NIBを採用した最初の量産型EV「海鴎」を2023年第2四半期に発売する予定と、漏洩した試作車の画像とともに報じられた。NIBを搭載した海鴎の航続距離は300キロメートルとされ、LIB版の400キロメートルに迫っている。

EV業界はナトリウムイオン電池を無視し難くなってきた
中国の大手メーカーがナトリウムイオン電池を搭載したEVを開発している。この電池は提供できる航続距離は短いが、希少材料に依存せず安い。低価格帯から市場を侵食する可能性は否定できない。

中国では、いくつかの電池製造会社がすでにNIBの大量生産を始めている。さらに、後続の大勢の会社も2023年から2024年の間に大量生産を開始する予定で、中国式の血で血を洗う強烈な競争が繰り広げられることになりそうだ。

中国自動車大手の江淮汽車(JAC)は、3月23日に中国江蘇省で開かれた業界会議で、電池メーカー中科海钠科技(HiNa Battery Technologies)のNIBを搭載したデモカーを公開した。このモデルは航続距離252km、バッテリー容量25KWhを誇り、わずか15~20分で急速充電が可能だと説明されている。

電気二輪車メーカー雅迪(Yadea)の子会社である華域汽車系統股份有限公司(Huayu New Energy Technology)は、今年3月に第一世代のNIBを発表している。華域汽車系統は、二輪車の分野では、LIBは可燃性、鉛蓄電池は性能がボトルネックになり、NIBが適している、と主張している。LIBと比べたNIBのコスト優位性は、まだ20%~30%程度だが、量産化されれば、ナトリウム電池のコスト優位性はより明白になるという。

NIBが求められる理由

NIBは、LIBと似た構造をしている。充電中は、ナトリウムと鉄を含む正極からナトリウムイオンが液体電解液を通ってポリマーのバリアを通り、硬いカーボン製の負極に移動する。放電時には、ナトリウムイオンは負極から正極に戻る(図表参照)。

図1. Naイオン電池セルの模式図。リチウムイオン電池と同様の構造をしている。出典:ACS Energy Lett. 2020, 5, 11, 3544-3547

ナトリウムを電池に利用する研究は1970年代から本格化し、米国が中心となって進めてきた。10数年前に東京理科大の駒場慎一教授らのグループが決定的なブレークスルーを起こした。だが、商業化については、中国企業が主導権を握るようになった。

NIBはエネルギー密度が低かったため、定置用のみでの利用が有力視されていた。希土類元素を含まないことから、系統用蓄電池が最も有力なユースケースだと考えられた。だが、CATLや数多ある中国の電池企業が主張する性能は、車載に十分相当するものだ。CATLの研究センター副所長のQisen Huangは昨年11月、ナトリウムイオン電池関連のフォーラムで、この電池は最終的に航続距離が400キロメートルのニーズを満たすことができると発言していた。

NIBは安い。NIBの前駆体として一般的な水酸化ナトリウムの価格は、1トン当たり800ドルを下回っており、LIBの主要材料であるリチウムより数十倍安い。最終的な材料費でも、NIBはLIBの約3分の1に過ぎず、-20℃の低温でも性能を発揮し、熱暴走の心配もない(LIBは発火や爆発することがある)。

また中国以外のステークホルダーにとっては、世界のリチウムの供給量の約9割が中国企業によってコントロールされていることも心配の種である。

NIBのアキレス腱は、同サイズのLIBの3分の2程度のエネルギーしか蓄えられないことだった。しかし、研究者は、試作品のエネルギー密度を着実に高めていると主張している。まだ実用化には至っていないが、近くLIBとの本格的な競合が始まるかもしれない。

英コンサルティング会社のウッドマッケンジーの予測によると、NIBは、乗用EVと蓄電池におけるLFPのシェアの一部を代替すると予想される。短期的には、2020年代半ばに生産規模を拡大するため、Naイオンの製造コストは高くなるが、この間、EV分野のNIB需要は、2022年の0.6TWhから2030年には2.8TWhに急増し、早すぎるブームが訪れる、という。

コンサルティング会社のベンチマーク・ミネラルズによると、現在計画中または建設中のNIB工場は世界に20存在するが、うち16工場は中国に立地する。2年後には、中国が世界のNIB製造能力の約95%を占めることになると同社は予測する。

リチウム電池の優位性は失われる?

米国エネルギー省融資プログラム室(LPO)室長のジガー・シャーは、LIBの優位性はいつか失われる、と確信している。「LIBが永遠に優位に立つことはないだろう。電池分野での技術革新は非常に進んでおり、既存の既存技術のどれもが、現在の形で優位に立つとは考えにくい。7~10年後には圧倒的なシェアを獲得しているもは、ナトリウムイオンかもしれないし、全固体技術かもしれないし、誰が勝つかはわからない」

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