インド、EVハブ化の野望を滾らせる

インドは、EVハブになることを目論んでいる。二輪と三輪のEV化は目に見張るものがあり、四輪にも波及していきそうだ。EV先進国である中国に対するアレルギーと、同様のポジションを狙うインドネシアが、インドの野望にどう影響するか。

インド、EVハブ化の野望を滾らせる
TタタモーターのEV部門Tata.evのEVラインナップ。出典:Tata.ev

インドは、EVハブになることを目論んでいる。二輪と三輪のEV化は目に見張るものがあり、四輪にも波及していきそうだ。EV先進国である中国に対するアレルギーと、同様のポジションを狙うインドネシアが、その野望にどう影響するか。


インドPHD商工会議所(PHD Chamber of Commerce and Industry)とコンサルファームAvalon Consultingがまとめた「Charged for Success: India's EV Landscape」によると、インドのEV生産台数は2028年度(2027年4月~2028年3月)までに970万台に達する見込みである、とインドのトップ経済紙Economic Timesが報じた

EV専用部品市場は2023年度の12.5億ドルから2028年度には130億ドルに成長すると予想されている。一方、インドにおけるEV需要の高まりは、バッテリーの需要拡大につながると予想され、2026年度の29.5ギガワット時(GWh)から2030年度には152.3GWhに拡大する可能性がある。

Economic Timesによると、BMWグループのインドトップであるVikram Pawahが、同社は2025年までにインドでの販売台数の25%をEVが占めるようになると予想しており、販売台数の増加に伴いEV生産を現地化する可能性があると語ったという。

二輪と三輪のEV化が進む

二輪車と三輪車が、インドのEV化を牽引している。インドでは現在、数百万人のEVオーナーがおり、人気の高いバイク、スクーター、リキシャが90%以上を占めている。4月に発表されたIEAの報告書によると、2022年のインドの三輪車登録台数の実に半分以上がEVだった。

Global EV Outlook 2023 – Analysis - IEA
Global EV Outlook 2023 - Analysis and key findings. A report by the International Energy Agency.

2022年には、二輪車販売台数のほぼ7%がEVで、100万台に達している。インドの二輪車と三輪車の総ストックは2億5,000万台と推定され、今後莫大な買い替えが予想される。

インド政府は2030年までに、乗用車新車販売の3割をEVとし、二輪車と三輪車の販売台数の80%を占めるようにする目標を掲げている。目標達成のため、政府は2015年に「FAME」(Faster Adoption and Manufacturing of Electric Vehicles)と呼ばれるEV 生産早期普及政策を導入し、2019年4月から第2期(FAME II)を展開中だ。

FAME IIプログラムでは、1,000億ルピーの予算で、電動車の購入者への補助金や充電ステーションの増設、公共バスの電動化を支援している。インドでは170都市で70億ドルを電気バスに費やす予定。さらに、電動車や燃料電池車の工場を新設または拡張する企業に対しても、別の政策による補助金が提供される予定だ。

このような低価格帯での電動化は、やがて、より高い価格帯に伝播するかもしれない。マッキンゼー&カンパニーの予測によると、インドの高価格帯の自動車消費者の70%が、次の車としてEVを検討する意思があると回答しており、これは世界平均の52%を超す記録的な高さである。

各社の投資

各社はインドへの投資を進めている。

  • 現代自動車グループは8月、2025年からインドで小型EVを生産する計画を明らかにしている。2032年までにインドで5つのEVモデルを発売する予定。
  • 鴻海精密工業は、インドにEVとEV用バッテリーの製造施設を設立する計画を持つ。EV二輪車の製造拠点になりつつあるタミル・ナドゥ州(*1)は、鴻海が工場設立を検討している州の1つだ。フォックスコンは2005年からインドで事業を展開しており、EVは新たなラインナップになる。
  • 地場大手財閥の自動車部門であるタタ・モーターズは、8月に立ち上げた「Tata.ev」ブランドのもと、EV専売店の計画を発表した。タタはまた、バッテリー電気自動車(BEV)の輸出を含む可能性のある国際戦略を最終決定している。同社は2027年までにバッテリーモデルに約20億ドルを投資する意向で、グジャラート州に電池工場を建設することで、EVサプライチェーンの強化を目論んでいる。

保護主義という障壁

モディ政権の特徴として、製造業における保護主義が挙げられる。海外企業に対する大きな障壁として、複雑な許認可取得や税制優遇申請のプロセスがあり、部品や装置の輸入に関しても高い関税を課している。この結果、インドは期待されたほどには製造業セクターの成長を享受しておらず、工業製品については、中国からの輸入品に依存する傾向が続いている。これらの保護政策は、モディの支持基盤や親密な財閥の意向と密接に絡んでいる可能性があるが、空回りの印象もある。

「次の中国」になれないインド:製造業育成に躓き続ける
インドの製造業振興は遅々として進んでいない。iPhoneの生産の一部が中国から移転しても、投資先として魅力的であるとは必ずしも言えない。インドは今の所、「次の中国」にはなりえないだろう。

中国勢への厳しい視線

世界で最も多くのEVを販売してきた中国EV大手BYDは、最近、10億ドルの投資計画を棚上げすると、インドの合弁パートナーに伝えた、と報じられた。この動きは、BYDの投資案が精査に直面し、インド政府に却下された後のことだとロイターは報じている。6月初め、インド政府は、BYDとインドのパートナーであるMegha Engineering and Infrastructuresが2023年4月に提出した、EVを現地で共同生産するための製造工場設立の提案を却下していた。これらの措置は中国との関係を念頭に置いたものだろう。

子会社を使い、政府の目くじらが立たない進出方法を模索する中国企業もある。中国の上海汽車グループ傘下の英スポーツカーブランド、MGは、500億ルピー(約820億円)を投じて、インドでの生産台数を年間30万台にまで増やすEV製造用の第2工場を建設中だ。同時に西部のグジャラート州にバッテリー工場を建設している。さらに、上海汽車は2〜4年後にインド企業が過半数を所有することを目指し、現地法人の100%持ち株を希薄化する予定だ、と発表した。

インドネシアというライバル

インドのライバルはインドネシアだ。インドネシアはニッケル産出で電池のサプライチェーンを抱え込もうとしている。同国は、長期に渡って同国の自動車産業を牽引してきた日本企業ではなく、中韓勢の投資を呼び込んでいる。EVの中心地となった中国の投資に対してアレルギーのない点も、インドネシアに有利に働くだろう。

インドネシアのEV供給網の野望
インドネシアは、中国が圧倒的な優位を築き、欧米が巨額の産業政策で追走するEV供給網をめぐる競争の中で、台風の目となっている。この特集記事ではEV大国化を目論む同国の野心とその政策について詳述している。
インドネシア、ニッケル埋蔵を活かしEV供給網のハブを目指す[ブルームバーグ]
(ブルームバーグ) -- インドネシア中部でニッケル生産大国となりつつある工業団地を運営する企業は、ステンレス鋼や電気自動車用電池の主要部品であるニッケルの生産に関する環境懸念の高まりに対処するための対策を実施していると述べた。 スラウェシ島東部に位置するモロワリ工業団地は、同名の町にあり、3,000ヘクタールを超える広さがある。インドネシアのニッケル鉱山は、今年、市場をより深刻な黒字に押し上げる新たなニッケル供給の奔流を解き放とうとしているが、石炭火力発電の多用や廃棄物処理計画をめぐり、業界コンサルタントや環境保護団体からの監視の目が向けられている。 インドネシア・モロワリ工業団地のハミ…

インドとインドネシア、どちらが早く成長するか?
世界の20大経済圏の中で成長機会を探すなら、2つの国が際立っている。インドとインドネシアだ。人口17億人を擁するこのアジアの巨人は、2023年、そして今後5年間で、トップ20の中で最も急速に成長する2つの経済大国になるとIMFは予測している。 両者は、脱グローバル化、地政学的混乱、自動化、エネルギーシフトの時代において、より豊かになるための戦略を開拓しており、選挙に勝ち、社会不安を回避する政治方式を模索している。彼らが成功するかどうかは、国民や彼らに何十億ドルも賭けている投資家にとって重要なだけではない。2020年代以降、新しい信頼できる発展の道を模索する多くの国々にとって、模範となることだ…

脚注

*1:インドの2023年1月から2月までの電気自動車(EV)二輪車国内登録台数は、13万496台となった〔インド道路交通・高速道路省の統計サイト(VAHAN)より、3月14日時点〕。タミル・ナドゥ(TN)州で生産を行っている上位メーカー(注)の登録台数を合計すると8万8,585台となり、全体の67.9%を占める。https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/4ff4e5c2b9f8119c.html

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史