中国はGPU不足をどうカバーするか 禁輸措置が国産化を助長
中国のAIへの投資は急激に膨張している。しかし、米国の禁輸措置でダウングレード版のGPUしか手に入らない。短期的にはNVIDIAに大枚をはたいて凌ぎ、長期的には、国産のGPUとソフトウェアで賄う方向にかじを切ったようだ。
中国のAIへの投資は急激に膨張している。しかし、米国の禁輸措置でダウングレード版のGPUしか手に入らない。短期的にはNVIDIAに大枚をはたいて凌ぎ、長期的には、国産のGPUとソフトウェアで賄う方向にかじを切ったようだ。
中国の大手テクノロジー企業は、最近こぞって大規模言語モデル(LLM)を発表した(*1)。これらの開発のため、バイトダンスや百度のような大手テクノロジー企業は、NVIDIAの高機能GPUを大量に購入している。
しかし、足りてないはずだ。現状、NVIDIAは米国政府によってAIのトレーニングに用いられる「A100」と「H100」の中国への輸出を禁じられており、ダウングレード版を輸出している。深センで闇市が立っていたことからもわかるように、様々な経路で中国企業がGPUを買い足しているようだが、限界があるはずだ。
LLMは恐ろしい規模のGPUクラスタを必要とする。OpenAIのLLMは、2020年にマイクロソフトが発表した所によると、1万個のNVIDIAのGPUを搭載したスーパーコンピューターによってトレーニングされている。米テクノロジー系ニュースサイトThe Informationが4月に報じたところによると、ChatGPTを稼働させるためにOpenAIは「高価なサーバー」を使用しているため、1日に最大70万ドルのコストがかかっているという。
禁輸措置は、長期的には中国に打撃を与えるという見方がある。NVIDIAのチーフ・サイエンティストであるビル・ダリーは、フィナンシャル・タイムズ(FT)に対して「(大半の最先端AIシステムの)トレーニング要件が6~12カ月ごとに倍増し続ける中、中国で販売されるチップと世界の他の地域で入手可能なチップとの間のギャップは急速に拡大するだろう」と述べた。これは、要件が高まるのに呼応して、GPUの性能も向上し、中国で流通するダウングレード版と差が開くという意だ。
FTの8月の報道では、バイドゥ、バイトダンス、テンセント、アリババは10億ドル相当の注文を出し、今年中に納品される約10万個のA800プロセッサーをNVIDIAから購入したと、この件に詳しい複数の関係者が語っている。また、これらの大手企業は、2024年に納品される40億ドル相当のGPUをさらに購入したと、NVIDIAに近い2人の人物が語ったとされる。
中国は依然としてNVIDIAにとって重要な市場であり、最近の四半期には27億4,000万ドルの収益を上げている。
また、米国は禁輸措置をさらにエスカレートする見込みだ。バイデン政権は2日、中国へのAIチップとチップ製造ツールの出荷を抑制する規則を、早ければ10月初旬にも更新する計画を北京に警告した、とロイターが報じた。商務省は、昨年発表した輸出規制をさらに厳しくする更新を検討しており、この更新は、オランダと日本の規制に沿って、より多くの半導体製造装置の輸出を制限し、AIチップに関する輸出規制の抜け穴を塞ぐことを目的としているとされる。
米国政府は9月初旬に、NVIDIAが中東に特定のGPUを販売することを妨げる更なる制限を課した。中国が中東経由でGPUを得ることで、禁輸措置を迂回する懸念をその理由としている。エヌビディアが米証券取引委員会に提出した10K報告書で明らかにされた。米国は、中東諸国と中国の関係強化に懸念を抱いている。特に、中国はこの地域で重要な貿易パートナーシップを結んでおり、サウジアラビアとイランの和平交渉の仲介に重要な役割を果たしている。
NVIDIAは代替可能?
中国はNVIDIAの代替製品を内製できるか。短期的には不可能だろうが、長期的にはありえない話ではない。最近のファーウェイの最新機種に搭載された、システムオンチップ(SoC)の分析によって、中国は禁輸措置以降も半導体製造の独自技術を新調させているという見方が一定の力を持っている。
台湾エレクトロニクス専門誌DigiTimesは、今のところ、AIハードウェアの市場はNvidiaが独占しているが、中国のGPUベンダーがハードウェアとソフトウェアに磨きをかければ、ニッチ以上の市場を切り開く可能性がある、と書いている。
同誌によると、ILuvatar CoreX、Moore Threads、BirenTechなどの中国半導体企業は、百度のような地元のクラウド・コンピューティング・プロバイダーと積極的に協力し、LLMサービスに貢献している。DenglinAI、Vast AI Tech、MetaXのような他の企業は、最初からLLMのための製品を開発しているという。
Moore Threadsのような企業にとって、この動きは、ゲーム・ハードウェアから、より収益性の高いデータセンター・ビジネスへの焦点のシフトを示している。同社は、興味深いことに、このスタートアップはNVIDIAの元グローバルバイスプレジデント兼中国GMのZhang Jianzhongによって設立され、Shenzhen Capital Group、Sequoia Capital China、バイトダンス、テンセントから資金を得ている。
真偽は定かではないが、中国のAI企業、HKUST Xunfeiは、ファーウェイがNVIDIAのA100 GPUに匹敵するAI GPUと、GPT-4と競合するLLMを持っていると主張した。
HKUST Xunfeiの創業者、Liu Qingfengは、ファーウェイと他の中国のAIソリューションプロバイダーと協力していると述べた。具体的なGPUの詳細は不明だが、Liuによれば、このチップはGPT-3やGPT-4のような大規模なLLMを高性能で実行できるとのこと。
半導体業界のリーダーが中国の孤立化は逆効果と警鐘を鳴らす
先週、世界有数のチップ製造装置メーカーであるASMLの最高経営責任者(CEO)のピーター・ウェニンクが、中国に対する新たな輸出規制の可能性について懸念を表明した。オランダのテレビ番組『Nieuwsuur(ニュースアワー)』とのインタビューで、ウェニンクは、中国を完全に孤立させることは逆効果であり、中国はイノベーションを加速させることになると強調した。
ウェニンクの懸念は、珍しいものではない。NVIDIAは8月、米国の中国向けチップのさらなる輸出規制は、世界最大の市場の一つでリードする米国の半導体企業にとって「永久的な損失」になる危険性があると新たな警告を発した。同社CEOのジェンスン・フアンは5月には米国の半導体輸出規制が、中国企業に利していると訴えていた。中国では、莫大な補助金と海外マネーによって、NVIDIAの対抗馬たちが育っている。
脚注
*1:5月時点で、中国には約79のLLMが確認されていた。