Snowflakeの高い株価はどう正当化されているか?

一時100倍をしのいだ株価売上高倍率(PSR)

Snowflakeの高い株価はどう正当化されているか?

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要点

昨年、記録的なIPOを遂げたSnowflake。ビジネスの拡大は計画通り進んでいるものの、一時は100倍をしのいだ高い株価売上高倍率(PSR)は正当化されうるものか?


データウェアハウス企業のスノーフレーク(Snowflake)は、今月初旬に行われたアナリストとの会合で、2029年度Q1(2028年Q1を示す)の製品収益を100億ドルにするという野心的な目標を提示した。そのためには、今後8会計年度にわたって毎年平均40%強の成長が必要となる。

最高財務責任者(CFO)のマイク・スカルペリによると、その時点でスノーフレークはトップラインで30%の成長を維持し、10%の営業利益率と15%以上のフリーキャッシュフローマージンを生み出しているはずだと語った。また、2020年のIPOロードショーの際に発表した到達可能な市場(TAM)810億ドルは10%以上拡大し、現在は900億ドルと見込んでいると語った。

Snowflakeは頑強な顧客基盤を整え、さらに新規の顧客を増やし、十分なキャッシュフローを生み出す堅調なビジネスを築いている。第1四半期の業績は、営業損益が3,580万ドルの損失となったが、収益は2億2,890万ドルと、前年同期比で110%増加し、ウォールストリートのコンセンサス予想である2億1,300万ドルを上回った。同社の業績評価指標である製品収益は2億1,380万ドルで、こちらも110%増だった。同四半期で、SaaS特有の指標である純収益維持率(Net Revenue Retention Rate)は168%をたたき出し、2,300万ドルのフリーキャッシュフローを創出した。製品収益100万ドル以上の顧客数は104社となり、前四半期の77社から増加した。

Snowflakeは、保存されたデータ量と消費されたコンピュートリソースに対してのみ課金するという点が顧客へのアピールポイントとなっているが、顧客ごとに使用量を予測し、将来の使用量を予測するモデリングが適切にワークしていることが、使用量モデルを支えているようだ(Lightspeed Venture Partnersのインタビューを参照)。このような計算を行うための、すぐに使えるモジュールや製品は外部には存在しなかったため、Snowflakeは自らこのシステムを構築した。同社独自のERP(企業資源計画ソフトウェア)が請求書を発行し、使用量の計算はすべてSnowflake内で行う。Snowflakeは毎日収益を再予測している(以下のSnowflake Solutions Architect兼エバンジェリスト、本橋峰明 @mmotohas さんとの Axion Podcast でも触れられている)。

スカルペリによると、Snowflakeは、製品収益100万ドル以上の顧客が増えていくことで、ビジネスが拡大していくと予想しているという。このモデルでは、2029年度までにその規模の顧客が1,400社以上になると予想しており、昨年の77社から増加するという。スカルペリは、これらの大口顧客の平均年間収益は、昨年の340万ドルから550万ドルに増加すると予想し、これらの大口顧客からの収益は、昨年の47%から、2029年度には77%を占めるようになると予想している。

これらの予測を織り込むことによって、Snowflakeの高い株価は正当化されるというのが、スカルペリの論理のようだ。そして、アナリストの中には強気の目標株価を設定するものもおり、あながち、常軌を逸したストーリとは受け取られていないようだ。もちろん彼らがエクセルの外側で、どの程度、クラウドソフトウェアビジネスに精通しているのかは未知数だが。

年初から下落したにもかかわらず、Snowflakeは収益の約81倍で取引されており(PSR81倍)、評価の高いクラウドセクターでは最も高い倍率となっている。12月のピーク時には、Snowflakeの市場価値は1,100億ドルを超えていた。これは、低迷するハイテク企業でありながら、Snowflakeの100倍以上の年間収益を上げているIBM社と同等の水準だったのだ。

スノーフレークに大きなチャンスがあることに異論を唱える人はほとんどいない。同社のデータウェアハウス・ソフトウェアは、ビジネス分析能力の向上を目指す企業から熱い支持を受けている。また、主要なクラウドプラットフォームすべてに対応していることは、1つのプラットフォームに全面的に依存しないことを選択する企業が増えている中で、大きな助けとなっている。

ただそれが、製品収益100億ドル達成となると、不確実性が横たわっているだろう。データウェアハウス(DWH)をめぐる環境がどのようになるか、機械学習とそれを支える半導体技術に強烈なイノベーションが起き、データ分析に人間が関与しなくなり、それを前提としたDWHの必要性自体が消失する、そういうシナリオの可能性はゼロとは言えない。

スノーフレイク (SNOW) の技術的な企業分析
Snowflakeは、クラウド時代に焦点を合わせた、エンタープライズ利用に好ましいデータウェアハウス。今後もRedshiftなどの競合ともに市場を分け合うことになるだろう。
Snowflakeのデータウェアハウスの仕組み
『Building an elastic query engine on disaggregated storage』(Vuppalapati et al. 2020)は、クラウドベースのデータウェアハウス「Snowflake」の背後にある設計上の決定事項について説明している。

Photo by Maxim Hopman on Unsplash

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