米IPO市場の復活、意外な老舗サンダルメーカーがカギを握る?

アームを含むテック企業の上場は、保守的な側面が目立ち米IPOの復活を演出しなかった。新たなバロメーターとして脚光を浴びるのは、250年前に創業したドイツのサンダルメーカーである。

米IPO市場の復活、意外な老舗サンダルメーカーがカギを握る?
ブルームバーグ。

アームを含むテック企業の上場は、保守的な側面が目立ち米IPOの復活を演出しなかった。新たなバロメーターとして脚光を浴びるのは、250年前に創業したドイツのサンダルメーカーである。


いま米国のIPO市場が復活するか否かのバロメーターになっているのは、意外な企業である。独老舗サンダルメーカーのビルケンシュトックである。

誰もが街で見かけたことのあるサンダルを250年作り続けるビルケンシュトックは近年急成長しており、当局への提出書類によると、2020年から2022年の会計年度の間に売上高は71%急増した。今年6月末までの9ヶ月間の売上高は、2022年の同時期と比べて21%成長し、11億2,000万ユーロ(約1750億円)に達した。税引前利益は1億5,420万ユーロだった。

提出書類によると、ビルケンシュトックは、1株44ドルから49ドルの間で少なくとも3,200万株を売り出す計画を明らかにしており、最大で約15億8,000万ドルの資金調達となる。

ビルケンシュトックは、IPOマーケットが1年半の低迷の後、息を吹き返しつつあることを示すもう一つのサインだと見る向きもあるが、アームや食料品配達のインスタカートなどの上場後に見られた株価の乱高下は、投資家心理がまだ非常に敏感であることを浮き彫りにしている。

インスタカート、アーム・ホールディングス、クラヴィヨの上場は、IPOの低迷の終わりを示し、IPOの急増を期待する声も多い。しかし、上場のパイプラインはまだ脆弱に見える。最近のIPOで明確になっている事実は、非上場スタートアップの上場前に当たる「レイターステージ」の投資家が損をしかねないということだ、とブルームバーグのSarah McBrideとKatie Roofは書いている。

最近のテックIPO市況はレイトステージ投資家に火傷を負わせかねない[ブルームバーグ]
インスタカートが9月に新規株式公開を果たした日、同社の時価総額は、投資家が非上場の新興企業だった2021年3月に付けた390億ドルの4分の1に過ぎなかった。それでも、2013年に同社に初めて投資したセコイア・キャピタルは、IPO時に10億ドル以上の株式を保有していた。

例えば、インスタカートのIPO時価総額は、2021年3月の評価額390億ドルよりかなり低かった。この会社の初期に投資したセコイア・キャピタルはIPOで大きな利益を得たが、フィデリティやティー・ロウ・プライスといった他の大手企業は、同社の評価額がはるかに高い時に投資したため、損失に直面した。

来年のIPOの目玉だと考えられているStripe、Klarna、Rampのような非上場企業は、時間の経過とともに企業価値が低下している。例えば、Stripeの評価額は2021年の950億ドルから、最近の資金調達ラウンドでは500億ドルまで下落した。

ベンチャー・キャピタリストたちは、アームやインスタカートのような企業の市場デビューが不透明であることから、金利が安定するまで米国での株式公開計画を遅らせるよう新興企業に助言している、とフィナンシャル・タイムズ(FT)のGeorge HammondとTabby Kinderは書いている。

PitchBookのデータによると、80社近くのIPO候補が残されているが、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に再度利上げを行うことを示唆したため、楽観論は妨げられたという。インデックス・ベンチャーズのマイク・ヴォルピは、FTに対し、早期の上場を余儀なくされない限り、新興企業は来年後半まで待つことを勧めている、と語った。

VCs tell start-ups to delay IPO plans after Arm and Instacart underwhelm | Financial Times
Tech debuts were overshadowed by concern about interest rates, frustrating hopes for a rush of listings

保守的な慣行

特筆すべきは、アームとインスタカートの両社が、大物投資家に株式の一部を購入してもらったことだ。アームの場合はアルファベット、アップル、エヌビディアなどの10社のハイテク企業が約7億3500万ドルを投資した。インスタカートの場合は、ペプシコとノルウェーの1兆4,000億ドル規模の政府系ファンド、ノルゲス・バンク・インベストメント・マネジメント(NBIM)が支えになった。

特にNBIMは、米国のIPOの復活において極めて重要な役割を果たしている。ビルケンシュトックのIPOでも、少なくとも公募株の40%を購入することを約束し、3つの中心的投資家の一つとして注目された(*1)。

このような大口投資家は「コーナーストーン投資家」と呼ばれるが、彼らは会社の経営陣と早期に関わることができ、より多くの株式を割り当てられる可能性があるという利点がある。IPO価格を強化し、希少価値を生み出すこのトレンドは、支持を集めており、2024年まで続くと予測されている。

米IPO復調は脆弱も出口を探すユニコーンは長蛇の列
米株式市場では、大型上場が3つ続き、IPO復活の機運が高まるが、実際の需要は小さいままだ。それでも、ユニコーンたちはこの出口に長蛇の列を作り始めている。

注釈

*1:提出書類によると、ティー・ロウ・プライス・グループの元幹部、ヘンリー・エレンボーゲンが創業したデュラブル・キャピタル・パートナーズが総額3億ドルの購入に関心を示していると説明された。既存株主である仏高級ブランドグループ、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー会長一族の持ち株会社も、最大3億2,500万ドル相当の株式を買い入れる可能性があるという。https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1977102/000119312523233488/d541624df1.htm

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