1991年のソビエト連邦の崩壊後、資本主義が勝ち、社会主義は経済的失敗と政治的抑圧の代名詞となりました。30年後の今日、社会主義は再び流行に戻りました。アメリカでは、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスが、「民主社会主義者」と呼ばれる下院議員として、2020年の民主党の大統領候補者としてもセンセーションをさらいました。英国では、労働党の強硬なリーダーであるジェレミー・コービンが誕生しています。

ミレニアルとは、1980年代から2000年代初頭までに生まれた人を指します。ミレニアル社会主義(Millenial Socialism)は、その世代の人たちの間で広がる欧米を中心とした政治的ムーブメントです。彼らの特徴は、北欧や日本などを見本とした福祉政策と、それから、気候変動への取り組みへの深い関心で説明されています。

現代の社会主義の新たな活力は驚くべきものです。1990年代には、左派政党が「中心」にシフトしました。トニー・ブレアとビル・クリントンは「第三の道」、つまり、「政府と市場の間の調整を見つけた」と主張し、政権を手に入れました。しかし、社会主義者は、経済成長が主に富裕層に恩恵をもたらし、イデオロギーに基づいた支出削減が貧困層を痛みつけている、と感じています(World Inequality Database: WID)。彼らは、経済的不平等がますます大きくなり、ビジネスと政治が密接に繋がり、そこで重要な役割を果たすため、”グローバルエリート”に怒りを覚えているのです。

今日の左派は、「第三の道」を行き止まりとみなしています。新しい社会主義者の多くはミレニアル世代です。2018年の調査会社ギャラップの調査によると、18〜29歳のアメリカ人の約51%が社会主義に対して肯定的な見方をしています。2016年の予備選挙では、ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプを合わせたよりも若い人々がバーニー・サンダースに投票しました。2017年の大統領選挙で24歳未満のフランスの有権者のほぼ3分の1が、ハードな左派の候補者に投票しました。実際には、現代の社会主義者は若い必要はありません。コービンの熱心なファンの多くは、彼と同じくらいの年齢層なのです。

しかし、ミレニアル社会主義者は自由についての独自の考えを持っています。 彼らは既存の自由の保護に満足していません。代わりに、彼らはまだ得られていない自由を拡大し、実現したいのです。彼らは、経済力をより広く普及させることで、より多くの人々が自分の人生で望むものを選択できるようになると言い、そのような能力のない自由はせいぜい不完全である。つまり、彼らは、リバタリアンが好む「政府からの自由」を確保した上で、「政府による自由」によって自由を拡張させることを考えています。

ミレニアル社会主義者は、貧困層の収入を増やし、公共サービスを改善し、排出量を削減する以上のことをしたいと考えています。 また、富と収入を再分配することにより、経済を「民主化」する必要がある、と確信してもいます。

部分的には、これは経済的議論です。賃金はあるが富がないということは、より低い生活水準に落ち着くことを意味します。最近数十年、豊かな国々では、資本の所有者に生じる総利益の割合(利益、賃料、利子の形で)が増加し、労働者に支払われる割合(給料および手当の形で)は低下しました。これは、多くの資本を持っている人々の収入が、何も持っていない人々と異なることを意味します。富の不平等の研究で知られるフランスの経済学者トマ・ピケティが指摘したように、経済の総資本はGDPに比べて増加し続け、富の所有者の優位性をさらに際立たせることになります。

アダム・スミスは、労働者が単に資本主義者の指示に従い、工場のシステムが参加者を「愚かで無知」にすることを心配していました。何よりも政治的自由を重視したジョン・スチュアート・ミルも、資本主義の下では人々は受動的で鈍い賃金奴隷になると予測しました。 彼はさらに多くの協同組合で働くことを望んでいました。スミス、ミルの影響は、無政府主義者の人類学者であるデビッド・グレイバーの『でたらめな仕事(ブルシット・ジョブズ)』のような作品にまで見ることができます。

公共サービスの大幅な増加と同時に経済の一部を購入することは、莫大な費用のかかります。しかし、社会主義者の一部は、「現代金融理論」(MMT)を呼び出してこれを無視しようとします。政府支出の主な制約は、税金や債券を通じてどれだけのお金を調達できるかではなく、 急速なインフレを引き起こすことなく、どれだけ労働力と経済資本を国家が使用できるか、なのです。MMTは具体的な理論的支柱をもたない理論であり、これが社会主義により正当化されることには、ただならぬ危険性があります。

背景

バーニー・サンダースは、ミレニアル社会主義を知るための典型例でしょう。サンダースの主要な政策の1つは超富裕層の財産に対する富裕税(対抗候補のウォーレンの案を支持)です。富裕税は富裕層の経済活動を可視化するための税基盤を構築するための費用がかさむため、現実的ではないと言われています。サンダースは相続税を増やす方針は富裕税よりも好ましいはずです。

富裕税の背後には、UC Berkeleyのエマニュエル・サエズとガブリエル・ザックマンがいます。二人のフランス人の経済学者とトマ・ピケティとの共著論文は、米国の所得上位10%の所得占有率は第二次世界大戦とニューディール政策の影響を受け、1937年頃から急落し、1942~43年頃に最低値に達し、新自由主義的な政策が開始された80年代から上昇し続けていることを示しました。2017年時点で上位10%の富裕層は、課税後、全体の40%弱の所得を得ています。上位1%と下位50%の課税前所得占有率を比較すると、1995年頃上位1%が逆転し、下位50%は占有率を継続的に落としています。

このような社会で社会主義が台頭するのは必然です。数世紀に渡り資本収益率が経済成長率を上回っているこの世界では、若い世代になればなるほど、資本家側にいない所属しない人の割合が増えていきます。そうならば、多数派の非金持ちが金持ちに罰を課そうとする社会主義が台頭するのは、自然な流れなのです。

彼の訴える教育政策はミレニアル世代の心を掴んではなしません。教育政策の概要ですが、畠山勝太さんのブログから引用します。

  1. 高等教育機関で学ぶ授業料をタダにするために毎年480億ドルつぎ込みます
  2. 1兆6千億ドルにも上る全ての教育ローンに徳政令を出します
  3. 貧困層やマイノリティ向けの奨学金を充実させます
  4. 職業教育を充実させます
  5. 低所得層の学生が大学を卒業できるようにする支援プログラムを充実させます

ミレニアル世代は教育ローンと低賃金に苦しんでいます。Northwestern Mutualの調査によると、ミレニアル世代(ここでは23〜38歳と定義)は、住宅ローンを除く平均27,900ドルの個人債務を積み上げています。債務の構成は、クレジットカード債務と教育ローンです。

現行の賃金は好ましい経済力を表現しません。Pew Researchの報告書によると、平均的な給与は40年前と同じ購買力しか持っていません。Schwabの2019 Modern Wealthレポートによると、ミレニアル世代のほぼ3分の2が貯蓄や投資にお金を回せない生活を送っていて、経済的に安定していると感じるのは38%だけです。

増えない実質賃金。給与の額は40年前より大きいが、購買力は40年前とほぼ一緒。Source: Pew Research Center

学生ローンは一生続く足かせになりかねません。ピューリサーチセンターによると、教育ローンの債務がある世帯の数は1998年から2016年にかけて倍増しました。 ミレニアル世代が保有する教育ローン債務の中央値は19,000ドルで、同年齢のX世代の残高12,800ドルを大幅に上回っていました。

日本の若年層と比較すると、米国の若年層は幸福な賃金を楽しんでいるように見えますが、実際には、抱えている債務と生活コストを勘案すると、彼らのバランスシートは真っ赤であり、それを転換できる可能性はなく、人生の大半を債務超過のまま過ごすのです(下手をすると死ぬまで)。

また、住宅問題もまた、大きな衝撃をこの世代に与えています。米国や欧州では、ベビーブーマーが若い頃に住宅を所有し、既得権益に守られるなどの幸運が重なることもあり、住宅価格が高騰し、その恩恵を受けています。これに対して、若年層のミレニアル世代は、教育ローンを抱えたまま、大人になっていくため、高騰した住宅を買うことはかなわないのです。世界中に、非効率な不動産市場のデメリットが蔓延しており、若い人が住宅を購入するための障壁を生み出しているのです。

現代のアメリカでは、メガシティ、あるいはスーパースター都市で、一定の技能を要する職に就くことが、経済的な安定を獲得するための重要な道筋ですが、メガシティの都市圏の主要な住宅地はベビーブーマーとそれに続く世代が占拠しています。購入できる住宅は限られているだけでなく、価格が高騰しています。したがって、ミレニアル世代の住宅所有率は極めて低く、サンフランシスコやシリコンバレーが特に有名ですが、高い賃料で住宅を借りないとならず、「地主」への道のりは閉ざされたものになります。

住宅の所有は、誤った制度だった、という考え方はもはやエキセントリックな無政府主義者の戯言ではなくなりました。英国の経済誌 The Economistは、住宅の所有は西欧最大の経済政策の失敗である、と主張しています。住宅市場は、政治の安定性や、貧困等のさまざまなことに顕著な関連性をもっており、ここを「改築」することで、経済のさまざまな課題に前向きな影響を与えられることを同誌は指摘しているのです。

参考文献

  1. The Economist "Home ownership is the West’s biggest economic-policy mistake".
  2. Gyourko, Joseph, Christopher Mayer, and Todd Sinai. 2013. "Superstar Cities." American Economic Journal: Economic Policy, 5 (4): 167-99.
  3. World Inequality Database: WID
  4. Bernie Sunders. College for All and Cancel All Student Debt.
  5. Drew Desilver. For most U.S. workers, real wages have barely budged in decades. Aug, 2018.