NVIDIAはIntelとの提携で供給拡大を探る

NVIDIAはIntelのファウンドリを使うことに興味を示した。NVIDIAのGPUは長期に渡る供給不足に直面しており、製造体制の多様化は喫緊の課題だ。ただ、IntelはNVIDIAと競合するGPUを設計・製造しており、複雑な提携になりそうだ。

NVIDIAはIntelとの提携で供給拡大を探る
Image by GTC 2022 Spring / NVIDIA.

NVIDIAのCEOであるジェンスン・ファンは、23日に行われたNVIDIAの技術会議「GTC」における記者会見でIntelのファウンドリを使うことに興味を示した。

「我々の戦略は、すべてのレイヤー(層)で多様性と冗長性を持って供給ベースを拡大することだ。チップ層、基板層、システム層、すべての層で、だ。ノードの数を増やし、ファウンドリの数を増やす。だからこそIntelは我々の素晴らしいパートナーとなる」とファンは語った。

NVIDIAのGPUは、ゲーマー、暗号通貨採掘者、転売屋による旺盛な需要によって供給を大きく上回っている。卸売商と転売屋の戦略的行動も加わり、小売価格は上昇を余儀なくされている。GPU不足は非常に悲惨で、購入者は、高度なゲームやグラフィックスを処理できるNVIDIAのGeForce GTX 1080Tiなどの古いコンポーネントにプレミアムを支払っている。これらは2017年に発売されたときよりも高い値段で取引されている。

この状況は、先月モンスター級の利益を計上したNVIDIAにとって問題にはなっていない。とはいえ、このチップ設計者は、ファウンドリを増やし、古いプロセスノードと新しいプロセスノードで製造されたさまざまな部品を出荷できるように製品構成を調整することで、生産能力を高めようとしている。これに対し、Intelは数十億ドルを投じて米国と欧州に先進的なファブを建設している。

「私たちは、使用するプロセスノードの数に多様性を持たせており、より多くのプロセスノードを認定した。我々のチップはこれまで以上に多くのファブで生産されている。過去2年間で供給ベースを4倍に拡大した」とファンは語った。

これは、NVIDIAが複数世代のGPUを同時に販売する計画と合致している。コロナウイルス感染症が流行したとき、同社は、前世代のTuringアーキテクチャと並行して、最近のAmpereマイクロアーキテクチャに基づくGPUの販売に成功した。

NVIDIAのCFOであるColette Kressは今月初め、モルガン・スタンレーのイベントで「(我々は)Turing世代と同様に現世代も販売し続ける機会を得ている」と述べた。「我々は、ゲーマーに多くの供給を提供するためにそれを行ってきた。今後、そのようなことが続くかもしれない」

NVIDIAは自律走行車とメタバースでのサブスクを目論む
NVIDIAはソフトウェアおよびサービス企業として自らを位置付け直し、自律走行車とメタバースの領域において、同社のGPUを使用する人々から定期的なサブスク収益を引き出すことを目論んでいる。

興味深いことに、フアンは、インテルCEOのパット・ゲルシンガーと強い協力関係にあり、それはゲルシンガーが以前VMwareを率いていたときに始まっているという。VMwareはNVIDIAのデータセンター戦略において重要な歯車だ。記者会見でファンは、NVIDIAはIntelをパートナーとして見ていると述べ、ゲルシンガーの下で製造に注力するIntelの戦略は正しい方向性だと付け加えた。

しかし、両者の間には確かな競合性が残っている。Intelはx86チップセットに内蔵するグラフィックスプロセッサを自社で設計するだけでなく、CPU内蔵GPUとディスクリートGPUの境界を曖昧にする取り組みを行っている。NVIDIAのディスクリートGPUを製造するというのは、Intelからすれば「敵に塩を送る」側面がある。

IntelとNVIDIAがともにGPUを作るようになり、両社は今後いくつかの市場セグメントで直接競合することになる。また、ファンは、NVIDIAの秘密をIntelと共有することに潜在する懸念についてもコメントした。

「我々は多くの企業と競争しているが、同時に深く提携し、彼らに依存している。先ほども言ったが、DGXにAMDのCPUがなければ、DGXを出荷することはできない。IntelのCPUと、私たちのHGXに接続されているすべてのハイパースケーラがなければ、私たちはHGXを出荷することはできなかった」

NVIDIAは、TSMCやサムスンと強力なファウンドリパートナーシップを築いており、設計や検証の専門知識を提供して、チップの設計図が製造から出荷に至るまで一貫して確認できるようにしている。最近、ファウンドリ事業を開始したIntelはこの2社を追いかける立場だ。

アップルと同様、NVIDIAもTSMCと緊密に連携している。この2社は、複雑な技術の集合体を束ねてH100 GPUを形成する方法を見つけ出した。800億トランジスタを載せるH100 GPUは、TSMCの4NプロセスとCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)を使用して、HBM3 RAMと演算処理コアを緊密に結合している。

NVIDIAとTSMCの緊密な連携の成果であるH100 GPU。TSMCの4NプロセスとCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)を使用した。
NVIDIAとTSMCの緊密な連携の成果であるH100 GPU。TSMCの4NプロセスとCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)を使用した。

フアンは、Intelがファウンドリ事業者としてアジアの2社と競争するためには、工場を建設する以上に、文化や運営を根本的に変えなければならないと述べた。「TSMCのようなファウンドリになることは、気の弱い人には無理だ」とファンはIntelに言及した。「TSMCは世界300社のオペレーションに対応している。このようなオペレーションチームやサプライチェーンチームと一緒に踊るというのは、気の弱い人にはできないことですが、TSMCは見事にそれをやってのけている」

TSMCは、チップ設計、サプライチェーンロジスティックス、その他の製造ニーズについて、世界中の何百もの企業と密接に協力してきた経験がある、とファンは述べた。Intelはこれまで自分たちのためにチップを作ってきたが、今後は他社と協業する際にTSMCのオペレーションを再現しなければならなくなる。

Embedded Multi-die Interconnect Bridge(EMIB)のイメージ図。シリコンインターポーザーを利用したパッケージングによって1枚の基板に多数のブリッジを内蔵することができ、必要に応じて複数のダイ間で非常に高いI/Oと良好に制御された電気的相互接続経路を提供することができる。出典:Intel
Embedded Multi-die Interconnect Bridge(EMIB)のイメージ図。シリコンインターポーザーを利用したパッケージングによって1枚の基板に多数のブリッジを内蔵することができ、必要に応じて複数のダイ間で非常に高いI/Oと良好に制御された電気的相互接続経路を提供することができる。出典:Intel

製造提携とは、NVIDIAがGPUの設計を、Intel独自のパッケージングのための3D積層チップ技術「Foveros」や、パッケージ内の処理ブロックの高速通信リンクであるEMIBを含むIntelの高度なプロセス技術に合わせる必要があることを意味している。

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