Qアノンがたった3年で全世界に広まった理由: 共同幻想を促進するゲーミフィケーション

QAnonのプロセスでは、信奉者たちに「謎のQ Drop」が発表されるたびに、「パズルを解いて」「自分自身で調査をする」ように促している。潜在的な信者はゆっくりとQAnonの世界観に引き込まれ、さまざまな事象との関連性を自ら構築することで、共同幻想を信じるようになる。テロリストの細胞やカルトが新しいメンバーを募集しようとする方法に似ている。

Qアノンがたった3年で全世界に広まった理由: 共同幻想を促進するゲーミフィケーション

Facebookは先週、陰謀論運動の台頭を阻止するために批判者がロビー活動を行った後、そのプラットフォームからすべてのQアノン(QAnon)グループとコンテンツを禁止すると発表した。しかし、この動きは、わずか3年でよくあるインターネット陰謀論のひとつから政治の主流へと移行した危険な世界的グループを抑制するには遅すぎたかもしれない。

誤情報検知サービスを展開する新興企業Blackbird.AIは最近「The Global QAnon Phenomenon Phenomenon」と題した報告書を発表した。このレポートは、FacebookやTwitterのようなソーシャルメディアのプラットフォームの役割を強調しているが、QAnonの陰謀論の集合体に多くの人々が誘惑されることを可能にしてきた根本的な社会状況も指摘している。

Blackbird.AIのCEOであるWasim Khaledによると、このグループは、宗教的な熱情を持ってそれを受け入れる脆弱な信者を引き込むので、勢いを増し続けている。Khaledは「QAnonは単なる陰謀論者や、自分たちの世界を説明するためにデマを広める人々のグループではない。彼らはおそらく、『クラウドソーシングされたカルト教団』の最初の例として知られている」と述べている。

2014年に設立されたBlackbird.AIは、人工知能を使って大量のコンテンツをふるいにかけ、ディスインフォメーション・イベントを解剖するプラットフォームを開発した。それは、機械学習と人間の専門家を組み合わせて、ソーシャルメディアやニュースサイトを横切って流れる情報の種類を識別し、分類する。そうすることで、Blackbird.AI はボットによって作成された情報を人間が作成したコンテンツから分離し、それがどのように増幅されているかを追跡することができる。

報告書の中で、同社はイギリス、ドイツ、ブラジルでの陰謀論と抗議活動がどのように交差しているかを探った。これらの地域を越えて、QAnonは、反マスクデモ、子供の人身売買の陰謀、ホロコーストの否定、新型コロナに関する誤情報など、様々な問題に自分自身を結びつけている。

このグループがBlackbird.AIのレーダーにヒットしたのは、同社がTwitter上で「#WWG1WGA_WORLDWIDE」と「#WWG1WGA_GLOBAL」というハッシュタグを追跡し始めた2020年5月中旬のことだった。このハッシュタグはQAnonのスローガン「Where We Go One, We Go All」(我々がひとつになる場所に皆で行こう)の頭文字となっている。

FBIはQAnonを国内のテロリストの脅威とし、現実の生活の中で暴力的な手段を取るように人々を扇動する能力があるとしている。米国下院は最近QAnonを非難する投票を行った

それでも、QAnonの熱烈な支持者であるマジョリー・テイラー・グリーンは先日、ジョージア州の下院議員選挙で勝利した。グリーンはQAnonの支持者が表現する反ユダヤ主義、反イスラム主義、扇動的な表現の信奉者の典型だが、彼女は運動との関わりを避けようとしている。

彼女は2018年の中間選挙の結果について「イスラム教徒による私たちの政府への侵略」と表現し、イスラム教徒が米政府で奉仕することに反対してきた。彼女は、ブラック・ライブズ・マター(BLM)の活動家をクー・クラックス・クラン(KKK)に例えている。彼女は「今日、米国で最も虐待を受けているのは白人男性である」と語ったことがある。「ジョージ・ソロスと民主党は私を倒そうとしている」と発言したこともある。彼女はまた「シオニスト至上主義者」は、ヨーロッパ大陸の白人人口を減らすために、ヨーロッパに移民を殺到させようと計画している、と語ったこともある。

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米下院議員に当選した、QAnonの熱烈な支持者であるマジョリー・テイラー・グリーン。Image via Marjorie Taylor Greene For Congress (@mtgreenee)

Blackbird.AIの「3年前には、QAnonは本質的にある種の過激派で下品なメッセージボード上の理論だった」とKhaledは言う。「そして、QAnon陰謀の確固たる信奉者である議員候補者がいるという転換点に達するまでには、たった3年しかかからなかった」

すべての陰謀論を自分たちの「理論」に統合する

QAnonは陰謀論のハブのようなもので、反ワクチンのアイデアから気候変動の懐疑論まで、あらゆるものにくっついて人々を動員し、より大きな陰謀論の枠に当てはまるようになっている。個々のトピックは区別されているかもしれないが、国家深層に潜む陰謀組織や秘密組織が裏で全てを操っているというストーリーがすべての陰謀論をQAnonのもとに統合するのに役立っている。COVID-19は、人々が自由、統治、公共の安全についての疑問を抱く機会を提供し、増えたデジタルデバイスの利用時間が人が無意識に陰謀論に染まるのを促進した。

QAnonは古典的なカルトとは異なり、信者を引き付けるための哲学を定義するカリスマ的なリーダーが一人もいない。

Blackbird.AIの報告書は、人々が持っている本当の社会的・政治的な懸念があり、それが彼らをこれらの信念体系に導いている、と主張している。これらの人々は自分達の権利を失い、無力であると感じてきた人々だ。オピオイドやアルコールなどの濫用で死を選ぶ「絶望死」を遂げる人々や、ラストベルトのような産業の発展から取り残された「ヒルビリー」(田舎者)のような人たちにとって、すべてを陰謀に結びつけるQAnonはとてもわかりやすい世界の説明である。QAnonの活動家はこのような経済格差や社会の荒廃を利用している。

オルタネイト・リアリティ・ゲームとの類似性

QAnonが奨励している陰謀のゲーム化は、このプロセスの中心となっている。このプロセスでは、信奉者たちに「謎のQ Drop」が発表されるたびに、「パズルを解いて」「自分自身で調査をする」ように促している。そうすることで、潜在的な信者はゆっくりとQAnonの世界観に引き込まれ、さまざまな事象との関連性を自ら構築することで、共同幻想を信じるようになる。テロリストの細胞やカルトが新しいメンバーを募集しようとする方法に似ている。

ゲームデザイナーのエイドリアン・ホンは、Qanon は、プレイヤーがオンラインやオフラインで手がかりを追いかけて謎を解いたり、さらに多くの手がかりを発見したりするオルタネイト・リアリティ・ゲーム(ARG: 代替現実ゲーム)に似ていると主張している。これは、プレーヤーはインターネットのサイトに表示される問題を解いたり、実世界にちりばめられたヒントを探して情報を共有しながら答えを探すゲームを指す。

ゲーム会社Six to Startの最高経営責任者であり、ARGのデザイナーでもあるホンはニューヨークタイムズ紙のインタビューに対し、「ARGは、インターネットやウェブサイト、現実世界のインタラクション、新聞の広告、スマートフォンのアプリなど、可能な限り没入感のあるストーリーを作るために手に入るあらゆる媒体を取り入れる。私がQAnonとのパラレルを見たのには、2つの理由がある。QAnonは21世紀特有の陰謀論である。他にもあったが、QAnonは『4chan』や『8chan』(日本の『2ちゃんねる』インスパイアの掲示板サイト)のようなフォーラムで生まれたもので、人々が最初は純粋にオンラインで交流していた。しかし、その効果は現実世界にも波及し、まるでARGのようなものだ」と述べている。

インターネットの中からQAnonを発見した人のほとんどが、「私は自分自身でリサーチをした」というような言葉を使っている。研究とは、基本的にはグーグルに入力することだが、そうすると、彼らは、秘密戦争や陰謀、ヒラリー・クリントンが物事をコントロールしているという魅惑的なファンタジーの世界を開き、不可解に感じることや世界について間違っていると感じることのための便利な説明に魅了されてしまう。

「ARGゲームに惹かれる人の中には、ある種のタイプがいて、彼らは非常に熱心だ。彼らは殺人ミステリーやクロスワードパズルが好きなのと同じように、謎解きが好きなのだ。私はそれをゲームデザイナーとして応援している。1000人に1人しか解けないような超難問を提供している。そして、それを解くことができた一人の人がヒーローのように感じられるのだ」とホンは指摘している。

「これはQAnonにも当てはまる。多くの人が世界から疎外され、取り残されたと感じている。QAnonにはARGのように、自分が何者であるかのために報酬を与え、人々を巻き込んでいくようなものがある。ARGは人々が自分の『研究』スキルを披露できるコミュニティを作り、その人々はコミュニティにとって信じられないほど価値のある存在になる」。

ただし、QAnonにはSNSの特性を生かしたユニークな特徴がある。古典的なゲームや物語では、書く人やデザインする人と遊ぶ人の間には明確な違いがある。QAnonでは、安定したアイデンティティを持ち、頻繁に種を蒔く人物「Q」がいる。しかし、QAnonの大宇宙には、Qという人物と密接に関係している多くの理論が存在する。もしQが永遠にコンテンツを投稿しなくなっても、コミュニティの多くの人々が本質的に自分たちの理論やストーリーラインを構築し、自分たちの大規模なフォロワーを生み出しきた経緯を考えると、それは自走し続けるだろう。

このようなコミュニティには、ダーウィン主義的なプロセスがある。膨大な数の人々がアイデアを持ち、多くのフォーラムで投票や共有が行われている。1,000の理論のうち999の理論は全くの無茶苦茶だが、1つはヒットする可能性がある。それは、荒唐無稽な憶測の上に築かれた共同のフィクションであり、それが次第に彼らの中の現実として固まっていくのだ。

「自分で研究しろ(Do your own research)」は、多くのQAnon信者のマントラだ。これは、QAnonが自由思想家の巣窟からの脱却を助けてくれるという考えだ。彼らの研究は、民主党の政治家や有名人のほとんどが人食いの小児性愛者であるという結論に必然的に導くことになる。

Photo: "File:Ask Me Q - QAnon - Minneapolis Trump Rally (49113614347).jpg" by Tony Webster from Minneapolis, Minnesota, United States is licensed under CC BY 2.0

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