「両面市場(Two-Sided Market)」とは、属性の異なるグループが存在し、両者が取引することで利益を得ることができ、かつその取引に必ず仲介者が存在する市場を指します。テクノロジー企業の文脈では、仲介者がいわゆる「デジタルプラットフォーム」に当たる(日本では「プラットフォーマー」という和製英語が一般的)。他にも「両面マーケットプレイス(Two-Sided Marketplace)」「両面プラットフォーム(Two-Sided Platform)」等は両面市場のひとつの類型である。

ボストン大学の経済学教授であるMarc Rysmanによると、両面市場の定義は以下の2点を満たすことだ。

  1. 2つのエージェントが仲介者やプラットフォームを介して相互に作用する
  2. 各エージェントの決定が他のエージェントの結果に影響を与える、外部性を介した市場

各エージェントにとってのメリットが生まれるには、両面市場が一定の「規模の経済」を達成していることが必要条件になる。例えば、消費者は、より多くの加盟店が発行するクレジットカードを好み、加盟店はより多くの消費者が発行するカードを好む。

両面市場は、VHSとベータの間の競争や、プレイステーションとセガサターンのような「プラットフォーム」の戦いにおいて「鶏と卵の問題」を分析するために特に有用である。また、一方のユーザーグループが他方のユーザーグループを引き付けるためにプラットフォームを無料で利用できるようにする、多くの無料価格設定や「フリーミアム」戦略の説明にも有用である。

両面市場は情報通信、メディア、決済システム、マッチング市場のジャンルで頻出する。近年の成功しているテクノロジースタートアップはしばしば何かしらの形で両面市場の性質を持っているのだ。

成功を収めた「マーケットプレイス」には両面市場が多く含まれる。American Express、PayPal、eBay、Uber、Facebook、iPhone、WhatsApp、Netflix、Amazon、およびYouTubeはすべて、Two-sided marketplace と見なすことができる、とSequoia Capitalのブログは指摘する

近年最も注目された両面市場であるUberには、片方の側に乗客があり、もう片方に運転手があり、この両者のコミュニケーション、取引、サービスの提供を通じて価値が創造されている。Uberの乗客と運転手はプラットフォームなしでは取引が難しく、そこをモバイルアプリで仲介することに同社がの価値があると考えられている。

1. ネットワーク効果

両面市場に働くネットワーク効果は2種類ある。ひとつは需要が新たなる需要を呼び込む、あるいは供給が新たなる供給を呼び込む「Same Side Network Effect(同じ側のネットワーク効果)」であり、もうひとつが需要の増加が供給側を魅了し、供給側の増加を引き起こす、あるいは供給の増加が、需要側を魅了し、需要の拡大を引き起こす「Cross-Side Network Effect(クロスサイドネットワーク効果)」である(図1)。これらが成功した両面市場の飛躍的な成長を支えたと説明されている。

図1. Axionのマーケットプレイスにおける両面市場の構造と、「Same Side Network Effect(同じ側のネットワーク効果)」と「Cross-Side Network Effect(クロスサイドネットワーク効果)」。Source: 株式会社アクシオンテクノロジーズ事業計画書

ネットワーク効果には様々な類型があるが、インターネットの黎明期にはOSの市場シェアのように「直接的ネットワーク効果」で競争の優劣が決まる傾向があった。だが、プラットフォーム型事業が浸透すると、モバイルOSと互換性のあるアプリケーションの品揃えのように「間接的ネットワーク効果」の方がユーザーへの影響力をもつようになった。

両面市場に複数の競合プラットフォームが含まれる場合、複数のそのようなプラットフォームに所属するユーザーの状態は「マルチホーミング(Multihoming)」と呼ばれる。 たとえば、消費者が複数の銀行ネットワークのクレジットカードを持ち歩いたり、2つの異なるオペレーティングシステムに基づくコンピューターを使用し続けたりすることを指す。この状態は、所属プラットフォームを確立および維持するために発生するすべてのネットワークユーザー費用を含む「ホーミング」コストの増加を意味する。

これは裏返して考えると、すべての需要側がひとつの両面市場のみを利用することが最も効率的であり、だからこそ、この両面市場が形成されるビジネス領域はウイナーテイクオール(勝者総取り)の傾向を帯びやすいとも言える。ただ、現実にはプラットフォームは必ずしもひとつに収斂するわけではない。ライドシェアを見れば、アメリカにはUberのほかにLyftが存在するし、インドネシアにはGo-Jekの他にGrabが存在する。

両面性のある市場では、価格をマイナスにする(キャッシュバックキャンペーンなどでお金を需要側に返す)こともありうる。間接ネットワーク効果を通じた他のビジネスからの収入を合算した場合、必ずしもその両面市場の仲介から設ける必要がなくなるため、価格をマイナスにすることが合理化されるケースがある。また競争相手を市場から追い出したほうが、より大きなネットワーク効果を楽しめる可能性がある場合も、プロモーションや助成金などで価格を売上原価よりも低く設定する戦略をとるプレイヤーはたくさんいる。

ネットワーク効果を得るために初めのうちは多額の費用を負担してでも両面市場の規模を追求することは現実のビジネスではよくある。家庭用ゲーム機の競争では、ハードをとても安く売ることで、ユーザーとソフトメーカーによる両面市場の規模を増やし、ネットワーク効果を高める戦略をセガ、任天堂、ソニーはとっていたし、GoogleやFacebookは製品を無料で使えるようにし、最終的にはユーザーと広告主のマッチングでお金を稼ぐようにしたのだ。

流動性ネットワーク効果

Uberは、新規株式公開(IPO)を行うために、米証券取引委員会(SEC)に提出するフォームS1で、「流動性ネットワーク効果(liquidity network effect)」を引き起こすことが彼らの両面市場における戦略である、と説明している。これは、①より運転手の供給を増やすことにより、②待ち時間や価格を低くすることができる、③これが乗客の拡大を促し、④運転手の収益性を改善することで、⑤よりたくさんの運転手が惹きつけられる――というモデルである。

Uberはこの流動性ネットワーク効果を促すために、ドライバーや消費者向けのプロモーションのようなインセンティブを使用して、ネットワークの両側にある需要と供給を惹きつける戦略を実行してきた。インセンティブを削減するのに十分な規模に達するまで、赤字になる可能性があるが、より大きなネットワークを持つ事業者は、より小さなネットワークを持つ事業者よりも高い利益率を持つと考えられる。競合がテイククレート(運転手から徴収する手数料)やインセンティブに変更を加えたときなどの限定的な状況では、自社のネットワークに影響が及ぶ、と同社は説明している。

図2. 流動性ネットワーク効果(liquidity network effect)①運転手供給増加、②待ち時間や価格の低下、③乗客需要拡大、④運転手の収益改善、⑤運転手供給増加のモデル。Source: UBER TECHNOLOGIES, INC. FORM S-1 REGISTRATION STATEMENT

2. 両面市場のプライシング

Rysman教授が指摘しているように、需要側と供給側の両者の取引を調整するメカニズムのなかで重要なもののひとつは「価格」である。ここでは最も新しい価格設定アルゴリズムを実行するUberとAirbnbの例を参照することにする。

Uberの「サージプライシング」

Uberは価格調整メカニズムに優れているとされ、需給状況に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」を採用している。Uberは乗車の需要がその地域の運転手の供給を超えたときに乗客への料金を引き上げることはよく知られる。このような価格戦略を含んだ両面市場は航空券、ホテル、スポーツイベントのチケットなどに適用されているが、Uberのような配車事業への適用は新しかった。

Uberの他、Lyft、Didiのようなライド・へイリング・マーケットプレイスは、毎日何百万人ものライダーとドライバーをマッチングさせている。Uberは「サージ(高騰)」と呼ばれる価格設定メカニズムを採用する。乗客側にとっては、サージプライシング(あるいはダイナミックプライシング)は、利用可能なドライバーのレベルに合わせて需要を減らし、マーケットプレイスの信頼性を維持することにつながり、最も高い価値を持つ乗客に車を割り当てることに役立つ。

ドライバー側にとっては、サージは特定の時間帯や場所での運転を奨励し、ドライバーはサージの間、より多くの収入を得ることになる。このような効果のため、サージプライシングは、マッチング技術とともに、多くの場合、ライドシェア・マーケットプレイスが、ドライバーの利用率や全体的な厚生を含む多くの指標において、従来のタクシーサービスを上回る主な理由と考えられている。

しかし、可変的な価格設定は(空間と時間を超えて)慎重に設計されなければならない面もある。このような価格の動きは、戦略的なドライバーの収益を増加させ、他のドライバーを犠牲にしうるからだ。あるドライバーが拒否した「損な乗車」を、他のドライバーが不釣り合いな形で受けいれないといけない可能性がある。また、プラットフォーム全体の信頼性を低下させ、乗車を受けるまでに長く待たなければならないかもしれないため、乗客に不便を強いることにもなりえる。

また、Uberの値付け(プライシング)は人によっても異なると言われているが、これも乗客に不公平を感じさせることがある。サービスを頻繁に利用している顧客に、平均的な価格よりも高めの料金を設定するケースがあること、Uber利用者が独自に調査し、主張したこともあった。価格設定アルゴリズムが、習慣的にサービスを利用する人に対しては、「その人の価格弾力性が低い」と判断し、値上げに踏み切っている可能性がある。

Airbnbの「スマートプライシング」

Airbnbでは、市場のダイナミクスがゲストとホストをマッチングする上で重要な役割を果たしている。需要と供給は、場所やチェックイン日、チェックインまでのリードタイムの違いによって大きく変化する。ホストとゲストのより良いマッチングを見つけるためには、これらの空間的・時間的な傾向を理解し、予測することが重要になる。

Airbnbでは、リードタイム(ここでは物件の予約から利用までの時間)の分布を学習することが、価格設定システムに電力を供給するのに役立っている。Airbnbは、ホストが最適な価格を設定し、収益を最大化するのに役立つ「スマートプライシング」という価格設定システムを構築。これらのツールは、いつの予約にも対応できる価格提案を行うために、需要、供給、個々のユーザーがリストに入れている物件などのような要因を考慮に入れている。しかし、予約日がチェックイン日に近づくにつれて市場の状況が流動的に変化するのが一般的で、その結果、これらの変化を考慮し、ホストが市場の状況に合わせて最適な価格を維持できるようにすることが重要になっている。

例えば、大晦日のような需要の高い夜は、他の時間帯に比べて事前予約が多い傾向にある(つまり、リードタイムが長い)。この情報は、大晦日の適切な価格を設定するのに役立つ。同様に、場所もこの点で大きな役割を果たしている。供給が制限されている市場では、サウスビーチやマイアミのようなホリデー市場と比較して、チェックインよりも先に予約が入ります。スマートプライシングは、チェックイン日と場所ごとに到着プロセスを学習することで、この「早期の需要」を把握し、チェックインが近づくにつれてホストが最適な価格を更新できるような価格設定ポリシーを生成してくれる。また、Airbnbは潜在的な宿泊者に、いつまでに事前予約すべきかを伝えてもいる。

3. マッチング

もうひとつ、両面市場をうまく働かせるために必要なのが、マッチングだ。ノーベル経済学受賞者の経済学者アルビン・ロスによると、マッチング市場とは、"価格がすべての仕事をしない市場 "のことだそうです。 つまり、マッチングは、人々が異なる種類の財に対して異なる選好を持つことができる方法をもたらすことができる。それは、それぞれの人が、マッチング市場では、異なる好みの宿泊場所、リサイクル品、デート相手を探すことができることを意味する。

ただし、マッチングのあり方はテクノロジー製品ごとに細やかな違いを持っている。ここでは、サービスプロバイダー側がマッチングの決定を下すUberを例にとってみよう。Uberにおけるマッチングとは、利用可能なドライバーを派遣して乗客をピックアップするプロセスを意味する。

Uberのデータサイエンスチームは、サージプライシングとダイナミックウェイティング(DW)を共通付ながら最適化することで、価格変動を低減できることに気がついた。DWでは、乗客が乗車をリクエストをした後、「ウェイティングウィンドウ」(以下、待機ウィンドウ)と呼ばれる一定の待ち時間の間、ドライバーとのマッチングを待つ。

この待機ウィンドウは、出発地と目的地がお互いの徒歩半径内にある2つ以上のリクエストを相乗りさせようとするために使用される。待機ウィンドウは市場条件によって動的に決定される。たとえば、供給が制約されると、待機ウィンドウは増加する。このメカニズムには2つの効果がある。

第一に、マッチングされる前に乗客に待機を求めることで、マッチングの対象となるリクエストのプールが厚くなり、その結果、プールマッチング率(プールマッチングされたリクエストの割合)が高くなり、ドライバーが各乗車で相乗りを達成できる機会が増えるため、生み出せる乗車数の合計数が向上する。あえて、乗客をまたせることで、アルビン・ロスが「市場の厚み」と呼ぶものを生み出すことができる。

第二に、これは乗客の待ち時間を増加させ、需要を抑制します。これら2つの効果を合わせて、需要と供給のバランスを維持し、混雑を緩和できる。

さらに、Uberのデータサイエンスチームは、サージプライシングとDWを組み合わせることで、価格とその変動性を低減し、キャパシティ利用率、乗車合計数、厚生を向上させることができることを示した。最も重要なことは、チームがダイナミックプライシングとマッチングアルゴリズムを共通させて設計することができることを示したことだ。

サービスプロバイダーの指示通りの経路を運転するUberドライバー。配車の価格設定とマッチングの決定はリアルタイムで実行される。通常、提示される価格は1秒以内に生成され、マッチングは数秒以内に生成される。Photo by Dan Gold on Unsplash

マッチングとダイナミックプライシングのアルゴリズムは、サービスプロバイダーと消費者をつなぐ他の多くのオンラインプラットフォームでも活用されている。いくつか挙げてみよう。家事や家事プロジェクトのためのTaskRabbit、EコマースのためのeBay、駐車場のためのSpotHero、コンサートやスポーツの試合チケットのためのStubHub、カーシェアリングのためのTuroとGetaround、ホスピタリティサービスのためのAirbnbなどがある。これらのサービスは配車とは異なり、レコメンデーションシステムを介してマッチング提案や価格案内を行うが、最終的な決定はプラットフォーム上の参加者が行う。

食品や食料品のデリバリープラットフォーム(UberEats、Instacart、Grubhubなど)は、配車プラットフォームとより類似しているが、サービスの緊急性が低いため、派遣にかかる時間や柔軟性が高い。乗客とドライバーは時間に敏感であるため、配車の価格設定とマッチングの決定はリアルタイムで解決する必要がある。例えば、Uberでは、通常、提示される価格は1秒以内に生成され、マッチングは数秒以内に生成される。

4. マッチングを改善する検索と推薦

Uberのようなサービスプロバイダーが自動的にマッチングを決定するものは、両面市場では少数派に類する。需要側がマッチングへの最終決定権を握る形の両面市場では、マッチングの精度を高めるために検索と推薦システム(レコメンデーションシステム)が重要な役割を果たしている。

Airbnbは検索機能を常に改善しており、反復するたびに驚異的な進歩を遂げている(図1)。Airbnbは何百万件もの検索と予約に関するデータを持っていますが、各ロケーションは年間最大でも365日分しか予約できないため、個々の物件の予約データは比較的疎かです。

図3. 適用するモデルを変更するごとにパフォーマンスを向上させていくAirbnbの検索。Source: Malay Haldar et al. "Applying Deep Learning To Airbnb Search"

これを補うために、検索アルゴリズムには、価格、場所、アメニティ、内装などの単純な入力だけでなく、潜在的なゲストがさまざまな物件を見て過ごした時間の長さや、過去のホストの行動に基づいてホストがそのゲストを受け入れる可能性などのより複雑な入力も含めて、200以上の要素が組み込まれている。

たとえば、ゲストがAirbnbを利用すると、Airbnbのカタログに掲載されている複数の物件を閲覧し、予約する物件を選択する可能性があるが、ゲストの購入までの経路を追跡することで、ゲストの配慮や好みをより深く知ることができる。複数のゲストの購入経路の中で2つの物件が頻繁に表示される場合、それらはゲストが共通の好みを持っているとし、それをレコメンド結果に反映する。例えば、スキーリゾートとして有名なタホ湖西岸の物件群は、Airbnbでの滞在を希望するスキー愛好家の検索セッションでも、しばしば同時に表示される、という具合だ。

Airbnbのデータサイエンティストは、アルゴリズムのテストと更なる改善のために自動化された機械学習を一貫して使用しており、2018年には、ニュートラルネットワークを活用した新しい検索アルゴリズムを発表し、これまで以上に効果的で効率的なレコメンデーションを提供している。

関連記事

参考

  1. Marc Rysman. The Economics of Two-Sided Markets. Journal of Economic Perspectives—Volume 23, Number 3—Summer 2009—Pages 125–143.
  2. 黒田敏史、「市場の両面性と経営戦略」、東京経済大学
  3. Sharan Srinivasan. "Learning Market Dynamics for Optimal Pricing" Airbnb Engineering & Data Science Blog. Aug 11, 2018.
  4. Mihajlo Grbovic, Haibin Cheng. Real-time Personalization using Embeddings for Search Ranking at Airbnb. KDD 2018.
  5. Jeff Feng, Erin Coffman & Elena Grewal, “How Airbnb democratizes Data Science with Data University,” May 24, 2017.  accessed November 2018.
  6. Hamid Nazerzadeh, Nikhil Garg. Driver Surge Pricing. SSRN. May 18, 2019.
  7. Jonathan V. Hall, Alan Krueger. An Analysis of the Labor Market for Uber's Driver-Partners in the United States. NBER Working Paper No. 22843 Issued in November 2016.
  8. Nikita Korolko, Dawn Woodard, Chiwei Yan, Helin Zhu. Dynamic Pricing and Matching in Ride-Hailing Platforms. SSRN. October 1, 2018.
  9. Malay Haldar et al. Applying Deep Learning To Airbnb Search. Airbnb Inc.
  10. Sequia Capital "Two-Sided Marketplaces and Engagement