百数十億ドルを溶かしたWeWork、死期が近いか?[吉田拓史]

世界的なオフィス需要減衰のさなか、オフィスサブリース企業のWeWorkは延命策を見つけられないでいる。ソフトバンググループ(SBG)から百数十億ドルを吸い取ったゾンビ企業は、生死の狭間にいる。

百数十億ドルを溶かしたWeWork、死期が近いか?[吉田拓史]
UnsplashP. L.が撮影した写真

世界的なオフィス需要減衰のさなか、オフィスサブリース企業のWeWorkは延命策を見つけられないでいる。ソフトバンググループ(SBG)から百数十億ドルを吸い取ったゾンビ企業は、生死の狭間にいる。


シェアオフィス・スペースのパイオニア的存在であるWeWorkは、大きな困難に直面している。再建のために2020年に採用されたサンディープ・マトラニCEOは先月辞任した。

ニューヨーク・タイムズの報道によると、同社には、アダム・ニューマン元CEOから、同社を安定させるための大規模な投資と戦略的イニシアチブについて話し合うという申し出があったが、マトラニはこれを拒否。ワークスペース・プロバイダーのIWGと不動産ブローカーのJLLもWeWorkとの運営契約に関心を示したが、WeWorkの筆頭株主であるSBGによって阻止されたという。

WeWorkの株価は現在わずか23セントで、史上最安値をわずかに上回っている。社債価格も下落している。同社の選択肢は絞り込まれ、現在では倒産も視野に入っている、とニューヨーク・タイムズは書いた

3月、WeWorkは債務の一部を再編成し、黒字化を目指す時間を増やした。しかし、信用格付け会社S&Pグローバル・レーティングスは、WeWorkに債務不履行がほぼ確実であることを意味するCCを付与していたが、5月には「選択的債務不履行(債務の一部について利払いや元本返済を停止した状態)」に陥っている企業を対象とするSDに格下げする措置をとった。

S&Pは債務編成を、貸し手が当初約束した額よりも少ない額を得ることになるため、「債務不履行に等しい」とみなした。例えば、WeWorkは4月、サンフランシスコの自社ビルを所有する合弁会社が抱えていた2億4,000万ドルの負債を不履行にしていたが、オフィスビルのバリュエーションが急落し、空室率が拡大する中では、貸し手はビルを差し押さえても元本を取り戻せる可能性が薄い。

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コワーキングスペースの興隆と衰退

コワーキングスペースはこの数十年急成長してきた。カリフォルニア大学アーバイン校のビジネススクールで戦略を教えるトラビス・ハウエル助教授の調査によると、2008年には世界中に約160しかなかったコワーキングスペースが、2018年には19,000近くになった(下図)。

図1. 世界のコワーキング・スペース数と会員数(年度別)。出典:Travis Howell (2022).
図1. 世界のコワーキング・スペース数と会員数(年度別)。出典:Travis Howell (2022).

しかし、パンデミック後、企業はリモートワークやハイブリッドワークなど、労働者の柔軟性を優先する方向にシフトしている。そのため、企業はオフィスへの回帰を軽んじるようになり、遊休オフィスを解約したり、ハイブリッドワーク用に設計し直したりすることが多くなった。

先月、Flex Indexが調査した4,000社のうち28%が、オフィスがない、または社員が対面勤務か遠隔勤務かを決めることができるなど、完全にフレキシブルな働き方を採用していた。

オフィススペースのニーズは、物理的なワークスペースに対するニーズが全般的に低下しているため、悪化の一途をたどっている。スワイプカードシステムを運営するKastle Systemsによると、企業が借りているオフィスを利用する人の数は、パンデミック前の水準からおよそ50%減少しているという。

オフィスを含む商業用不動産(CRE)の世界的な苦境は、サブプライムローン危機と比較され、次の世界金融危機を引き起こしかねないという見方もあるほどだ。

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不死身のお騒がせ男

孫正義とともに百数十億ドルを溶かした悲劇の主人公である、アダム・ニューマンは、新たな不動産ビジネスを開始し、孫のファンドの金主だったサウジアラビアに接近している。不動産ビジネスの投資家のベンチャーキャピタルもまたサウジの出資を受け取っている。ニューマンの新ビジネスFlowは「WeWorkの住宅版」という。彼は、今後も目を離せない存在になりそうだ。

参考文献

  1. Travis Howell, Coworking spaces: An overview and research agenda, Research Policy, Volume 51, Issue 2, 2022, 104447, ISSN 0048-7333, https://doi.org/10.1016/j.respol.2021.104447.

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By 吉田拓史