クルーズが安全性問題で苦境、ウェイモ独走か 自動運転タクシー

ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズは、相次ぐ事故によりロボタクシー事業を一時停止した。ライバルが躓いている間にアルファベット傘下のウェイモは着々とリードを広げているようだ。

クルーズが安全性問題で苦境、ウェイモ独走か  自動運転タクシー
クルーズは最近、ホンダとの提携による日本への事業拡大計画を発表して話題となった。専用車両オリジンは2026年に東京に導入される予定で、10月のジャパンモビリティショーでもホンダブースで展示されていた。撮影:吉田拓史

ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズは、相次ぐ事故によりロボタクシー事業を一時停止した。ライバルが躓いている間にアルファベット傘下のウェイモは着々とリードを広げているようだ。


8月、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)から、クルーズとウェイモに対し、サンフランシスコでのドライバーレス運行に対する課金が許可された。クルーズは米国内の複数都市への拡大を加速し、フェニックス、オースティン、ヒューストン、ダラス、マイアミで何百台もの自律走行車(AV)を稼働させた。

ロボタクシーがネオ・ラッダイトの瞬間を迎える:導入都市数は着々と拡大
自律走行車(AV)を利用した無人タクシーである「ロボタクシー」が、感情的な反対とも言える「ネオ・ラッダイト運動」の瞬間を迎えている。米国での展開都市は拡大しており、長い助走の末、普及局面にたどり着いた。

しかし、一連の事故を受けて、同社は非難される立場に追い込まれた。先月、カリフォルニア州の規制当局は、サンフランシスコで発生したセンセーショナルな事故の調査を進め、その結果、クルーズのロボタクシー運行を一時的に停止させた。その事故では、歩行者が人間によって運転されていた車にはねられ、分離帯を越えてクルーズの車両の前に転落し、車両はブレーキをかけたものの歩行者を数メートル引きずったと報じられている。クルーズは、非難を恐れてか事故映像の一部しか当局に提出せず、これが不興を買った。この事故の責任がクルーズによるものかはまだ不明だが、人々を恐怖に陥れる要素は十分に含まれていた。

クルーズはその事故の数日後に、アメリカ国内での全車両のドライバーレス運行を一時的に停止した。この事故を受けて、クルーズの取締役会は、評判の高い法律事務所であるクイン・エマニュエルに依頼し、規制当局の調査に対する経営陣の対応を見直すことを決定した。また、クルーズは、その技術の包括的な評価を行うために、有名な技術コンサルタント会社エクスポネントにサービスを依頼した。

クルーズの無人運行が遠隔オペレーターに依存しているというニューヨーク・タイムズ(NYT)の報道が、さらなる議論を呼んでいる。同紙が情報源として引用した匿名のクルーズ社員によると、同社のロボタクシーは「2.5~5マイルごとに」人間の介入を必要としており、車両1台につき約1.5人のサポートスタッフが割り当てられているとのことだ。

これに対して、クルーズのCEOであり創業者のカイル・ヴォクトは、エンジニア向けオンライン掲示板であるHacker Newsにおいて、同社のロボットタクシーが遠隔操作で介入されるのは全体の操作のわずか2~4%に過ぎず、それも「複雑な都市環境」に限られると述べて反論している。2.5~5マイルごとという数字は、ロボットタクシーが遠隔支援セッションを開始する頻度を示しているものの、実際にオペレーターが介入する必要があるケースはその中のごく一部に限られるとヴォクトは主張している。

英テクノロジーメディアThe Registerの取材によると、「これらのセッションはプロアクティブ(先を見越した形で)に開始され(例:進路が妨害されたとき、物体を識別したとき)、80%の時間はAVによって自律的に解決されます」とクルーズの広報担当者は語ったという。

ただ、クルーズは、一度立ち止まる必要があるのは確かなようだ。7日には、同社が、カスタム設計のロボタクシー専用車両「Origin(オリジン)」の生産を停止したことがForbesとTechCrunchによって確認された。予想されていたオリジンの量産認可が下りず、米当局から詳細が発表されていないにもかかわらず、クルーズはすでに数百台のオリジン車両を保有している。TechCrunchによると、今回の生産停止と運行の一時停止により、クルーズの従業員の間では、同社の今後の方向性やレイオフの可能性についての懸念が高まっており、ヴォクトは以前の会議でそれについてほのめかしていたとされる。

さらに9日には950台の車両に積まれたソフトウェアを自主的にリコールした。

Cruise Recalls Driverless Vehicles Over Software Issue
California regulators suspended the company’s license after a pedestrian was severely injured.

資金燃焼の激しさは、拙速な市場参入の主要な要因かもしれない。直近のGMの決算報告によると、クルーズは四半期ごとに約7億ドルを燃焼しており、同社は今年、手持ちの現金17億ドルのうち14億ドルを使い果たした。GMは2016年にクルーズを11億ドルで買収した。2018年にクルーズの業績を報告し始めて以来、GMは57億ドルの損失を補填しないといけなかった。多くの競合企業はこの資金燃焼によって開発の断念や縮小に追い込まれてきた。

クルーズは最近、ホンダとの提携による日本への事業拡大計画を発表して話題となったが、オリジンは2026年に東京に導入される予定で、10月のジャパンモビリティショーでもホンダブースで展示されていた(トップ画像)。

ホンダ、日本のロボタクシー戦線に先鞭をつける
ホンダが東京で開始するロボタクシー事業は、米中で進行する変化から隔絶されていた日本を、その競争における重要な地域へと再定義する可能性がある。高齢化する日本にとって、運転手を必要としない自律的なクルマはありがたい存在だ。

ウェイモががぜん有利に

この記事で触れたように、米国のロボタクシー市場はウェイモがリードしていたが、そのリードが拡大した模様だ。

ウェイモが米ロボタクシー市場をリードか?
米国のロボタクシー市場をリードしているのは、ウェイモのようだ。ライバルのクルーズは事故が多発しており、品質の差が露見しているだろう。だが、事故は、懐疑派の反発を引き起こしており、社会実装の黎明期は続いている。

最近では、ウーバーはウェイモとの提携により、アリゾナ州フェニックスでロボタクシーを導入した。UberX、Uber Green、Uber Comfort、Uber Comfort Electricといった車両タイプを選択した乗客は、営業エリア内で利用可能な場合、無人のウェイモの車両とマッチングされる可能性があるという(*1)。

コメント:当局はカムバックを望むはず

ただ、ウェイモの独走は米当局の本意ではないだろうから、当局は何らかの形で安全性問題にケリを付け、ウェイモとの競り合いを復活させる可能性が高いのではないだろうか。

脚注

*1:ウーバーとウェイモの親会社アルファベットは、知的財産の盗用疑惑をめぐって法廷闘争を行っていたが、最終的に和解。ウーバーのAV開発はこの訴訟のほかに不運な人身事故を引き起こしたため難航し、AV部門をトヨタ、デンソー、ソフトバンクグループが投資した新興企業Auroraに売却した経緯がある。

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