テスラ、自動運転の挑戦は継続可能:200万台リコールをソフトウェアのアプデで解決

テスラは約200万台の車両に対して大規模なリコールを実施した。自律走行車(AV)技術に関連した問題で再び打撃を受けた。しかし、このリコールはネット経由のソフトウェア・アップデートだけで解決可能。競争から脱落したわけではない。

テスラ、自動運転の挑戦は継続可能:200万台リコールをソフトウェアのアプデで解決
2023年11月2日木曜日、英国ロンドンで、リシ・スナック英国首相(写真なし)と人工知能のリスクについて話し合うテスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。Photographer: Tolga Akmen/EPA/Bloomberg

テスラは約200万台の車両に対して大規模なリコールを実施した。自律走行車(AV)技術に関連した問題で再び打撃を受けた。しかし、このリコールはネット経由のソフトウェア・アップデートだけで解決可能。競争から脱落したわけではない。


米当局が、テスラの運転支援システム「オートパイロット」の誤用防止対策が不十分と判断したことを受け、テスラは200万台以上の車両を修理し、過去最大のリコールを実施した。

しかし、テスラはインターネット経由でソフトウェアをアップデートするだけでこのリコールを乗り越えることができる。

テスラはリコール報告書の中で、12月12日またはその直後に、追加の制御と警告を組み込むためのソフトウェアのアップデートを開始する予定であると述べた。アップデートにより、テスラのドライバーは、オートパイロットの「Autosteer(オートスティア)」機能がオンになっている間、道路に注意を払っていない場合に、利用者はより多くの警告を受ける変更が加えられた。規制当局の声明によると、これらの通知により、ドライバーはハンドルから手を離さず、道路に注意を払うよう促される。

今回のリコールはテスラの自動運転システムに関わる今年2件目のものだ。 2023年2月、テスラは、自動運転技術「フルセルフドライビング・ベータ(FSDベータ)」を備えた複数の車種に関して大規模なリコールを行った。このリコールは、2016年から2023年までのモデルS、モデルX、2017年から2023年までのモデル3、そして2020年から2023年までのモデルYの一部車両、またはこれらのモデルでFSDベータ搭載が保留されていた車両が対象となった。

規制当局は、FSDベータ搭載車が交差点付近で危険な行動を取る可能性があり、それが事故を引き起こすリスクがあると指摘した。このリコールは、合計362,758台の車両に影響を及ぼすものとなった。

2018 TESLA MODEL 3 4 DR RWD | NHTSA

テスラは、LiDARに頼らず、カメラで得られるセンシングデータに深く依存する自律走行車(AV)を目指した。いわゆるビジョンアプローチである。マスクはかつてカメラ等を補足するセンサーであるLiDARを「松葉杖」と呼んだことがあるが、これは、AV業界で極めて珍しい方法だった。しかし、昨夏、AI部門チーフのAndrej Karpathyが退任。彼は自律走行をカメラのセンシングデータのみで実現するアプローチを主導していた。テスラは、Karpathyの退任と同時期に画像にタグを付ける数百人のアノテーターを解雇していた。

テスラは自動運転技術で遅れをとっている
独メディアにリークされた内部文書は、テスラの自動運転技術の安全性をめぐる問題に懐疑的な見方を与えるだろう。さまざまな混乱を経て、テスラはこの分野で遅れているという観測は決定的と言っていいだろう。

テスラは、従来の自律走行車(AV)業界で一般的なLiDAR(光検出および距離測定センサー)に頼らず、主にカメラベースのセンシングデータに重点を置いた自動運転技術の開発を目指してきた。このビジョン中心のアプローチは、業界内で比較的珍しいもので、テスラのCEOであるイーロン・マスクは過去にLiDARを「松葉杖」と評していた。

しかし、この戦略に変化が生じた。昨年の夏、テスラのAI部門を率いていたAndrej Karpathyが退任した。Karpathyは、カメラのセンシングデータのみを用いる自律走行技術の開発をリードしていた人物である。彼の退任とほぼ同時期に、テスラは画像のアノテーションに従事していた数百人のアノテーターを解雇している。

テスラの自律走行車はビジョンのみアプローチを継続するか?
LiDARはマスクが言うとおり松葉杖なのだろうか

この動きは、テスラの自動運転技術に関するアプローチに関する大きな転換点となった。規制当局の調査への対応に追われる同社は、今後のAV戦略をどう行うか。

ドイツのメディア「ハンデルスブラット(Handelsblatt)」が2万3,000件以上のテスラの社内文書を入手し分析したところによると、2015年から2022年3月までの期間に、ヨーロッパ、アメリカ、アジアでの事例を基にして、テスラの自動運転技術に深刻な問題がある可能性が浮上した、という。

Handelsblatt

ハンデルスブラットの報道によれば、この期間中、テスラの顧客から2,400件以上の自動加速に関する問題と1,500件以上のブレーキに関する問題が報告された。特に注目すべきは、意図しない緊急ブレーキの事例が139件、誤った衝突警告による一時停止の報告が383件もあったということだ。これらの報告は、テスラの自動運転技術に潜在的なリスクがあることを示唆した。

自動運転技術に取り組む大企業を毎年ランク付けしている調査・コンサルティング会社のGuidehouse Insightsが最近ランク付けした16社のうち、テスラは最下位だった。

後退を強いられたのはテスラだけではない。ゼネラルモーターズ(GM)のロボットタクシー部門であるクルーズも試練に直面している。クルーズ車両が女性をはねた事故後の安全性調査のなかで、ギル・ウェストCOOを含む主要幹部9人を解任し、大幅な組織変更とテストの一時停止に踏み切った。同社は現在全ての運行を停止し、規制当局の再認可のため、限定的な地域でのテストを予定している。

この暴風の中でウェイモは傷を追っておらず、着実に運行地域を増やしている。

ウェイモが米ロボタクシー市場をリードか?
米国のロボタクシー市場をリードしているのは、ウェイモのようだ。ライバルのクルーズは事故が多発しており、品質の差が露見しているだろう。だが、事故は、懐疑派の反発を引き起こしており、社会実装の黎明期は続いている。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史