勃興する中国AI勢、エヌビディアの覇権を脅かす
中国のAI半導体企業が、NVIDIAが築いた濠を無力化する策を打ち、波紋が広がっている。NVIDIAの帝国は、中国から崩壊していくのだろうか?
中国のAI半導体企業が、NVIDIAが築いた濠を無力化する策を打ち、波紋が広がっている。NVIDIAの帝国は、中国から崩壊していくのだろうか?
中国の人工知能(AI)用半導体の摩爾線程智能科技(Moore Threads)は19日、NVIDIAのCUDA(Compute Unified Device Architecture)のために書かれたソースコードの移植を容易にすると約束されたGPU「MTT S4000」を発表した。ユーザーは独自の「MUSIFY」開発ツールを用いることで、追加の費用をかけることなく、CUDAコードを同社のMUSAプラットフォーム上で走らせることができる。摩爾線程は、これにより既に存在するエコシステムを効果的に利用できると主張した。
CUDAは、NVIDIAによって開発されたコンピューティングプラットフォーム。グラフィックス処理ユニット(GPU)を使用して、高度な計算作業を高速に実行するために設計されており、現代のAIの重要な基盤となっている。
米国はNVIDIAのAI半導体の輸出の制限を厳格化している。中国側は、第三国を経由した輸入によって禁輸措置の影響を軽減しているとも言われる。それと同時に、中国政府は海外のチップ企業への依存を断ち切るため、国内企業の競争を促していると考えられる。
同社が発表した1,000個のGPUが搭載されたシステムは、すでに研究機関に採用されているという。彼らは、700億パラメータを持つAIモデルの訓練に33日かかると述べており、さらに大きな1,300億パラメータのモデルであれば、訓練には56日かかるとした。
摩爾線程はNVIDIAの元グローバルバイスプレジデントであるZhang Jianzhong(张建中)が2020年10月に設立したGPU企業だ。
NVIDIAのクビを狙うのは、摩爾線程だけではない。「中国版TSMC」に当たる中芯国際集成電路製造(SMIC)の7ナノメートル(nm)技術を採用したファーウェイのAI半導体である「Ascend 910B(中国名:昇騰910B)」もまた、エヌビディアの強敵となりうるだろう。この半導体は中国の複数の大手テクノロジー企業から注文を受けている。例えば、中国の検索大手である百度は、8月にAI半導体に対する対中輸出規制が強化されることを予測し、ファーウェイからAscend 910Bを1,600個注文した、とロイターが報じた。注文の60%以上は10月までに納品されたという。半導体業界コンサルのSemianalyticsは、Ascend 910Bの性能は「A100」と「H100」の中間に位置する、とみている。
中国のAIチップ開発企業は百花繚乱だ。阿里巴巴(アリババ)、百度(バイドゥ)、騰訊(テンセント)の大手企業のほか、中科寒武紀科技(カンブリコン)、長沙景嘉微電子、海光信息、武漢芯動科技(InnoSilicon)、燧原科技、瀚博半導体(Vastai Technologies)、沐曦集成電路、上海壁仞科技(BIRENTECH)、上海天数智芯半導体の新興企業が雨後の筍のように現れ、「NVIDIAのいない世界」の覇権を争っている。
米国の対中強硬策は中国の「独立」を促すだけか?
米国商務省産業安全保障局(BIS)が17日に発表した中国向け半導体関連の輸出管理規則の改定版は、人工知能(AI)向けに使われる先端半導体の輸出をより厳しく制限する内容が盛り込まれた。最近の米の半導体規制強化を受け、中国のAIチップメーカーは、最先端半導体の開発に不可欠なEDA(Electronic Design Automation:集積回路や電子機器などの設計作業自動化ツール)を海外から輸入することができなくなる。
これもまた中国がEDAツールの国産化を急ぐ結果を生むだけではないだろうか。
参考文献
AMD, “porting-cuda-to-hip.pdf”