熱波と干ばつが米欧中を手ひどく痛めつける
熱波が欧米中各国における発電や食糧生産、製造業にかつてない圧力をかけている。パンデミックからの出口を探していた経済が、気候変動のダウンサイドによって押しつぶされる可能性がある。
熱波が欧米中各国における発電や食糧生産、製造業にかつてない圧力をかけている。パンデミックからの出口を探していた経済が、気候変動のダウンサイドによって押しつぶされる可能性がある。
中国国家気候センターによると、中国の一部の地域では、1961年の記録開始以来、最長の熱波が続いている。長江は、1865年の記録開始以来、この時期としては最も低い水位を記録し、水力発電の不足により製造業の操業停止に至っている。トヨタ自動車やEV用電池の世界トップメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)なども工場を閉鎖した。
電力供給が逼迫している。ダムの発電量が半減した一方で、厳しい熱波によって電力需要は約4分の1急増した。中国最大のクリーンエネルギー源である水力発電の低迷により、テスラやBYD等のEVサプライヤーの工場がある産業拠点に供給している電気系統にさらに圧力がかかっている。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻による今年の世界的な食糧価格の高騰を、ほぼ免れてきた。しかし、気候変動によって悪化した中部と南西部の厳しい暑さと北東部の洪水は、秋に収穫される数億トンの穀物を脅かしている。
ゴールドマン・サックス・グループによれば、1960年代初頭以来最悪の干ばつが長江と四川流域を苦しめており、中国国内の米のほぼ半分がそこで生産されているため、危険な状態になっている。中国南部の稲作にとって、今後10日間は「被害抵抗の重要な時期」であると、農業農村部部長の唐仁健は述べている。
ウォールストリートジャーナルのSha HuaとYang Jie は先週、「一部のアナリストは、中国の干ばつと暑さが、国の中央地域と長江流域で秋の収穫期の米やトウモロコシなどの作物の生産にダメージを与えると懸念している」と書いた。上海の農業調査会社Sitonia Consultingの共同設立者であるダリン・フリードリヒスは、トウモロコシの収穫は、熱や水の状態が悪いと収量が低下する可能性のあるタッセリングという重要な段階にある、と述べた。
最も大きなリスクは、生産量の減少によって、中国が輸入を増やす可能性があることだ。世界のコモディティ市場はパンデミックとウクライナ戦争によって影響を受け、主に発展途上国が食料価格が高騰に苦しんでいるが、中国の進出は積み木を倒壊させかねない。
そして、これは中国に限った話ではない。欧州委員会共同研究センターの気候科学者アンドレア・トレティによると、スペイン、ポルトガル、フランス、イタリアに影響を与えている干ばつは、過去500年間で最悪の状態になりそうである。
アメリカ西部では、20年前に始まった干ばつが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校が主導する研究によると、1200年ぶりの最悪の状態になるようだ。
WSJのMatthew Dalton, Jim Carlton, Sha Huaは21日、「北半球全域の深刻な干ばつは、カリフォルニアの農場からヨーロッパと中国の水路まで広がっており、サプライチェーンをさらに寸断して食糧とエネルギーの価格を押し上げ、すでにストレス下にある世界の貿易システムに圧力を加えている」と書いている。
米国では綿花の収穫量が40%以上減少すると予想され、欧州では高温・乾燥のためスペインのオリーブオイルの収穫量が3分の1程度に落ちると予想されている。
米国西部の水系の要で、米国で2番目に大きな貯水池であるパウエル湖は、現在、容量のわずか26パーセントまで水が減っており、1967年以降で最も低い水位にある。
レタスやベビーグリーンなどの野菜の主要産地であるアリゾナ州ユマ郡では、農家は34億ドル規模の市場で10%もの打撃を受けると予想している、と同郡の4つの灌漑地区の顧問弁護士であるウェイド・ノーブルはWSJに語っている。