AMDのザイリンクス買収はNvidiaのデータセンター構想を追走する戦略
取引が成立すると、AMD CPU + AMD GPU + Xilinx FPGA + Xilinx SmartNICとなり、AMDにとってNvidiaと同様の包括的なシステムビルダーへの道が開かれる。先駆者利益を享受しているNvidiaに、AMDにはこの取引を通じてどれほど喰い込めるだろうか。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙とブルームバーグがAMDとザイリンクス(Xilinx)の間の買収協議について報じ、買収額は300億ドル以上になる可能性があると述べた。これによって様々な観測が乱立しているが、この取引の意味合いはまだ正確に掴まれていない。ベテラン半導体記者のCharlie Demerjianはツイッターで、この取引は「ずっと前からあった」とし、最初にこの話を聞いたのは2年ほど前だと述べたが、この取引を加速させたのはNvidiaによるArmの400億ドル買収の発表だったことは想像に難くない。
2015年からリサ・スーが率いるAMDは、CPUとGPUの新製品を次々と投入して瀬戸際から立ち直り、再び本格的なプレーヤーとなった。サーバーCPUではEPYCプロセッサのラインアップで約10%の市場シェアを獲得し、PCではIntelに対して非常に信頼性の高いラインナップを持ち、プレイステーションやXboxにおけるゲーム機チップビジネスを所有し、CPUとGPUのハイブリッドアーキテクチャで米国のエクサスケールシステムではCray(現在はHewlett Packard Enterpriseの一部門)と肩を並べているAMDは、市場での認知度という点では間違いなく局所的な最大値に達している。
今年のCOVID-19の流行が世界の業界に深刻な影響を及ぼしたにもかかわらず、AMDチップの販売は、在宅時間で駆動されるPC、ゲームコンソール、その他のデバイスに対する需要の急増に牽引されてきた。AMDの株価は今年89%上昇し、その市場価値は1,000億ドルを超えている。AMDの戦略が疑問視されていた2015年8月の14億5,000万ドルの安値と比較すると、天と地の差だ。
Xilinx
カリフォルニア州サンノゼに本社を置くザイリンクスは、1984 年に設立された企業で、FPGA(Field-Programmable Gate Array)と呼ばれる再プログラム可能なチップを製造しており、テレコム、オートモーティブ、放送などの市場をターゲットとしたさまざまな製品の基盤となっている。
FPGAは、プログラマブル相互接続を介して接続されたコンフィギュラブル・ロジック・ブロック(CLB)のマトリックスをベースにした半導体デバイスだ。FPGA は、製造後に必要なアプリケーションや機能の要件に合わせて再プログラムすることができる。この機能は、特定の設計タスク用にカスタム製造される特定用途向け集積回路(ASIC)とは異なる。ワンタイムプログラマブル (OTP)FPGAもあるが、主なタイプはSRAMベースのもので、デザインの進化に合わせて再プログラムが可能だ。
6月に終了した直近の四半期(2021年度第1四半期)のザイリンクスの収益は14.1%減の7億2700万ドル、純利益は61.1%減の9400万ドルだった。ザイリンクスの直近1年間の収益は5.7%減の30.4億ドル、純利益は31.5%減の 6.45億ドル。ザイリンクスの 6 月四半期の銀行残高は30億ドル弱だった。
過去2年間で同社は、これまで以上にITチャネルに深く入り込む戦略を採用している。それは「データセンター・ファースト」だ。同社は2018年に発売されたAlveoアクセラレータカードのラインナップでデータセンター市場を追求しており、ストレージやデータ分析から機械学習、ストリーミングビデオまでのアプリケーションに「適応性のある」高性能を提供している。
データセンター以外にも、ザイリンクスのもう1つの戦略分野は、通信と5Gである。同社は9月に、5GネットワークにおけるO-RAN分散型ユニットや仮想ベースバンドユニット向けの新製品「T1 Telco Accelerator Card」を発表した。
AMDがザイリンクスを買収した場合、同社は、2015年のAltera買収で獲得したFPGA製品やアクセラレータカードを擁するIntelのProgrammable Solutions Groupと競合する新たな製品群を手に入れることになる。また、XilinxはAlveoカードをNvidiaのデータセンターGPUとの競争力があると位置づけている。
ザイリンクスとAMDの関係
AMDとザイリンクスはすでに深い協力関係を持っている。ザイリンクスは、近年、AMDのデータセンター事業、すなわちチップメーカーのEPYCサーバー・プロセッサの戦略的テクノロジー・パートナーとなっている。AMDの第1世代および第2世代のEPYCプロセッサの発売にあたり、AMDはザイリンクスをEPYCベースのサーバーに搭載されている主要なサーバー・ハードウェア・エコシステム・パートナーとして指名した。
「AMD EPYCプロセッサの発売は、業界における重要なマイルストーンを意味する」と、2017年の第1世代EPYC発売に向けた声明の中で、ザイリンクスのCOOであり、現在はCEOでもあるVictor Pengは述べている。「ザイリンクスのAll Programmableデバイスと合わせて、EPYCプラットフォームはデータセンターアプリケーションを高速化する際に優れたパフォーマンスを提供する。また、次世代のワークロードに必要なヘテロジニアス・コンピューティング・ソリューションを提供するために、CCIXインターコネクトなどのオープン・データセンター標準をさらに推し進めていく上で、AMDと協力できることを嬉しく思う」
AMDが第2世代のEPYCプロセッサを発表した際、同社はPCIe 4.0接続をサポートするCPUを最初に市場に投入しており、これによりザイリンクスのPCIe 4.0対応のAlveoアクセラレータカードは、この技術の高いスループットを活用できるようになった。
AMDが2019年3月に発表したホワイトペーパーの中で、同社は、EPYCベースのサーバー上で最適化されたザイリンクスのディープラーニングソリューションを詳述していた。チップメーカーは、ザイリンクスのFPGA製品が「幅広いアプリケーションセット」の10倍の高速化を実現し、FPGAを再構成する機能を備えていることから、「現代のデータセンターの変化するワークロードに理想的に適合する」とアピールしている。
データセンターの包括的サービスをめぐり、Nvidiaを追いかけるための取引
Nvidiaは先週、同社がMellanox Technologiesを買収したことによるSmartNIC技術を利用した新種のプロセッサ、データ処理ユニット(DPU)を発表した。SmartNICは基本的にはインテリジェンスを焼き込んだネットワークインターフェイスカードで、ネットワークトラフィック処理をCPUからオフロードすることができる技術を指す。
Nvidiaは昨年、データセンター向けSmartNICメーカーのMellanoxを買収し、データセンター向け製品の拡充を図っている。Nvidiaは、Mellanoxの保持技術を組み合わせて、DPUを作っている最中だ。同社の2023年までのロードマップには、AIネットワーク機能(前述の異常検知など)のためのGPUアクセラレータを統合したDPUがある。これは、Nvidiaの得意分野とMellanoxの得意分野が最終的に融合することを意味している。
このブログやこのブログで指摘したように、Nvidiaは、Nvidia GPU + Arm CPU + Mellanox DPUという組み合わせで、完全なデータセンター・サービスを構築する野望を持っている。Armとの取引の最たる理由はこの点にあるだろう。この目論見はNvidiaがデータセンターに「帝国」を築くことと同義だが、中国政府や英国政府によって承認されない可能性は大いにある。
AMDは、Nvidiaの野望と同じように、包括的なデータセンターシステムビルダーの地位を構築しようとしている可能性がある。その足りないピースを補完するのが、ザイリンクスだ。ザイリンクスのFPGAをベースにしたSmartNICプラットフォームが今春発売された。
これによって、AMD CPU + AMD GPU + Xilinx FPGA + Xilinx SmartNICの技術スタックが成立し、Nvidiaと同様の包括的なシステムビルダーへの道が開かれる。ただし、Nvidiaはすでにこの構想に向かって大きな投資を続けており、それはデータセンター事業の急成長という形で実りつつあり、先駆者利益を享受しているが、AMDにはこの取引を通じてそこに喰い込めるだけの公算があるのかが、注目を集めることになるだろう。
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※参考文献はすべてリンクにて示した。