Appleの広告ビジネス、トラッキングの取り締まりで急成長中

Appleはサードパーティの広告業者を締め付ける一方で、自社の広告プラットフォームを急激に増築し、その事業規模を拡大している。広告主はAppleの動きを歓迎しており、中小企業には抗う手段が残されていない。

Appleの広告ビジネス、トラッキングの取り締まりで急成長中
Created by Takushi Yoshida.

Appleはサードパーティの広告業者を締め付ける一方で、自社の広告プラットフォームを急激に増築し、その事業規模を拡大している。広告主はAppleの動きを歓迎しており、中小企業には抗う手段が残されていない。


フィナンシャル・タイムズ(FT)は、先月、LinkedInとAppleの採用サイトを調べたところ、iPhoneメーカーの広告プラットフォームチームには約250人が在籍し、さらに216人の人材を募集していることが判明した、と報じた。 在籍者は2020年後半に募集していた56人のほぼ4倍となっており、新入社員には、マネージャー、データエンジニア、プロダクトデザイナー、そしてセールスのスペシャリストが含まれると言われている。

調査会社Evercore ISIは、2010年代後半にわずか数億ドルだった売上が、今年は約50億ドルになっており、Appleは4年以内に300億ドルの広告ビジネスを持つことになると予想している。Googleは昨年、広告だけで驚異的な2,090億ドルを稼ぎ、Metaは1,150億ドルをかき集め、初めて1,000億ドルのしきい値を超えた。GoogleやFacebookが稼いでいる広告費と比較すると見劣りするものの、本体で十分稼いでいるAppleにとっては十分な副収入になる。

このようなAppleの台頭は、Appleが消費者に対しプライバシーの守護者のように振る舞い、MetaやTwitterのようなサードパーティ広告業者にポリシーの変更によって制裁を与える一方で、自社の広告ビジネスを拡大する我田引水によって成し遂げ得られようとしている。

Apple、自社広告事業への露骨な我田引水
Appleはプライバシーの保護をうたって他社の広告ビジネスを圧迫するポリシーをとり、その一方でiOSにおける自社広告部門を強化しており、関係各社の不満を煽っている。
AppleのiOSプライバシー規制は大手テックに優位性を与えただけ
AppleがiOSのプライバシー規則を強化したことで、小規模なデータブローカーにも影響が及んでいるが、個々のユーザーを追跡することがより困難になる一方で、「ファーストパーティデータの大規模な宝庫にアクセスできるゲートキーパー企業の既存の市場力を強化」している。

Appleはまた、独自のデマンド・サイド・プラットフォーム(DSP)を構築しようとしているようだ。同社の採用サイトはDSP開発に携わるプロダクトマネージャーの募集を掲載している。DSPは、広告主がデータに依拠した、リアルタイム入札(RTB)を行うことを可能にする製品だ。これは、Appleはこれまで拒んできたアドテクノロジー(広告技術)を採用するという、大きな転換を意味する。

DSPは大手広告主の予算を増やすことに役立つと考えられる。大手広告主は様々なマーケティングプラットフォームを採用し、多様なデータを収集しており、それを使ってデータ駆動型のマーケティングを行う。彼らが採用するプラットフォームとDSPのインテグレートが可能なら、それはAppleに投じられる広告予算の増加を意味する。Google Marketing PlatformやFacebook Ads Managerは、DSPの一例である。AppleのDSPがApple自身のアプリストアやアプリ内での広告配信に限定されるのか、それともそれを超えるものなのかは、まだ明らかになっていない。

Appleはこの夏、App Storeにさらに2つの広告枠を追加すると発表した。開発者は、中央の「Today」ページと、個々のアプリのページで広告枠を購入できるようになる。現在、アップルはApp Storeの検索ページの「おすすめ」パネルと、特定のクエリに関連する検索結果の上部に広告を表示している。9月、Appleは、広告業界にとって伝統的に忙しく儲かる時期である年末に間に合うように、新しい広告配置を発表する可能性を示唆した。

Appleは、自社製アプリの多くに近々広告を表示できることを示唆してもいる。マップ、ブック、ポッドキャストの各アプリに広告を導入する予定であると報じられている。

Appleは広告のパーソナライズのため、ユーザーのアカウントデータ、店舗での購入情報、検索クエリ、読んだニュース記事、さらにデバイスと位置に関する情報を収集している。Appleは以前、デフォルトでこれらのデータをすべて収集していたが、iOS 15から、Appleアプリのパーソナライズド広告をオンにするために、ユーザーの同意を求めるポップアップメッセージを表示するようになった。

MacRumoursによると、Appleは最近、iOS 15のユーザーのコンバージョンレートが、パーソナライズド広告を有効にした場合とそうでない場合で、ほぼ同じであると広告主に伝えているそうだ。

Appleは自社のプラットフォーム上で事実上ユーザーを追跡しているが、プリインストールされたアプリは、ユーザー追跡の許可を求めるメッセージの表示が免除されている。

新しい広告帝国の誕生か?

最近のレポートは、モバイルアプリの広告主はAppleの広告事業拡大に好意的な様子を描いている。マーケティング会社Appsumerの調査では、トラッキング防止機能がApple Search Adsの採用を押し上げていることが示された。

レポートによると、広告主によるApple Search Adsの採用は、前年比4%増の94.8%で、Facebookは3%減の82.8%、Googleは96.5%から94.8%に減少している。広告主はAppleにより多くのお金を使うようになり、Appleの財布内シェア(SOW)は5%から15%に増加した。一方、Facebookは4%減の28%、Googleはほぼ横ばい(35%から34%)である。

Read more

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)