Appleがアプリ広告収入の「3割上納」を要求し激震走る

Appleがアプリ開発企業の広告収入の3割を「上納」するようルールを変更した。Appleは審判として他社の広告事業を圧迫するルールを設定し、自らの広告事業を急成長させる我田引水を行っている。ステークホルダーはどう反応するか?

Appleがアプリ広告収入の「3割上納」を要求し激震走る
Created by Takushi Yoshida.

Appleがアプリ開発会社の広告収入の3割を「上納」するようルールを変更した。Appleは審判として他社の広告事業を圧迫するルールを設定し、自らの広告事業を急成長させる露骨な我田引水を行っている。ステークホルダーはどう反応するか?


Appleは先週、App Storeのガイドラインを改定し、ソーシャルメディアの「投稿のブースト」をアプリ内購入とし、その広告収入の30%をAppleに渡すことを義務付けた。先週リリースされたiOS 16.1からの新ルールとなる。

「(ソーシャルメディアアプリの投稿に対する「ブースト」の販売のような)アプリ内で表示される広告の購入を含む、アプリ内で体験または消費されるコンテンツのデジタル購入は、アプリ内購入(in-app purchase)のプロセスに沿う必要がある」と更新されたApp Storeのガイドラインは書いている。

App Store Review Guideline updates now available - Latest News - Apple Developer
The App Store Review Guidelines have been updated to support new features in upcoming OS releases, better protect customers, and help your apps go through the review process as smoothly as possible.

Facebook、Instagram、Twitter等のSNSには投稿を宣伝する広告商品があり、収益の重要な柱である。これがAppleのガイドラインが「ブースト」と定義しているものと考えられる。

このガイドライン変更は衝撃的だ。iOS上でビジネスを行う様々なアプリ開発者が、より積極的な「リスク管理」に動きかねないものだ。

Appleのこの広告収入への「課税」方針は急に現れたものではない。Appleは数年前にFacebookに対し広告収益の分配を要求し、Facebook側が断ったと報じられている。その後、Appleは昨年、iPhoneのOSにApp Tracking Transparency(ATT)を導入し、Facebookを含むモバイル広告事業者を締め上げた。

AppleはFB広告を締め付ける数年前にFBからの収益分配を要求し断られた
Appleはモバイル広告に打撃を与えたプライバシー規約を導入する数年前、Facebookがアプリ上の広告で得た収益の一部をAppleに分配することを提案していた。

このプライバシー規約により、ユーザーはMetaのようなアプリ開発者に、広告効果測定のためのトラッキング(追跡)に使用される固有のデバイスIDの付与を拒否することができるようになった。Metaは、この変更により今年100億ドルのコストが発生する可能性があると主張している。

つまり、Appleは、要求に従わないFacebookに対しATTで圧力をかけ、今回は広告収益の一部(ブースト部分)の分配をルール化したという流れなのかもしれない。

AppleのATTの効果は、独立系のモバイル広告業者への打撃が激しく、UnityとironSourceによる合併を誘発し、それにAppLovinが割り込もうとする出来事を引き起こすほどだった。かつてベンチャーキャピタルの資金が盛んに投じられた、ホットな領域であったアドテクは一人また一人と脱落者を生む「デスゲーム」へと変化したのだ。

アドテクは死んだ 群雄割拠がデスゲームに変わるまで
一時は群雄割拠だったアドテクノロジー(広告技術)業界。大手企業が寡占を築き、新興企業が次々と姿を消している。大手との決定的な性能の差と蔓延した不品行が彼らの死を避けがたくしている。

AppleはMetaのようなサードパーティの広告業者を締め付ける一方で、自社の広告プラットフォームを急激に増築し、その事業規模を拡大している。調査会社Evercore ISIは、2010年代後半にわずか数億ドルだった広告収益が、今年は約50億ドルになっており、4年以内に300億ドル規模になると予想している。

Appleの広告ビジネス、トラッキングの取り締まりで急成長中
Appleはサードパーティの広告業者を締め付ける一方で、自社の広告プラットフォームを急激に増築し、その事業規模を拡大している。広告主はAppleの動きを歓迎しており、中小企業には抗う手段が残されていない。

Appleは片手で競争相手を苦しめる一方で、もう片方の手で競争相手のビジネスを代替している。我田引水の行き過ぎではないだろうか?

Read more

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史