BYD、テスラと利益率の高い高価格帯で真っ向勝負[吉田拓史]
BYDの新車はテスラのSUVに真っ向勝負を挑んでいる。安価なEVによって中国市場を席巻するBYDが、より利益率の高い高価格帯でも、影響力を増すのか、注目を集めている。
BYDの新車はテスラのSUVに真っ向勝負を挑んでいる。安価なEVによって中国市場を席巻するBYDが、より利益率の高い高価格帯でも、影響力を増すのか、注目を集めている。
中国の大手自動車メーカーBYDとメルセデス・ベンツの合弁会社Denza(騰勢)は3日、新型EV SUV「Denza N7」を発表した。このモデルは6つのバージョンで提供され、価格は市場の期待に沿った30万1,800元(約600万円)である。予約注文は2万台を突破し、まず中国本土で販売される。BYDは今後3年間で、さらに2種類のSUVと3種類のセダンを発売する計画で、価格帯は30万~80万元。
BYDは、中国市場の重要な競争の要素となっているソフトウェア定義自動車(SDV)の側面も強調した。N7は、テスラ、ファーウェイ、Xpengのようなライバルに自律走行機能で打ち勝つという同社の願望とその能力を試す試金石になるだろう。
N7の最上位バージョンは、2つの800万画素カメラと2つのLiDARセンサーを含む33個の高精度センサーを搭載。毎秒254兆回の浮動小数点演算を提供するNVIDIAのDrive Orinプロセッサーを載せている。センサーから得られる多量のデータの即時的な分析(センサー・フュージョン)、自律走行ソフトウェア、システムオンチップ(SoC)の技術スタックはNVIDIAに深く依存しているとみられる。これは、Denzaに限った話ではなく、中国のEV企業は、欧米日のメーカーと違い、自律走行機能を巡ってNVIDIAのDriveシリーズとソフトウェアのバンドルを積極的に受け入れている。
N7の先進運転支援システム(ADAS)は別売りで、価格は23,000元。来年3月までに中国の高速道路で、市街地で車線変更、スピードアップ、減速ができるようになるという。ファーウェイが支援するAitoとAvatrは先週、同様の製品の価格を半額の18,000元に引き下げていた。
また、N7の登場は、BYDがプレミアム帯に照準を合わせていることを印象づけた。モルガン・スタンレーのアナリストは、このモデルの販売が、NIOのES6、Li AutoのL7、BMWのX3などの競合ブランドに影響を与えると予想している。
N7はテスラのモデルYと車両のフォルムが似ている。Denza N7は、全長4,860mm、全幅1,935mm、全高1,602mm、ホイールベース2,940mmの5人乗りミドルサイズSUV。テスラのモデルYは若干小さく、全長4,750 mm、全幅1,921 mm、全高1,624 mm、ホイールベース2,890 mmとなっている。
モデルYは1月から5月まで中国で最も売れたSUVである。現在、中国で3つのバージョンが提供されており、価格はそれぞれ26万3,900元、31万3,900元、36万3,900元から。日本円で530万〜730万円のレンジで、Denza N7より若干安い。
昨年末からテスラは値下げを繰り返し、市場全体の価格競争を引き起こしていた。JPモルガンのアナリスト、ライアン・ブリンクマンはレポートで、「テスラは、前回この水準で取引されたときに期待した台数を達成したが、大幅な収益とマージンを犠牲にした」と書いている、とブルームバーグは報じた。
中国国内の支配を強めるBYD
シティバンクのレポートによると、BYDの6月の新エネルギー車(NEV)販売台数は25万3, 000台で、前年同月比89%増。 6月の新エネルギー乗用車の海外販売台数は、前年同月比3%増の1万536台。BYDの搭載電池容量は6月の単月で11.82GWhで前年同月比72%増、上半期の電池搭載量は60.25GWhで前年同月比77%増となる見込みだという。シティバンクは、利益率の高いDenzaブランドの販売台数が6月に1万1,000台に達し、下半期には利益率の傾向がさらに改善すると予想した。
テスラは第2四半期、世界で46万6140台を販売。BYDは世界で同期に、バッテリー電気自動車(BEV)とプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)70万244台を販売した。中国が採用するNEVの物差しでは、BYDが台数で勝っているが、BEVだけで競わせると、BYDの販売台数は35.5万台で、テスラに軍配が上がる。
ただ、中国国内に限れば、BYDは、過去2年間で、テスラを突き放し、その支配力が急上昇している。現在、中国で販売されているNEVの3台に1台以上がBYDの製品である。クリーン自動車市場が毎月10万台以上を着実に販売し始めたばかりの2020年後半には15%未満だった。上海を拠点とする86Researchの自動車アナリスト、ワン・ハンヤンによれば、「最初の補助金以降の新エネルギー自動車新興企業をすべて数えると、その80%が市場から撤退したか、撤退しつつある」という(ブルームバーグ)。
南米にEV製造工場
BYDは、中国以外の多様化を進める模様だ。東南アジアでは同社の投資が発表されているが、5日、ブラジルに 30億レアル(約900億円)を投資し、アジア以外で初のEV製造施設を設立する計画を明らかにした。2024年までの稼働を目指すこの工場はバイーア州に位置し、ハイブリッド車やEVの生産、電気バスやトラックのシャーシ、世界市場向けのリチウムやリン酸鉄の加工などを行う。
新工場の年間生産能力は当初15万台で、30万台まで拡大する可能性があり、5,000人以上の雇用創出が見込まれている。現在、ブラジルにおけるEVとPHEVの販売台数は全体の2.5%に過ぎないが、BYDは、特に同国の充電インフラが改善するにつれて、同市場の可能性を前向きにとらえている。BYDがブラジルへの投資を決定したのは、中国企業に対する政府の政策が不透明なため、米国への進出に消極的だったのとは対照的だ。