網羅的監視から逃れる場所はない NSAとサービスプロバイダーはすべてを知るビッグブラザー

シュナイアーは、本書で、営利企業または政府による大規模な監視が社会の変化に冷ややかな影響を与え、検閲につながり、監視を基にした群衆操作を容易にする、と指摘しています。

網羅的監視から逃れる場所はない  NSAとサービスプロバイダーはすべてを知るビッグブラザー

『超監視社会: 私たちのデータはどこまで見られているのか?』の著書ブルース・シュナイアーは、アメリカの暗号学者、コンピューターセキュリティの専門家であり、ハーバード大学法科大学院のフェロー、レジリエント・システムズ社最高技術責任者(CTO)を務めています。シュナイアーは2013年6月に実行されたエドワード・スノーデンによる国家安全保障局(NSA)に関する告発の際、それを報じたガーディアンがスノーデンの提供した秘密資料を分析するのを助けた人物です。原著の出版は2015年3月であり、本書の内容はスノーデンの告発に端を発するスキャンダルを踏まえたものです。

本書では、セキュリティの大家であるシュナイアーが、すべてがインターネットにつながれている現代において、私たちは、巨大企業が詳細な個人情報は握り、国家はデータによる個人の監視を強化する、超監視社会を生きていると警告します。

スノーデンの告発によると、NSAは、すべてのクラウドプロバイダー(GoogleとFacebook、AppleとYahooなど)からデータを収集しています。NSAは、米国をはじめとする世界中の多くの大手通信会社と提携して基幹回線からデータを収集しています。NSAは、セキュリティシステムの有効性を低下させるために、ベンダーとの秘密の合意により、意図的に暗号化を破壊しています。

シュナイアーは「NSAの行動により、私たち全員の安全性が低下しています。 彼らは悪者だけをスパイしているのではなく、善人を含むすべての人のインターネットセキュリティを故意に弱めています」とNSAを非難していました。米国籍の個人がNSAを非難するのは、リスクが存在したはずです。

私達を監視するのは、NSAだけではありません。私たちはますます、人々ではなく、アルゴリズムによって監視されています。 AmazonとNetflixは、購入する本とストリーミングする映画を追跡し、習慣に基づいて他の本と映画を提案します。 GoogleとFacebookは、私たちの行動と発言を監視し、Cookie等による行動の追跡に基づいて広告を表示します。Googleは以前の動作に基づいて検索結果も変更します。 スマートフォンナビゲーションアプリは、運転中に私たちを監視し、交通渋滞に基づいて推奨ルート情報を更新します。 そして、国家安全保障局(NSA)はもちろん、私たちの電話、メール、場所を監視し、その情報を使用してテロリストを特定しようとします。

シュナイアーが現代で実行されている監視について様々なソースを明示していますが、データブローカーもそのひとつです。データブローカーは、個人的情報とトランザクションデータをマイニングします。本や音楽の趣味、趣味、デートの好み、政治的または宗教的傾向、性格特性はすべて、データブローカーによってパッケージ化され、さまざまな業界、主に銀行や保険会社、小売業者、通信、メディア企業、さらには政府に合法的に販売されています。

彼らだまされやすい高齢者に関するデータを販売し、また彼らのデータをFacebookの広告システムとリンクすることで、広告主は高性能のターゲティング広告を享受することができます。本書では、広告主が妊娠中かどうかを明らかにする実店舗での購入パターンから女性の妊娠を探知し、妊娠に関するターゲティング広告を掲出したところ、妊婦は初めて妊娠を認知した例が挙げられています。

シュナイアーは、営利企業または政府による大規模な監視が社会の変化に冷ややかな影響を与え、検閲につながり、監視を基にした群衆操作を容易にする、と指摘しています。彼は、NSAが米国企業の国際的なビジネスにどのようなコストをかけたかを指摘し、NSAとFBIの担当領域を明確に分類し、NSAの領域を制限する形での「NSA解体」を提案しています。

さて、本書を踏まえた上で、中国におけるデータ科学の実践をみたとき、それは混乱をもたらすと思います。顔認証、社会信用スコア等による包括的なアルゴリズムによる監視がすでに完成しようとしています。西欧近代が踏まえていた様々な基盤を、中国は無視しており、それは「我々がどのような社会を望むか」という根本的な問を、問いかけてくるように僕には思えるのです。

そして本書の出版以降、インターネットでは、フェイクニュースソーシャルメディアの兵器化という新しい脅威もまた、台頭しています。利便性とトレードオフの形で進行する監視は我々を幸福にするものなのか、それとも、不幸にするものなのか、まだ我々は明快な回答を持っていないように見えます。

Image via W W Norton & Co Inc

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