Googleと米司法省の法廷闘争の行方は?
米司法省はGoogleの反競争的な慣行を責めている。デジタル広告出稿の仲介者であるGoogleが、エコシステム全体に影響力を振るうという主張は妥当だ。しかし、AmazonやAppleなどの追走で、Googleはかつてのような圧倒的地位を失いつつある。
米司法省はGoogleの反競争的な慣行を責めている。デジタル広告出稿の仲介者であるGoogleが、エコシステム全体に影響力を振るうという主張は妥当だ。しかし、AmazonやAppleなどの追走で、Googleはかつてのような圧倒的地位を失いつつある。
米司法省は、1月下旬に、Googleが、反競争的な買収を通じて競争を妨げているなどとして、カリフォルニア州など8つの州とともに、バージニア州東部地区の連邦地方裁判所に提訴した。
司法省のターゲットは、ディスプレイ広告で、Googleの扱う数ある広告領域の1つである。Googleの広告製品の中で稼ぎ頭は今も検索広告であり、近年はYou Tube広告の台頭が著しい。ディスプレイ広告(いわゆるバナー広告)はモバイル広告とともにGoogleのビジネスの第三集団に属している。
Googleのディスプレイ広告の仕組みは名目上オープンだが、その中でGoogleが有利になるようにできている。Googleは買い手、売り手、競売人、インフラベンダーを兼ねている(図表参照)。詳細を見ると、Googleの優位性を強化するような仕組みがそこかしこに組み込まれており、この仕組みに挑戦する技法が生まれたときも、その芽を摘むことに余念がなかった。
司法省は、2007年にGoogleが31億ドルを投じて広告サーバーのDoubleClickを買収したことを覆そうとしている。2010年にAdMeldを買収し、「同社技術がアドエクスチェンジ(広告取引所)間でのマルチホーミングを促進することを阻止した」ことも撤回させようとしている。
同省は、GoogleがDoubleClickとデジタル広告取引所のAdX、Admeldを買収したことで、パブリッシャー(ウェブサイト運営者)を囲い込むエコシステムを構築できたと主張した。
このような「過去の買収をさかのぼって咎める」という法解釈は、米国連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長がMetaとの訴訟で提示したものでもある。Googleは「Googleの広告テクノロジー製品の仕組みを誤って説明している」と反論している。
一時は、広告テクノロジー市場ではGoogleとMetaが独占的戦略が他の多数のスモールプレイヤーを押し出していた。両者は、エコシステムの要所を抑え、他社の市場参入可能性をなくした。Metaは、司法省が問題視するディスプレイ広告におけるGoogleの牙城に挑戦したことがあるが、全く刃が立たず、オープンなシステムを放棄し、プロプライエタリ(専売)化を進めた。Googleも訴状で指摘されるように段階的に閉鎖的になり、帝国の一角を崩そうとする他社の戦略が登場した場合、すぐさま無力化してきた。
問題は、司法省が2年以上の調査を行う間に、業界が大きく変化したことだ。2022年はGoogleとMetaの2社によるデジタル広告業界の支配が、2014年以来初めて、米国市場全体の過半を下回ったようだ。Amazon、Apple、Microsoftの陣地は着実に広がっており、2社支配の時代は終わったかもしれない。
Amazonの広告事業は、現在、GoogleやMetaの広告事業よりも急速に成長し、業界3位に付けている。 Microsoftは広告プラットフォームXandrを買収し、Netfilxとの契約を勝ち取った。かつて広告市場から撤退を余儀なくされたAppleは、ポリシーの変更を通じた我田引水によってApp Store広告を拡張し、広告主側のソフトウェアであるデマンドサイド・プラットフォーム(DSP)を独自構築している(広告主の大規模需要を予測していることを意味する)。中国本土以外でサービスを開始してわずか5年のTikTokは、広告収益が100億ドル近くに達し、急成長を続けていると言われている。
155ページに及ぶ訴状は、広告テクノロジー界以外の職種がディスプレイ広告市場を理解するための「最高の教科書」になっている。訴状を通じて、この市場がどう形成され、どのような運動法則があり、どのような経緯を持っているかが分かる。司法省の主張は、今後法廷で争われるものだが、デジタルメディア・広告・デジタルマーケティング業界の人間は関知しておいていい内容だろう。