MIT教授のエリック・ブリニョルフソンは、2002年にすでに無形資産の定義を試みていました。彼は、組織資産、企業の市場評価、数年後のアウトプットで無形資産を観測できると主張しました。

無形資産についてはいままで、この記事で触れていますし、無形資産等を適切に測れない伝統的な財務会計の死についてはこの記事で触れています。

無形資産の存在は現代では疑問の余地ではありません。無形資産は、米国で1999年以降の労働分配率の低下への寄与要因のうち、26%を占めている、とMcKinsey Global Insitute(MGI)の2019年の調査は指摘しています。無形資産は研究開発、組織、企業文化、ブランディング等多岐にわたっていますが、近年では台頭するデジタルプラットフォーム(日本ではプラットフォーマー)のビジネスを形容するときにしばしば用いられる傾向があります。

2018年に出版された『無形資産が経済を支配する  資本のない資本主義の正体』("Capitalism Without Capital", by Jonathan Haskel and Stian Westlake, 未邦訳)は無形資産について明快な説明を与えてくれます。著者のインペリアルカレッジスクール教授(経済学)Haskelと民間シンクタンクNestaのディレクターWestlakeは、無形資産の振る舞いが、有形資産と異なる4つの理由を概説しています。第1に無形の投資は埋没費用(サンクコスト)です。 投資がうまくいかない場合、お金の一部を取り返すために売却できる機械などの物理的な資産がありません。第2に競合企業が利用できるスピルオーバー(波及効果)を引き起こす傾向があります。 Uberの最大の強みはドライバーのネットワークですが、Lyftの配車も行うUberドライバーは珍しくありません。第3に物理的な資産よりもスケーラブル(拡張性が高い)です。 最初のユニットの初期費用を負担した後、製品はほぼ無限に複製できます。第4に他の無形資産との貴重なシナジー(相乗効果)が得られる可能性が高くなります。HaskelとWestlakeはiPodを例として使用しています。iPodは、AppleのMP3プロトコル、小型化されたハードディスク設計、設計スキル、レコードレーベルとのライセンス契約を組み合わせています。

しかし、これに遡ること2002年、マサチューセッツ工科大学教授のエリック・ブリニョルフソンは、無形資産の定義を試みていました。これからそれを振り返ってみましょう。

無形の資産は不可視である必要はありません。それどころか、無形の組織資産の存在は、少なくとも3つの方法で観察できます。第1に、企業の「組織資産」は直接観察できる場合があります。パーソナルコンピュータ開発会社または製鉄所の製造工場を訪問すると、これらの企業がさまざまな種類の組織資産の作成に費やした労力と、その結果生じる生産性への影響についての洞察が得られた、とブリニョルフソンは説明しています。トヨタのカンバン方式はこれに類するでしょう。

第2に、これらの変更が企業の市場評価に与える影響を測定できるはずです。これらの新しい慣行が前述の組織資産の種類を本当に表している場合、これらの資産の蓄積は、企業の金融証券の買い手と売り手の間の自発的な取引によって明らかにされるように、企業の市場価値に反映されると予想されます。

第3に、これらの資産は、より高い出力の形で実質リターンを提供することがあります。したがって、生産機能のフレームワークは、これらの無形資産をより多く導入した企業が、標準的なインプット(資本、労働、材料など)を考慮した後の数年でより多くのアウトプット(産出)を得ることになるのです。

企業が生み出した組織資本の重要な特徴は、その価値が何年も実現されないかもしれないということです。企業は、特定のビジネスモデル、組織慣行、および企業文化に投資することを選択します。 後にこれらの投資のいくつかは、他の投資よりも生産的で収益性が高いことが判明しました。 金融市場は、現在の技術およびビジネス環境に適したモデルを認識し、報酬を与えます。 その時点で、他の企業は勝者のベストプラクティスを模倣しようとするかもしれませんが、プラクティスの各コレクション間の明示的および暗黙的な相補性による複雑さがこの困難を生みます。

したがって、ITなどのインプットの高い市場価値を、投資家が負った高い調整費用(資本ストックの調整に伴うコスト)を反映していると解釈するのは賢明ではありません、とブリニョルフソンは主張します。それどころか、市場は主にITと相関する無形資産を評価しています。どちらかといえば、IT集約型企業は、競合他社よりも調整費用が低くなる可能性が高いため、IT投資のレベルが高くなります。

同時に、IT業界ではライバル企業が追随するために必要とする投資コストが高いため、勝者のレントをすぐに払底できません。テクノロジーと組織の複雑な組み合わせが求められる場合、模倣と投資のコストは特に高くなる可能性があります。さらに、勝ち取った組織戦略の評価を事後的に見ると、それらの利益について誤解を招く印象を与える可能性があります。多くの、おそらくほとんどの組織変更の努力は失敗し、ITへの大規模な投資を伴うプロジェクトは、しばしば期待を大きく下回ります。事前に、合理的なマネージャーは、プロジェクトが必要な利益をもたらす可能性があるかどうかを決定する前に、失敗の実質的なリスクを考慮する必要があります。

これと一定の類似性を示すのは、割引キャッシュフロー(DCF: Discounted cash flow)法です。これは将来のキャッシュフローから割引いて現在の企業価値を算定する手法です。財務会計という異なる畑ではあるものの、ブリニョルフソンが2002年時点で指摘した、事後的にリターンを生み出す無形資産、と似ている性質があります。

参考文献

Erik Brynjolfsson, Lorin M. Hitt, Shinkyu Yang. Intangible Assets: Computers and Organizational Capital. Brookings Papers on Economic Activity, 2002.

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