『Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法』少ないデータから施策につながる洞察を得る手法

本書は有名な『リーン・スタートアップ』の続編のひとつです。スタートアップが、洞察を得るための基礎となる解析手法を教えてくれます。

『Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法』少ないデータから施策につながる洞察を得る手法

本書は有名な『リーン・スタートアップ』の続編のひとつです。スタートアップが、洞察を得るための基礎となる解析手法を教えてくれます。

リーン・スタートアップは、2000年代後半から10年代前半のうちにシリコンバレーで「常識」となった製品・サービス開発手法です。それは、顧客に対する洞察、大いなるビジョン、大望とさまざまなポイントに等しく気を配りながら、「検証による学び」を通して、画期的な新製品を開発する方法のことを指します。そして、本書は、芳醇なデータを持たないスタートアップが、洞察とビジョンを得るための基礎となる解析の手法「Lean Analytics」の入門書なのです。

著者のBenjamin Yoskovitzは、ウェブビジネスで15年以上の経験を持つ連続起業家です。Standout JobsとYear One Labsの共同設立者であり、数多くのスタートアップやスタートアップアクセラレータの積極的な指導者でもあります。 Yoskovitzは「Instigator Blog」(instigatorblog.com)の著者であり、スタートアップ会議で定期的に講演しています。彼は執筆当時は、GoInstantのVP Productであり、同社は2012年にSalesforceに買収されました。

もうひとりの著者であるAlistairは、Webパフォーマンス、分析、クラウドコンピューティング、ビジネス戦略のバックグラウンドを持つ起業家です。2001年に、彼はCoradiant(2011年にBMCに買収)を共同設立し、その後Rednod、CloudOps、Bitcurrent、Year One Labs、および他のいくつかの初期段階の企業の立ち上げを支援しました。データ主導のイノベーションと社会へのテクノロジーの影響に関する人気の高い講演者であるAlistairは、Cloud Connect、Bitnorth、International Startup Festivalなどのさまざまな会議を設立し、運営しています。彼はO'ReillyのStrata + Hadoop Worldカンファレンスの議長でもあります。

本書は、Part I では、リーンスタートアップと基本的な分析の理解、および成功するために必要なデータに基づいた考え方に焦点を当てています。スタートアップを構築するためのいくつかの既存のフレームワークを確認し、分析に焦点を当てた独自のフレームワークを紹介します。Part IIでは、Lean Analyticsをスタートアップに適用する方法を示します。6つのサンプルビジネスモデルと、すべてのスタートアップが適切な製品と最適なターゲット市場を発見する際に通過する5つの段階を検討します。また、ビジネスにとって重要な1つの指標を見つけることについても説明します。

好ましい数値は、Understandable(理解可能)、Comparative(比較可能)、A ratio or rate(割合で表現可能)、Behavior changing(行動を変えさせる)ものだと指摘します。特にBehavior changingに類する「行動につながる指標(Actionable Metrics)」は、あなたが決定を下すのを助けます。 それらはあなたのビジネスがしていることとそれが働いているかどうかについてのフィードバックと文脈を提供します。 逆に、虚栄の指標(Vanity Metrics)は、他の人にとって見栄えのよいメトリクスですが、製品のパフォーマンスを知るのには役立ちません。ここらへんの解説は『STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント』にもまとめられており、わたしはブログで本書についての感想をまとめています。また「このときにどのように投機していけばいいのか」という問題をめぐっては、わたしは、このブログで多腕バンディット問題を引き合いに検討しています。

Lean Analyticsは何にどれだけ賭けるべきかを決めるための手段とも言えます。本書はこう説明します。「創業者として、あなたは今後数年間の仕事に何を費やすかを決めようとしています。 プロセスについて無駄を省き、分析的になりたいのは、誰も望んでいないものを構築するために人生を無駄にしないためです」(吉田抄訳)。そして、それは洞察であり、厳密な意味のデータサイエンスとは異なります。

Lean Analyticsは勝率を挙げるための技法です。「リーンスタートアップへの批判の1つは、余りにもデータ駆動型であるということです。これらの批評家は、データの奴隷になるのではなく、それをツールとして使うべきだと言っています。 データ駆動型ではなく、データ通知型でなければなりません。ほとんどの場合、彼らは怠け者であり、苦労しない理由を探しています。 しかし、時にはポイントがあります。データを使用してビジネスの一部を最適化し、後戻りして全体像を確認することは危険であり、致命的ですらあります」(吉田抄訳)。

ただし、Lean Analyticsは、北米ではかなり浸透したテクニックです。また、起業家であるあなたが取り組むのは、ひとつひとつ異なる市場です。Lean Analyticsは、最初の一歩であるし、そこまで汎用的ではないので、これを踏まえて、本当の戦略を作ってみてほしい、と成功していない起業家のわたしは、指摘しておくにとどめておきましょう。

※この書評は英語版"Lean Analytics: Use Data to Build a Better Startup Faster"(PDF)を基に行いました。日本語版との齟齬があるかも知れません。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史