テスラがしれっとLiDARを装着する日が近い?

テスラが自律走行車において掲げるカメラのみの手法を改めるタイミングが近いかもしれない。方針を主導してきた研究者の退職で、かつて「松葉杖」と揶揄されたLiDARがテスラ車に載る可能性がこれまでになく高まっている。

テスラがしれっとLiDARを装着する日が近い?
Photo by Afif Kusuma

テスラが自律走行車において掲げるカメラのみの手法を改めるタイミングが近いかもしれない。方針を主導してきた研究者の退職で、かつて「松葉杖」と揶揄されたLiDARがテスラ車に載る可能性がこれまでになく高まっている。

13日、テスラの運転支援ソフトウェア「オートパイロット(Autopilot)」のビジョンチームを率いたコンピュータビジョンの専門家、アンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)が、正式に同社を去ることになった。カルパシーは4カ月間の休職中で、復帰をめぐる憶測が広がっていた。

スタンフォード大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得したカルパシーは、2017年に人工知能研究会社OpenAIからテスラに入社した。カルパシーは元Apple幹部のクリス・ラトナーが去った後、同社のAI部門トップの座に就いた。AIチーフとしてカルパシーは、物議を醸したテスラのオートパイロットの成長と開発を監督してきたが、オートパイロットを使用したテスラが駐車中の緊急車両に衝突したことから、現在このソフトウェアは連邦政府から調査を受けているところである。

米国道路交通安全局(NHTSA)は昨年夏、オートパイロットを使用していたテスラ車と、緊急現場で停車していた救急隊員の車両が衝突する事故が相次いだことを受け、調査を開始した。先月、同局は調査をエスカレートさせ、拡大した。これは、同技術が安全上のリスクをもたらし、リコールすべきかどうかを判断する上で重要なステップとなっている。

テスラは、オートパイロットを作動させて運転することは、作動させない場合よりも安全であると主張してきた。テスラは、ドライバーがオートパイロットを使用しているときに事故が少なかったことを示す内部データを開示している。ただし、テスラの「データの作り方」については批判的な意見がある。

テスラはカメラ映像のみで完全に自律走行を実現させるユニークな方針(ビジョンアプローチ)を掲げてきた。この方針を実現するため、AIモデルのトレーニングのためのスーパーコンピューターを開発し、車両においてのAIシステムの実行を想定した車載システムオンチップ(SoC)を作ってきた。プロジェクトに注ぎ込まれた膨大な資金がもたらすはずのリターンに一際大きな責任を持っていたのが、カルパシーだった。さらにここにテスラに大きな損失をもたらしうるNHTSAの調査が重なった。

2021年のコンピュータビジョンの学会で、レーダーが橋を検知して、知覚システムが障害物の可能性を考慮して、ブレーキを踏んでしまう「不名誉な現象」があると説明するカルパシ―。via CVPR、2021.
2021年のコンピュータビジョンの学会で、レーダーが橋を検知して、知覚システムが障害物の可能性を考慮して、ブレーキを踏んでしまう「不名誉な現象」があると説明するカルパシ―。via CVPR、2021.
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テスラCEOのイーロン・マスクは以前、LiDARのことを「松葉杖」と呼び物議を醸したことがある。2021年4月の第1四半期の発表資料では、テスラは「ビジョンのみのシステムは、究極的には完全な自律性に必要なものである」と記していた。

これに対して、他の自律走行ソフトウェア企業はカメラ、レーダー、LiDARを組み合わせた自律走行を志向している。彼らはLiDARで環境を事前にマッピングし、高精細地図(HDマップ)を作成している。LiDARを利用した方法では、車線や信号機などもすべて地図に挿入し、HDマップに車両の位置をマッピングして走行させている。

カルパシーの退社は、オートパイロットを担当する200人近いテスラの従業員のレイオフを受けたものだ。解雇された従業員の多くは、学習データのラベリングを担当する時間給従業員だったと言われている。こうした作業はカルパシ―の専門分野だったコンピュータビジョンの開発に欠かせない人材だった。

米テクノロジーメディアTechCrunchによると、テスラのサンマテオオフィスはもともと276人の従業員を抱えていたそうだ。データラベラー、アナリスト、スーパーバイザーなど、195人ほどの従業員が解雇され、81人の従業員が別のオフィスに移転すると同誌は報じている。

カルパシーとデータラベラーの解雇は、テスラのビジョンアプローチの終焉を意味している可能性がある。

実際、テスラはLiDARを搭載した手法を試していたことが伝えられている。2021年5月、フロリダ州のパームビーチで、同地在住の自律走行車業界のコンサルタント、グレイソン・ブルーテは、テスラのモデルYには、話題のセンサーメーカーLuminar製のルーフトップLiDARセンサーが搭載されているのを撮影した。ブルームバーグは、Luminarが両社の契約の一環として、LiDARをテスラに販売したことを確認している。

イーロン・マスクが「松葉杖発言」を撤回するときが近いかもしれない。Twitterの買収も数週間で撤回しようとしている彼にとって、特に珍しいことではないだろう。

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By エコノミスト(英国)