TikTok、米政界とシリコンバレーが禁止の大合唱で四面楚歌に

米国内でTikTokを禁止する機運が超党派で盛り上がっている。バイデン政権はアプリの売却を迫る。八方塞がりの様相だ。

TikTok、米政界とシリコンバレーが禁止の大合唱で四面楚歌に
2020年9月14日(月)、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニーで、ByteDance Ltd.のTikTokアプリのロゴをスマートフォンに並べて撮影。 Brent Lewin/Bloomberg

米国内でTikTokを禁止する機運が超党派で盛り上がっている。シリコンバレーとワシントンのタッグも結成された。バイデン政権はアプリの売却を迫る。四面楚歌である。


司法省は、TikTokを所有する中国企業バイトダンス(字節跳動)による、テック業界を取材するジャーナリストを含む米国人への監視について調査している。

ニューヨーク・タイムズの報道によると、調査は2020年後半に始まり、バイトダンスが、同社の従業員が記者やその関係者の一部を含む米国人TikTokユーザーのデータを不適切に入手したことを認めたことに関連している。監視に関与したバイトダンスの従業員は、後に解雇されたが、TikTokのアカウントを通じて、記者やその関係者のIPアドレスなどにアクセスすることができたという。

TikTokのこの類のセキュリティ・イシューは絶えない。昨年6月、BuzzFeed Newsは80以上のTikTok社内会議の流出音声を情報源とした報道を発表したが、そこには北京の同社のエンジニアが2021年9月から2022年1月の間に米国のTikTokユーザーのデータにアクセスしていたことを示す9人のTikTok従業員の14の声明が含まれていた。

この流出した音声は、TikTokの親会社であるバイトダンスの中国在住の従業員が実際に米国ユーザーのデータにアクセスしたことを示唆するこれまでの報道を大幅に裏付けた。

昨夏には、プライバシー研究者のFelix Krause(フェリックス・クラウス)が独自に行ったプライバシー調査の結果、TikTokのiOSアプリがウェブサイト遷移後すべてのキーボード入力とタップを監視できるコードを注入していることが判明した。

また経営体制も米国の不安を煽るものだ。バイトダンスは特別な権利を付与された「黄金株」を、中国政府の傘下にあると見られる北京のファンドに渡したと報じられている。これはバイトダンスに限らず、アリババ、微博(中国版Twitterでアリババの傘下)なども黄金株を同じファンドに差し出している。政府はテンセントの黄金株も取得する計画を進めていると1月に報じられていた。

TikTokは、トランプ政権とバイデン政権の双方から、このアプリが国家安全保障上の脅威になっているとの指摘を受けている。議員たちは、TikTokが位置情報などの機密性の高いユーザーデータを中国政府の手に渡す可能性があることに懸念を強めている。彼らは、北京が情報収集活動のために中国企業や市民からデータを密かに要求することを可能にする法律を指摘している。

バイデン政権は先週、国家安全保障上の懸念から、バイトダンスに対し、アプリを売却するか、さもなければ禁止される可能性がある、と伝えた。TikTokは、ユーザーデータを保護するため、米国人のデータを米国内に保管することを提案しているが、関係者は、売却が唯一の受け入れ可能な道であると考えるようになっていることを明らかにしたという。

ニューヨーク・タイムズによると、国家安全保障会議(NSC)のスポークスマンであるジョン・F・カービーは、先週木曜日、政権がバイトダンスにTikTokの売却を働きかけているかどうかについてコメントを避けた。しかし、彼は、「我々はここに正当な国家安全保障上の懸念があり、特定の外国所有の消費者向けアプリによってもたらされるこれらのセキュリティ上の懸念に対処するために設計された超党派の法律を支持し続けている」と述べた。

超党派の中国タカ派同盟を作ろうとする努力は、元Google政策顧問で米中経済安全保障審査委員会のメンバーであるジェイコブ・ヘルバーグが先頭に立っている。シリコンバレーの幹部とワシントンの議員たちは、対TikTokで手を結ぼうとしている。ヘルバーグらは中国、国家安全保障、米中のハイテク分野の競争激化について超党派で話し合うプライベートディナーを計画。トランプ元大統領の主要な支援者であるピーター・ティール、クリーンテック投資で知られるヴィノッド・コスラなどのテック投資家が水曜日の会に招待されることになっている。

「米共和党を買うテック投資家」ティールの思想を形成するものとは?|会田弘継インタビュー
ピーター・ティールはどう考え、どう動くのか。米政治に精通し、ティールの言動をつぶさに観察してきた、元共同通信ワシントン支局長で関西大学客員教授の会田弘継に、彼の思想的背景をめぐる洞察を聞いた。

TikTokのCEO、ケビン・メイヤーは、今週、下院エネルギー・商業委員会で証言する予定だ。ここでメイヤーは、ワシントンとシリコンバレーのタッグに直面することになるだろう。売却以外の選択肢は最初から与えられていないのかもしれない。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)