トヨタは変化から取り残されたか、それとも挽回可能か?

トヨタの電撃的な社長交代は、同社がEVとソフトウェア定義自動車という2つのトレンドにおいて遅れを取っていることを反映しているように見える。ガソリン車の王者は、イノベーションのジレンマから解き放たれるのだろうか。

トヨタは変化から取り残されたか、それとも挽回可能か?
トヨタ自動車の豊田章男社長(右)と、ガズーレーシングカンパニー社長でレクサスインターナショナル株式会社の佐藤浩二社長(役職は当時。2023年1月13日、金曜日、千葉県の東京オートサロンで)。Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

トヨタの電撃的な社長交代は、同社がEVとソフトウェア定義自動車という2つのトレンドにおいて遅れを取っていることを反映しているように見える。ガソリン車の王者は、イノベーションのジレンマから解き放たれるのだろうか。


「私はどこまでいってもクルマ屋。クルマ屋を超えられない。それが私の限界」と豊田章男は語った。トヨタは14年ぶりのトップ交代で、創業家出身の豊田から執行役員の佐藤恒治にバトンが渡された。

背景は、自動車業界が激動の時代を迎えていることだろう。電気自動車(EV)、ソフトウェア制御の2点が重要なドライバーだ。これがトヨタの天下を脅かしている。

EVに関しては、トヨタを含む日本勢の遅れは決定的なものだ。2022年に世界で販売されたEVは780万台で、2021年から68%増加し、自動車販売の10%占めるようになった。この急激な成長の中で、世界市場はテスラとBYDの一騎打ちとなっている。中国勢が成功し、それを欧米勢が追いかけている。中国が自国内にEVサプライチェーンを集中させるのに成功した補助金政策を、米国がインフラ抑制法(IRA)と関連法制で模倣した。この結果、EVを生産し販売することに世界中で強烈なインセンティブが与えられている。

中国メーカーは世界で最も発達した国内市場を基盤に欧州市場と新興国市場への進出を開始している。日本も例外ではない。BYDは1月31日、日本の乗用車市場に参入し、「ATTO3」の販売を開始した。年内にさらに小型車と高級セダン2車種の投入を予定する。顧客対応や充電、アフターサービスを行う販売店を2月に横浜市で開業し、25年末までに全国100店舗超展開する計画だ。日本人の嗜好がEVに傾いたとき、利を得るのはBYDやテスラなのかもしれない。

トヨタのEV戦略は急速な転換を強いられている。ロイターが10月に報じたところによると、2030年までにEV30車種をそろえるとしていた従来の計画の一部を破棄し、EV専用のプラットフォーム、e-TNGAの見直しを検討しているとされた。12月にはEV戦略の転換を検討していると取り沙汰され、1月にはEV専用の新プラットフォーム導入を検討していると報じられた。プラットフォームをガソリン車やハイブリッド車向けの延長線だったのを脱し、EV専用の基本設計に改めるとトヨタは明らかにしている。テスラが使うEV専用のプラットフォームに比べるとコスト高になっていたという。

もう一つのドライバーであるソフトウェア制御でも劇的な変化が起きている。搭載する半導体がハイエンド化し、ソフトウェアによる集中的制御が行われる、現代的な自動車を「ソフトウェア定義自動車(Software-Defined Vehicle: SDV)」と呼ぶ。既存のメーカーはすべからく、SDVの採用において苦難に直面している。

ソフトウェア定義自動車への険しい道のり
自動車がソフトウェアによって制御されることで、自動車ビジネスが抜本的に変化することは、ほとんどの業界関係者の共通認識になっている。ただ、それを実現する力はこれまで自動車業界にはなかったものだ。各社は試行錯誤を繰り返している。

SDVはEVとの相性がいい。電動化のプロセスは、単に内燃機関を単純なモーターに置き換えるだけではない。各コンポーネントには、ソフトウェアで調整可能な幅広いパラメータが付属している。駆動トルクからマシンビジョンアルゴリズム、インフォテインメントシステムに至るまで、ソフトウェアの設定によって調整や再構成が可能だ。上述したソフトウェアアップデートを繰り返す価値提供方法には、内燃機関や油圧部品が排除されたEVのほうが都合がいい。

このような変化が、従来の競争相手以外のライバルの出現を促している。コンシューマ・エレクトロニクス製品の組み立て最大手である鴻海精密工業は昨年10月、2つのEV専用のプラットフォームとそれを基にしたプロトタイプを公開した。鴻海は自律走行車向けシステムオンチップ(SoC)であるNVIDIA DRIVE OrinとDRIVE Hyperionセンサーをベースにした電子制御ユニット(ECU)を生産することを1月初旬に発表している。突如として新たなティア1メーカーが誕生し、トヨタが形成するようなピラミッドとは異なる支配構造がEV業界に生まれそうだ

新たなEVとSDVの世界では、基幹技術を握るサプライヤーの方が権力が強いかもしれない。従来型のピラミッドは成立しなければ、ジャスト・イン・タイムはやれない。新しい世界では、チップが不足したり、委託製造業者のラインが埋まったりすれば、メーカーは待たないといけない。それを避けるには、トヨタが嫌う十分な在庫が必要だ。NVIDIAはメーカーに対しAV機能の対価として「サブスク報酬」を要求し、自動車業界で一般的ではない新しい取引形態を移植した。こういった基幹技術を囲い込めたテスラ以外の自動車企業にとっては、酷なゲームになりつつある。

SDVの最先端が自律走行車(AV:Autonomous Vehicle)である。これは行政が正しく使えば、自動車の所有の概念を壊し、自動車業界を劇的に変えてしまうだろう。都市の中心部に大量の私有自動車が入り込む交通のあり方は変わり、公共交通と共有化された車両に移動需要は捌かれていき、効率性が増していく。AVについては、トヨタはEVよりもいいポジションにいる。トヨタは残酷な淘汰が進む中、競争の先端にいるPony.aiの主要投資家であり、将来的な技術提供の契約を結んでいる。

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