AIと生産性のパラドクス
現在、AIに関連して何兆ドルもの無形資産が生産されたが、汎用技術が実体経済に影響を及ぼすにはタイムラグがあり、生産性は最初、低迷し、それから著しい上昇を見せると予測されます。
作業を合理化するように設計されたテクノロジーの進歩にもかかわらず、2006年頃から1時間あたりの生産量は実際に横ばいになりました。生産性の「新しい常態」(ニューノーマル)であると考える人もいますが、MIT Sloan School of Management のエリック・ブリニョルフソンは大きな変化の前の一時的な小康状態だ、と説明しています。
ブリニョルフソンは、企業における測定されていない無形投資に90年代から取り組み、その存在を説明するモデルを開発しました。無形資産は非常に重要なフレームワークであり、現在の財務会計制度が企業の実態を反映できず、死につつあることをも示し、先進国経済で労働分配率が低下することを説明する一つの要因にも指摘されています。無形資産は、他の指標に現れない新しい汎用技術(GPT:経済全体に影響を与える可能性のある技術)の利点を示すことができます。彼らは、生産性に大きな影響を与えると多くの人が信じている人工知能(AI)の効果を調査したのです。
AIのような汎用技術(GPT)による生産性の向上を測定することは、新しいプロセスの開発や新しいスキルの習得など、無形投資に多くが最初に反映されるため困難です。ブリニョルフソンはこれを「AIと生産性のパラドックス」と呼んでいます。
AIの最も印象的な機能、特に機械学習に基づく機能は、まだ広く普及していません。さらに重要なことは、他の汎用テクノロジーと同様に、補完的な技術革新の波が開発され実装されるまで、それらの効果が完全に実現されません。必要な調整費用、組織の変更、および新しいスキルは、一種の無形資産としてモデル化できます。この無形資本の価値の一部は、すでに企業の時価総額に反映されています。しかし国の統計では新技術の完全な利点を測定できず、ミスリードなものがある、とブリニョルフソンらは論じます。もちろん、最も誤解を誘うものは、生産性という指標なのです。
GPTの具体的な利点は、これらの無形資産が測定可能なアウトプットを生成し始めるため、GPTの実装から遅延して認められる、と研究は示しています。その間の期間はかなり長く、やがて急激なアウトプットの増加を示す、「J曲線」を形成する、というのが、ブリニョルフソンと彼の同僚、MITスローン博士候補者であるダニエル・ロック、シカゴ大学のチャド・シバーソンの主張です。
彼らが2018年に公開したワーキングペーパーは、当初、GPTは測定される生産性の伸びを低下させる可能性がある、と説明します。その後、幸いなことに、これらの無形投資が成果を上げ始めたときに回復し、消費して測定できる出力を生成するのです。つまり、生産性のカーブは「J」のように見えます。まず低下するか、トレンドよりも低くなり、その後上昇するのです。ブリンジョルフソンは、AIはJカーブの初期段階にある、と考えています。
彼らによると、同様の効果は電気のような過去の汎用技術でも見られ、電気の普及は工場の完全な再設計につながった。しかし、生産性の数値でその再設計の効果を確認するには、20〜30年かかったのです。ブリニョルフソンらは、この形で現在、AIに関連して何兆ドルもの無形資産が生産されたと主張したが、国民所得にカウントされず、消費者製品や技術の改善を反映していない、と説明しています。
「GPTを組織に統合するために必要な大規模な投資は、多くの場合忘れられます」と研究は指摘します。物理的な設備や構造資本など、より簡単に測定できるアイテムを取り込むとともに、企業は新しいビジネスプロセスを作成し、管理経験を開発し、労働者を訓練し、ソフトウェアにパッチを当て、他の無形資産を構築する必要があります。
たとえば、自動運転車の作成に数十億ドルが費やされていますが、私が知る限り、通常運転で運転する無人トラックはまだありません。しかし、将来、それは必ず現れます。そしてそれが生み出す現実的な成果が実体経済を潤すには、時間差が存在するのです。
参考文献
- Erik Brynjolfsson, Daniel Rock, Chad Syverson. The Productivity J-Curve: How Intangibles Complement General Purpose Technologies. NBER Working Paper No. 25148, Issued in October 2018, Revised in January 2020.
- Erik Brynjolfsson, Daniel Rock, Chad Syverson. Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox: A Clash of Expectations and Statistics. NBER Working Paper No. 2400, Issued in November 2017.
"Ex Machina Social"by Watson Design Group is licensed under CC BY-NC 4.0