フードデリバリーは日本でうまくいく? Axion Podcast #1

東京、大阪、名古屋のような日本の1級都市は、生鮮食料品店と飲食店の「密度」は非常に高く、公共交通機関が移動のコストを落としているため、フードデリバリーが消費者の選択肢に入り込む余地が薄い。

フードデリバリーは日本でうまくいく? Axion Podcast #1

Key Takeaway

  • 東京、大阪、名古屋のような日本の1級都市は、生鮮食料品店と飲食店の「密度」は非常に高く、公共交通機関が移動のコストを落としているため、フードデリバリーが消費者の選択肢に入り込む余地が薄い。
  • ギグ・エコノミーの収益は、確保できるギグワーカーの数に依存しますが、東京のような1級都市では、ギグワーカーの確保も難しい可能性があります。
  • ドアダッシュと美団点評の両者は、郊外あるいは3〜4級都市を制し、競合との「戦争」に勝ちました。日本の郊外や中小都市が突破口かもしれません。ただし、ドアダッシュが数十億ドル、美団は120億ドルの純損失を計上してビジネスを構築しました。それが可能なスタートアップが日本にあるでしょうか?

2010年代中頃から米国と中国で出現したスタートアップの業態、フードデリバリー(食品配達)は日本ではうまくいくのか? Axion Podcastでは、吉田と平田は日本は米国と中国とは状況が異なりかなり難しそうだ、と考えています。

生鮮食品を代理購入し配達するインスタカート型とレストランの食事を配達するウーバーイーツ型の2つの類型がありますが、今回のディスカッションでは、まず、ドアダッシュ(DoorDash)と美団という米中の先行モデルを検討しました。

ソフトバンクビジョンファンドが支援する食品配達新興企業ドアダッシュは2月に新規株式公開のための書類を「秘匿扱い」として提出しています。Axionがブログ「フードデリバリーの残酷な未来」で以前分析したように、ドアダッシュには選択肢がありません。食品配送は、利益率の低い、現金集約型のビジネスです。それにもかかわらず、ウーバーイーツ、Grubhub、Postmatesとの競争は熾烈です。ウーバーとドアダッシュは、昨年、合併について議論し、ソフトバンクは両者の大株主として合併を検討することを望みましたが、取引は成立しませんでした。秘匿扱いでのIPO申請は、同社の帳簿が好ましい状況ではないことを示唆している可能性があります。

ただし、中国には世界で唯一うまくいっている食品配達企業があります。それは、美団点評(Meituan Dianping)です。美団点評は2019年から業績が好調になり、時価総額は中国テクノロジー業界最大手3社のBATのうちBaidu(百度)を追い抜き、公開されている中国テクノロジー企業のなかでは3番目の規模に達しました。彼らの成果は、Uber EatsからDoorDash、Swiggy、Deliverooまで、多額の損失を出す食品配達の希望の星です。

これを可能にしたのは、規模の経済(スケールメリット)と業務改善のおかげです。同社はより規模を拡大し、事業の損益分岐点を超えました。一回の配送ごとにより多くの注文を捌くようにし、機械学習を活用して運転手の経路を最適化し、注文をより効率的に配達しています。

しかし、同社の有望なセクターは旅行予約やグループショッピングサービスであり、これらは新たなキャッシュカウに育ちそうな徴候があります。美団点評は、旅行等の予約手数料を2018年初頭の10.4%から前四半期の14.1%に引き上げました。これにより、2018年第3四半期に830億人民元(120億ドル)でピークに達した純損失を取り戻せる公算が立ったのです。つまり食品配達で流した血を補填するのは、旅行予約のような他のセクターからの輸血なのです。

さらに、120億ドルの純損失を計上して倒産しないほど、お金を集められる企業がどのくらいこの地球に存在するのでしょうか? ビジョンファンドの2号はどうやら、1号に比べると小さいサイズに留まりそうです。スタートアップは、その恩恵を楽しむことを考慮することはかないません。ジャックポットは終わったのです。

都市内の生鮮食料品店と飲食店の密度

それから、吉田と平田は、都市計画の違いを、日本での事業適用の課題に挙げました。東京のような日本の都市における飲食店と生鮮食料品店の密度は非常に高いです。

日本の外食の質は高く、デフレで過当競争状態にあります。安い価格で驚くべき食事にありつくことができるばかりか、少ない給与しかもらえないにもかかわらず、従業員のサービスの質も高いのです。

コンビニ、小型スーパーマーケット、生鮮食品宅配などは都市の隅々まで完全に商圏のなかに包み込んでいます。特に、ドミナント戦略を敷くコンビニには、弁当、お惣菜、冷凍食品などさまざまな消費者のインテント(意図)に応じた、高品質の生鮮食品を提供しており「食品配達キラー」に見えます。

都市圏と生産地をつなぐコールドチェーンの高い質

生鮮食品宅配業者は日本は世界のなかでもかなり進んでいるように見えます。パルシステムの生鮮食品宅配、オイシックスのミールキットなどは、極めて質の高いサービスであり、コンビニなどとともにインスタカート型の参入余地を根絶やしにします。

日本の都市圏と生産地をつなぐコールドチェーンの質は世界的にも非常に高いレベルにあり、これらが上記のビジネスを可能にしています。吉田と平田は、海外にこれらのサービスを輸出することに潜在性を見出しましたが、海外で日本と同等のコールドチェーンにありつくことは難しいのです。

これらもエンドユーザーがわざわざ、スタートアップを通じて出前を頼んだり、配達を頼んだりする理由を奪いかねません。

発達した公共交通機関

公共交通機関もあなどれません。自動車を基点とする米国の都市に対し、日本の都市の公共交通機関の質は高く、モビリティ(移動)のコストは低いため、食品を買うために移動することは特に時間を浪費するわけではありません。

発達した公共交通機関は、日本に進出したウーバーが振るわなかった主要な要因にもなりました。

また、公共交通機関のターミナルには必ず食事や食品にありつくための施設の集合が見られます。「駅ナカ」のほか、乱立する飲食店を詰め込んだビル、商店街もまた有力な生鮮食品配達キラーとなるでしょう。

都市内の経済格差

また、二人は、さらに都市内の経済格差にも注目します。プラットフォームの収益は、安価な配達人員の確保に依存しますが、日本は米国や中国ほど安価なギグワーカーの確保が困難な可能性があります。それは米中ほど、日本が経済格差の厳しい残酷な世界になっていないことと関係しています。

米国の都市では、1980年代以降、教育水準の高い労働者にとっての都市の賃金の優位性はより顕著になり、それほど教育を受けていない労働者のための都市の賃金プレミアムはほとんど消えています。中級スキル者のための中級賃金の職が成長を止める代わりに、じわじわと増えているのが、ギグワークで、それは全体に対し大きなシェアをとってはいないですが、中流から滑り落ちた人が、本業以外の空いている時間を投入する対象になっています。

つまり都市の中の経済格差こそが、人をギグワークに駆り立てる原動力なのです。コロナウイルス不況のいま、もしかしたら、中流から滑り落ちる人が続出し、ギグワークに活路を求めるかもしれませんが。

郊外、3〜4級都市に機会

ドアダッシュと美団天評の両者は、郊外あるいは3〜4級都市を制し、競合との「戦争」に勝ちました。日本でも郊外や中小都市が突破口かもしれません。ただし、ドアダッシュが数十億ドル、美団は120億ドルの純損失を計上してビジネスを構築しました。それが可能なスタートアップが日本にあるでしょうか?

結論

食品配達は、米中では参入余地がありましたが、日本では、参入障壁が高すぎるように映ります。

Photo by Kai Pilger on Unsplash

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