ソフトバンクが支援する食品配達新興企業ドアダッシュ(DoorDash)は、新規株式公開のための書類を「秘匿扱い」として提出しました。IPOの時期としては好ましくありません。ウォール街はコロナウイルスの大流行に対する恐れにとらわれています。米国の株式市場は、2008年の金融危機以来の巨大な不確実性にさらされています。B2C企業であるCasper Sleep、SmileDirectClub、PelotonのIPO後の株価は投資家に自信をなくさせるのに十分です。

それでも、ドアダッシュには選択肢がありません。食品配送は、利益率の低い、現金集約型のビジネスです。それにもかかわらず、ウーバーイーツ、Grubhub、Postmatesとの競争は熾烈です。 ドアダッシュは昨年、レストランに請求する料金を引き下げ、顧客の売上割戻を増やすことで、Grubhubのマーケットリーダーの座を奪うことができました。一方、価格戦争をさらに加速させるために必要な資金は、手に入れるのが難しくなっています。

ウーバーの株主でもあるソフトバンクは、同社に対する考え方を硬化させています。Financial Timesによると、ウーバーとドアダッシュは、昨年、合併について議論しました。ソフトバンクは両者の大株主として合併を検討することを迫りましたが、取引は成立しませんでした。しかし、FTの情報源によると、再交渉の余地はオープンにされたままのようです。

新規株式公開は、ドアダッシュが現金を獲得する1つの方法です。もう1つは、競合他社の1つに自社を売却するか、競合他社と合併することです。どちらのオプションも、昨年5月の最後の資金調達ラウンドで達した時価総額126億ドルを維持できないことを意味するでしょう。ニューヨーク証券取引所は一貫して利益を上げてきたGrubhubの価値を、たったの40億ドルと算定しています。

競争環境は「砂漠」に近づいています。Grubhubは10月に焦土作戦を発表しました。同社はDoorDashのトップラインの成長のくじく戦術を採用する予定です。その月のうちにGubhubは目を覆いたくなる決算を発表し、株価は40%急落しました。これはドアダッシュの未来をも予見している可能性があります。

食品配達の唯一の生存者は、中国の美団点評(Meituan Dianping)です。美団は中国の3級〜4級都市での利用者を固めることに成功し、アリババが支援するEle.meとの「焼銭戦争」を終えると、食品配達事業を黒字化しました。現在、Meituan Dianpingはスーパーアプリ化の最中であり、旅行や映画の予約のような食品配達以外のセグメントが高い利益率をはじき出しています。食品配達自体は儲かるビジネスではないのです。

美団の食品配達事業に黒字化をもたらした主要因は、低い費用でギグワーカーを確保できることです。手数料を2018年に10.4%から14.1%に引き上げていますが、これは対し、ドアダッシュの手数料の平均は20%とされ、ウーバーのそれは30%とされています。つまり、米国勢に比べ手数料の幅が小さいのにもかかわらず、美団が利益を出し、ドアダッシュが赤字を計上するのは、配達の頻度が高いことと、人件費が低いことを意味します。もう1つは市場のパイの大きさです。

食品配達が、余剰資金と熱狂が生み出した蜃気楼であり、利益を生むために考えられた事業ではない可能性があります。米国の食品配達アプリケーションを利用した場合、利用者が支払う金額は、元の価格から最大91%引き上げられることがある、とニューヨーク・タイムズの調査でわかっています。ウーバーは運転手と乗客のマッチメイキングで、一度たりとも利益を出した事はありません。シリコンバレーや経済学者は"マーケットプレイス"のメカニズムとその設計余地に魅了されていますし、僕も魅了されていますが、ただ、公平を期すと、ギグワーカーが絡んだマーケットプレイスは、初めのうちは大きな驚きを与えてくれるのにもかかわらず、その大半があまり儲からない傾向があります。そして、その理由は、明らかにされていません。もしかしたら、それは不都合な真実として、だれも知らないところで葬り去られているかもしれません。

そしてギグ・エコノミーはしばしばギグワーカーを犠牲にしますが、次第にそれは難しくなりそうです。米カリフォルニア州では1月、配達を担うギグワーカーを契約社員としての扱うことを明記し、正社員化を促す新法施行しました。この新法は、配達業者が、契約するレストランに対して顧客データを共有することを規定しています。これはGrubhubが昨年10月にマーケットプレイスに登録をしていないレストランの食事を配達することを開始しようとしていたことを防ぐ意図があるようです。契約社員、あるいは正社員として扱うことで、人件費が上昇した場合、食品配達業者の損失はさらに拡大することになります。

この新法もまた、ドアダッシュが「秘匿扱い」のIPO申請の引き金を引いたのは、想像に難くないのです。出口はどんどん狭くなりつつあり、そこをすり抜けられるか、に焦点が移っています。たとえ、すり抜けられたとしても、その後、息をしていられるのか。ドアダッシュは不当にリスクの高いゲームのなかに囚われているのです。

ギグエコノミーとマッチングの課題

ドアダッシュはギグエコノミーの労働力をめぐってLyftやUberと同様のリスクに直面しています。ドアダッシュは2019年、ドライバーのチップをめぐる論争に巻き込まれましたが、この問題は労働者への給与を増やすことで部分的に解決しました。司法長官は同社が人件費削減のために顧客のチップをポケットに入れたと主張してドアダッシュを起訴。ドアダッシュはチップの仕方を変更することで解決したが、チップに手を付けようとした主たる理由である収益の確保については課題が残りました。

カリフォルニア州では1月、配達を担うギグワーカーを契約社員としての扱うことを明記し、正社員化を促す新法施行しました。契約社員、あるいは正社員として扱うことで、人件費が上昇した場合、食品配達業者の損失はさらに拡大することになります。

世界で最も成功した食品配達の美団点評が黒字化を達成した主要因は、米国に比べ、比較的低い費用で、農村部出身のギグワーカーを確保できたことでした。

しかし、配車のように、誰でも食事の配達でお金を稼げるかというと、決してそうではない。実際には、経済性はさらに悪いかもしれず、調整はもっと複雑です。配達業者は調理にかかる時間が異なる料理を扱わなければならないし、レストランは社内の顧客からの注文に対応しなければなりません。何よりも重要なのは、ステークホルダーが乗客とドライバーだけではなく、買い手、レストラン、ライダーの3つ存在することです。

配車の両面市場における二者のマッチングが、市場の厚みを作るためにわざと遅延させるなどのアルゴリズムの進化により、その効率性を高めたが、食品配達のマーケットプレイスにおける三者間のマッチングがもっと難しいことは想像に難くありません。しかも、食事には調理されてから配達までに明確な時間の制約が存在します。

Image: "TechCrunch Disrupt NY 2016 - Day 3" by TechCrunch is licensed under CC BY 2.0