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要点

ゲームビジネスでは定額制やマイクロトランザクション等の新しいビジネスモデルが顕在化し、ゲーム内経済のような魅力的なゲームデザインの方法が発達している。そして、それを新型コロナの感染は、著しくドライブしている。ゲームがゲームだけにとどまらない役割を増しつつある。

『あつまれ どうぶつの森』の仮想資本主義

『あつまれ どうぶつの森』が世界中で大ヒットしている。グローバルでは、20日の発売から6週間で1341万本を販売し、国内では発売から約3ヶ月で累計500万本を突破した。新型コロナウイルスの影響で、人々が外での活動を減らす一方、あつ森のなかでの活動を活発化させた。

あつ森は楽園ではなく、仮想資本主義の世界だ。プレイヤーは、ゲームに登場する親切なタヌキの権力者「たぬきち」に管理されながら、より高い目標であると自分が信じ込んだものを追い求めて永久的に働くことになる。

金融政策すら登場する。ゲーム内の中央銀行「たぬきバンク」が4月22日、ゲーム内の時計を操作することでゲーム内通貨「ベル」の貯金の金利を最大化するチートへの対抗策として、「金利引き下げ」を実行している。

この「金利引下げ」は英国の経済紙フィナンシャル・タイムズの1面を飾った。ユーモアが散りばめられた記事は「たぬきバンクが、コロナウイルス時代の最も人気のあるビデオゲームが金利の急な引き下げを行うことによって、世界の中央銀行を模倣しているため、同行の預金者はカブやタランチュラの投機に駆り立てられています」という書き出しから始まる。

この仮想資本主義のなかで「仕事」を見つけるものが現れている。庭の手入れやその他の雑務を請け負う「便利屋」やデザイナー、ウェディングプランナー、写真家などが登場している。

「没入性の高い電脳空間における経済と社会的ネットワーク」のコンセプトに、80年代SFから「メタバース」という名前を拝借してきたのは、エピックゲームズのCEO、ティム・スウィーニーだ。スウィーニーが「メタバース」を描写する題材は決まって、エピックが運営する大ヒットゲーム「フォートナイト」だが、この仮想空間では大群衆がEDMを踊っている。2019年2月のEDMアーティストMarshmelloのコンサートには1070万人が参加したが、ロックダウン期間中には、トラビス・スコット、ディプロ、スティーブ・アオキ、デッドマウス等の有名アーティストのパーティが行われている。

「DILLON FRANCIS、STEVE AOKI、DEADMAU5があなたをパーティーロイヤルのプレミアにご招待」。出典:エピックゲームズ

フォートナイトは、近年変化を続けているゲームビジネスの変化を饒舌に物語る。このゲームは一度、主流ゲームから少し脱落した時期があったが、その後、復活を遂げている。5月にはゲームのユーザーベースが3億5千万人に達していると同社は発表した。ちょうど1年前には2億5,000万人だった数字が、1年経った今もなお成長を続けていることを示している(本作は発売から2年半以上経っている)。

加えて、フォートナイトはエピックが提供するゲーム開発プラットフォームの「アンリアルエンジン」で開発されているが、アンリアルエンジンはマルチプラットフォーム開発を可能にしている。スウィーニーはゲーム開発者を悩ませ続けてきたプラットフォームの断片化を乗り越えることで、パブリッシャーはメトカーフの法則(「ネットワーク効果」に類似)を享受できるようになったと謳っている。

ビジネスモデルの変化

この長期に渡り、人々の関心を掴む様子は、もはや従来型のゲームではなく、ソーシャルメディアのようだ。ゲームの収益化方法はここ数年で大きく進化している。今日の消費者は、以前の数十年よりもゲームの購入数を減らしているが、ゲームに費やす時間を増やしており、ビジネスモデルはパッケージ販売の売り切りモデルからアクティブなユーザーベースから生成される定期的な収益へと変化している。

その結果、業界はユーザー1人当たりのエンゲージメントを高めることに注力している。ビデオゲームを可能な限り魅力的なものにすることに加えて、そのための戦略として、ゲーム内での収益化の機会を採用してきた。この追加ダウンロードコンテンツ(DLC)には、拡張パック、新機能、ツール、キャラクター、「戦利品箱」などがある。

このビジネスモデルは、ゲームハードウェア、帯域幅、モバイルインターネットの改善と連動しており、高品質のゲームがデバイスやプラットフォームを超えてよりアクセスしやすくなっている。実際、ゲーム業界の収益の半分近くがモバイルゲームによるものとなっている。

このようなビジネスモデルの変化が、ゲームデザインの変化ももたらしており、「ゲーム内経済」はその典型的なものだ。「あつ森」の資本主義の写し鏡のような経済も、フォートナイトのより人と人のつながりを楽しむための経済もこれにあたる。この経済によりゲームへの愛着がまし、他のプレイヤーとの相互作用を増えることが様々なタイトルで確認されている。

ロックダウン期間のゲーム利用は拡大

リサーチ会社ニールセンのデータは、新型コロナの流行が人々のビデオゲームのエンゲージメントを過去最高の水準に導いたことを明らかにしている。Nielsen Games Video Game Tracking(VGT)によると、現在ビデオゲームをより多くプレイしていると回答したゲーマーの数は、2020年3月以降、週をまたいで増加していることが明らかになった。増加率が最も高かったのは米国(46%)で、次いでフランス(41%)、イギリス(28%)、ドイツ(23%)となっている。

3月中旬以降、ビデオゲームを以前よりもより多くプレイしていると回答したゲーマーの数がスパイクしている。出典:ニールセン

新型コロナがゲーム産業にとって追い風だったことは間違いなさそうだ。ゲーム製作プラットフォーム開発会社Unityの報告書によると、コロナの感染拡大の前後で以下のような変化が見て取れたという。報告書から一部を抜粋しよう。

  1. 以前よりも多くの人々がゲームをプレイするようになった。前年比で、HDゲーム(PC, macOS, Linuxのような他のプラットフォームでのゲーム)のDAUが46%増加し、モバイルゲームのDAUは17%増加した。
  2. 休日と平日の差がなくなった。土日と平日のゲーム行動が差が63%減少。コロナ感染拡大以前の平日と週末の平均差は1.5%だったが、パンデミック宣言後は0.56%に縮小した。5月の1週間、平日と週末の間では、平日の方が週末よりも1日のゲームプレイ時間が多かった。
  3. 継続性が強化された。HDゲームでは、パンデミックが宣言されてからゲームプレイ初日の継続率が11%、30日目の継続率が8.8%上昇するなど、全体的に継続率が上昇した。
  4. ゲーム内取引が拡大。モバイルゲーム内のアプリ内購入が、パンデミックが宣言されてから24%増加した。
  5. 異なる国で同様の反応。先行して都市封鎖が行われた中国では著しいゲームボリュームのスパイクが観測された。「ステイホーム」宣言後は各国で同様のパフォーマンスの急騰が見られた。

新型コロナの感染拡大を契機にゲームをする人々は増えている。人々はよりゲームに夢中になり、ステイホームの実施やリモートワークへの転換により土日の境がなくなりつつあるようだ。

同時にゲーム実況のストリーミングも確かな成長を示している。Streamlabsのデータによると、Twitch、YouTube Gaming Live、Facebook Gamingのようなプラットフォームの利用も急増しており、全体で利用時間が約20%増加したと報告されている。

2月から3月にかけて、Twitchでの視聴時間は23%増、YouTube Gaming Liveは10.7%増、Facebook Gamingは3.8%増、Mixerは14.9%増となっている。出典:Streamlabs

COVID-19はゲームのエンゲージメントを高めた

COVID-19がゲームに与えた影響は、ゲームに興味を持つオーディエンスを大幅に拡大させたことだ。業界大手の任天堂とテンセントの両方が第1四半期に売上高の増加を見た。任天堂はゲームのほぼ半分をデジタルで販売し、それが利益の41%増に貢献した。テンセントのオンラインゲームの収益は前年同期比で31%増となった。「GamesIndustry.biz」の分析によると、主要50市場のゲーム販売額は63%増となっている。「あつ森」を含むパンデミック期間中に発売されたゲームも好調で様々なタイトルが発売後に過去最高の売上を記録している。Comcastのデータは、新作ゲームのダウンロード数が80%増加しているのに対し、ゲーム全体のダウンロード数は50%しか増加していないことを示している。

ただし、多くのゲームが無料で利用できるようになった(そしてゲーム内で収益化される)ため、ダウンロードと売上だけを見ても全体像を把握することはできない。しかし、エンゲージメントに関する他の指標も同じことを物語っている。ベライゾンは、ピーク時のゲームトラフィックが75%増加し、デジタルビデオトラフィックは12%増加し、ウェブトラフィックは20%増加したと報告している。

ゲーム業界にとっては、世界中の工場がサプライチェーンの中断に直面しているため、コロナウイルスの影響でゲームハードウェアの生産に一時的な遅れが生じる可能性が高くなっている。さらに、ゲーム開発者は、より多くの従業員がリモートワークを行うため、効率性の低下を懸念している。任天堂は、リモートワークの長期化が自社のプロセスに影響を与えると警鐘を鳴らしており、ニューヨーク・タイムズは、ソニー、アマゾン、スクウェア・エニックスなどの大規模デベロッパーが困難に直面していると報じている。

長期的に向かう先

1つ目のトレンドは、ゲームへの関心の高まりは、すでに進行中のモバイルやクラウドを利用したゲームビジネスへのシフトを加速させる可能性があることだ。大ヒットタイトルでさえも、モバイル端末で配信するケースが増えている。一方、クラウドゲーミングは、高価なハードウェアを必要とせずに、複数のデバイスでストリーム配信されたゲームをプレイすることができる。

業界は今、この配信モデルに可能性を見出している。ゲームパブリッシャーのアクティビジョン・ブリザードは、人気タイトル「コール オブ デューティ」のモバイル版を中心に、アナリスト予想を50%上回る収益を報告した。グーグルは最近、クラウドゲームサービス「Stadia」の登録料130ドルを撤廃した。トラフィックの急増に関する課題は依然として残っているが、大きな期待が寄せられている。

2つ目の長期的なトレンドは、サブスクリプションモデルと無料プレイモデルによる収益化方法の多様化だ。サブスクリプションは、小規模で質の高いゲームのパブリッシャーにマーケティングや収益化のノウハウが不足している場合に、信頼性の高い収益化への道筋を提供している。

「AAA」と形容される超ハイエンドゲームへの需要は今後も続くと思われるが、Apple Arcade(アップル)やXbox Game Pass(マイクロソフト)のようなサービスは、ゲーマーにビデオゲームの大規模なライブラリを提供しており、多くの場合、高度なハードウェアを必要とせずにゲームを楽しむことができる。

一方、フォートナイトのような無料で遊べるゲームでは、開発者は消費者に先行購入を説得する必要がなく、その代わりに、アップグレードや拡張パックなどのゲーム内アップセルの機会を提供している。このような「食べ放題モデル」は、消費を促す可能性すらある。マイクロソフトは、サブスクリプションはゲーマーのプレイ時間を最大40%増加させると報告している。

3つ目は、ゲーム業界が他のエンターテインメント分野との連携を強化することだ。ビデオゲームの中には、文化的な言説にまで波及するほどの人気を誇るものもあり、上述したフォートナイトはその最たる例である。

ロブロックスやグランド・セフト・オートのような他の例外的に人気のあるゲームは、過去にも同様の戦略を採用している。1億2,000万人のアクティブユーザーと、毎月15億時間のプレイ時間を生み出すゲームの吸引力は、他のエンターテイメント部門にとって無視できないものだ。今後は、メディア企業がゲームの勢いを利用しようとしているため、より幅広いエンターテインメント業界との提携が増えていくと考えられる。ソニーは音楽とゲームの交差点で働く没入型メディアチームを構築しているとの報道があった。これは、そのインフラを提供するテクノロジー企業などの支援産業にもチャンスをもたらすものである。

Photo by Florian Olivo on Unsplash