Grabの悲劇的上場

青色吐息のSPAC上場とあやしげな会計

Grabの悲劇的上場
via Grab.

要点

ソフトバンク、トヨタ、三菱UFJ銀行など日本を代表する企業が投資する東南アジアの配車企業Grabが青色吐息のSPAC上場に向かっている。怪しげな会計が「表現」するビジネス状況は、投資家の自信を損ねている。


Grabは9月初旬、当初の目標であった7月から延期されていた米国での上場計画に関する最新情報を月曜日に発表した。4月には、特別目的買収会社(SPAC)であるAltimeter Growth Corp(AGC)との合併により、企業価値を400億ドル近くに引き上げて、ナスダックに上場する計画を発表した。

6月には、監査法人がグラブの過去3年間の財務状況を調査するため、SPACによる合併は2021年の第4四半期に延期された。この延期は、米国証券取引委員会(SEC)がSPACに対する監視を強化したことを受けたものだ。

Q4に予定されるAGCとの合併では、取引の一環として、ブラックロック、フィデリティ、T. ロウ・プライス、モルガン・スタンレーのカウンターポイント・グローバル・ファンド、およびシンガポールの政府系ファンドであるテマセクによる私募増資(PIPE)で40億ドルを含む、約45億ドルの現金を受け取る予定だ。

Grabの主要株主には、ソフトバンク・ビジョン・ファンド、ウーバー、Didi Chuxing(滴滴出行)、トヨタ自動車などが名を連ねている。彼らが合併後の企業でも88%程度のシェアを分け合うことになる。

SECへ提出資料(From F-4)によると、Grabと合併するSPACは、通常のSPACと異なりスポンサー(発起人)の取り分を抑制する構造をしている。株式の希釈化を招き、通常のIPOに比べ発行体に多くの負担を強いる通常のSPACのダウンサイドが軽減されている。

SPACの基本構造
これは、Ramey Layneらの「Special Purpose Acquisition Companies: An Introduction」(2018)の抄訳。全訳ではない。SPAC調査のメモとして作成したが公開することにした。
SPACの冷静な見方
SPACは未上場企業にとって株式公開のための安価な方法であるが、SPACの投資家がそのコストを負担しているだけであり、これは持続不可能な状況である。プロセスの中で33%の現金が消え、合併後の株価が平均で3分の1以上下落する。

計画されている合併が完了すると、Grabの取締役はCEOのアンソニー・タンを含めて6人となり、そのうち4人が独立取締役となるという。現在取締役を務めているウーバーのダラ・コスロシャヒCEOは、引き続き取締役に就任する。

高すぎるPSR

Grabは、SECの要求によって重要な数値を明るみに出した。おそらく投資家が最も懸念するのは、2020年会計年度の収益が12億ドルから4億6,900万ドルに大幅下方修正されたことだろう(61%減)。この修正では、いくつかの営業費用が対収益項目(つまり売上原価)として計上された。

2021年Q1では、純損失は6億5,200万ドルで、前年同期の7億7,100万ドルの損失から減った。収益(Revenue)は2億1600万ドルと、前年同期のわずか100万ドルから大きく伸びたが、SECの指示で消費者に支払われたインセンティブを除外し国際会計基準(IFRS)に合わせたため、収益の数字は大きく下方修正された。

未監査の会計で不確実性が高い。SECの要請を受けRevenue(収益)は調整した。
未監査の会計で不確実性が高い。SECの要請を受けRevenue(収益)は調整。

Uberのようなプラットフォームでは、GMV(流通総額)がプラットフォームで行われた取引の総額を意味する。このうち、Grabが手数料として徴収する分が収益(Revenue)に含まれる。Grabと同様、ソフトバンクが筆頭株主となっているDidiは当初の上場目論見書でGMVをRevenueとする勇敢さを示し、SECから改訂を要求されている。

何をRevenueとするかの線の引き方次第で、会社の見栄えが違うのだ。

東南アジアは各国で会計基準が異なる。それをGrabはシンガポールの本社で突合して「監査前の会計」としている。進行中の監査法人の監査により、IFRSに照らした数値がわかるまでは、Grabの財務状況を評価することは難しい。筆者はインドネシアで5年間ジャーナリスト活動を行ったことがある。シンガポール以外の地域では多様な会計が行われており、ルールの隅を突くことはそこまで困難ではない実情を筆者は知っている。

さらに9月14日に発表された2021年Q2の業績報告では、収益は前年同期比132%増の1億8,000万ドルとなったが、純損失は8億1,500万ドルと拡大した。調整後EBITDAも-2億1,400万ドルと横ばいだ(調整後EBITDAは非IFRS)。財務状況は依然として苦しいやりくりが続いていると言っていいだろう。

未監査の会計で不確実性が高い。調整後EBITDAは非IFRS。参考になるか?

Grabの主張は、GMVが年同期比62%増の39億ドルとなっており、COVID-19の流行により各国政府が移動規制を強化しているにもかかわらず、配送と配車のセクションはそれぞれ58%、93%と前年同期比で大幅にGMVを伸ばしたことだ。これが将来的に収益化可能ならば、現在の苦しい財務からの脱却が図れるかもしれない。

Q2の収益1.8億ドルを年換算7.2億ドルとし、14日終値10.23ドル、合併取引の最中までに償還がなかったシナリオに則ると合併後の時価総額は404億118万ドル。これにより株価売上高倍率(PSR)は56.11という非常に高い水準に達する。UberとDidiのPSRの5.74と1.04と比較すると遥かに高い数値だ。

それでもPIPEに参加するブラックロックのような投資家はこの取引で得をできると見込んでいるようだ。東南アジア市場のポテンシャルをGrabが享受し始めれば、財務状況は改善し、株価は上がると考えているのだろうか。

しかし、競争環境は厳しい。東南アジアのゲームとEコマースは、Sea Limitedを市場リーダーとすることが確定的だ。Grabは大きく引き離された2番手を追走しているが、その事業の一部は料理宅配のような収益性の低いものである。

Sea Limited、東南アジア市場を独走
上場決定のGrab, 合併観測のGojek, Tokopediaが二番手集団
東南アジアの雄Sea limitedの急成長は南米へと拡大
ゲームとECの双方で南米市場の最上段へ

フィンテックでは、最大市場のインドネシアでのライセンスを取得できず、現地財閥の企業への出資による参入を強いられている。また、Sea LimitedのShopee PayがEコマースから店舗決済にもシェアを広げており、Grabは圧迫されている。Grabは残された配車でも主要市場のインドネシアでGoJekのリードを許している。

そして買収を繰り返して、スーパーアプリに変身しようとする格安航空会社エアアジアのような予想外の競争相手も登場した。

Grabはこの苦境を跳ね返すことができるだろうか。

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