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RISC-VがArmに取って代わろうとしている

RISC-VはArmの牙城を崩している。「IPの民主化」というゲームは、Armのプロプライエタリな戦略に疑問を投げかけています。Armはビジネスモデルの転換が迫られています。

4 months ago

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Armは、世界で最も成功したマイクロプロセッサアーキテクチャのひとつであり、ライセンシーは年間数十億個のチップを出荷しています。しかし、ここ数年でRISC-Vと呼ばれるライバルが出現しました。RISC-Vは、研究者が始めた「オープンソース」の命令セットアーキテクチャ(ISA)です。

その支持者はみるみるうちに広がり、2019年12月、2,000人のエンジニアおよびその他の専門家が、カリフォルニア州サンノゼで開催されたRISC-Vサミットに参加しました。主にカルフォルニア大学バークリー校のコンピュータ科学者で構成されたRISC-Vファウンデーションのリーダーたちは、RISC-VベースのチップはArmだけではなくIntelをも追い越しうる成長性を秘めている、と主張しています。

RISC-Vは、2010年にカリフォルニア大学バークレー校のPar Labプロジェクトとして開始されました。これは、シンプルで効率的で拡張可能で、他のユーザーとの共有に制約のないISAを開発することをその目的としていました。そのため、Krste Asanovic(SiFiveの創設者)、Andrew Waterman、Yunsup Lee、およびDavid PattersonがRISC-Vを開発しました。彼らは2011年に最初のチップを製造し、仕様をオープンソースとして公開、商業製品にも利用しやすいBSDライセンス(オープンソースソフトウェアに適用されるライセンス体系の一種で、カリフォルニア大学バークリー校で生まれたBSD系UNIXのライセンスのために成立した方式)のもとで誰でも自由に使えるようにしました。試行錯誤の末、GitHubで公開されています。

デイビッド・パターソン(元カリフォルニア大学バークレー校コンピューターサイエンス教授および現在のGoogleのDistinguished Engineer)は、当初の動機は、チップのトランジスタ数が2年ごとに2倍になるという予測であるムーアの法則が減速しているため、チップ設計で実験を実行することであり「3カ月のプロジェクトとして開始したが、実際には4年を要した」と語っています。

起源:なぜ命令セットだけがオープンソース化されないのか?

アカデミックグループは、Linuxがソフトウェアで達成し、ソフトウェアのあらゆる領域に広がった「オープンソース」に触発されました。彼らは、プレゼンテーションの序盤に必ず「なぜ、ハードウェアだけがオープンソース化していないのか」と語りかけるスライドを配置します。

しかし、オープンソースはハードウェアにはそのまま移植できる概念ではありませんでした。アカデミアのチームは、Intel、Armらのプロプライエタリ(専売的)なエコシステムのせいで、研究のための安価なライセンスを取得することができない、と理解したとき、独自のアーキテクチャを創造する決断を下したのです。彼らはLinuxがソフトウェアに対して行ったことをハードウェアに対して実行しようと決心しました。

RISC-Vの開発チームの1人、パターソンは、1980年代および1990年代のマイクロプロセッサ戦争の伝説的な人物です。彼はRISC(縮小命令セットコンピューティング)の共同発明者であり、CISC(複雑な命令セットコンピューティング)に反対しました。 Arm、Sun Microsystems、Mips(パターソンのコンピューターサイエンスの定番教科書の共著者であり、スタンフォード大学の前学長ジョン・ヘネシーが起業)のような企業はRISCを支持し、IntelはCISCに焦点を当てました。IntelがPC戦争で勝利した一方で、RISCを採用するArmはスマートフォンを支配しました。現在、パターソンと彼の仲間のバークレーの研究者は、Armの地位を揺るがす戦いの火蓋を切ったのです。

パターソンは「うまくいくとすれば、RISC-VとNVIDIAだけでなく、人々が自分で設計し、コミュニティが利用できるようにしたり、改良したりできるコンピューティング機器の別の側面も見られるはずです」と語っています。

ドメイン固有アーキテクチャ(DSA)またはドメイン固有アクセラレータが今後の道である場合、人々がアクセラレータを追加できる設計が必要になります。RISC-Vは、オープンアーキテクチャであり、そのために設計されているため、非常に簡単にそれを実行できる、と彼は想定しています。パターソンがRISC-Vに賭ける理由は、彼が、ムーアの法則以降の世界において、DSAが次の道だと提唱していることと関係しているのです。

さらに、Intelは、製造の進歩だけではムーアの法則のペースを維持するのが難しいと感じているかもしれません。そのため、設計者はアプリケーション固有のプロセッサを作成して速度の低下を補うようにプレッシャーを受けている、というのがパターソンの持論です。パターソンとヘネシーが手掛けるコンピュータアーキテクチャの定番教科書の最新版である"Computer Architecture 6th Edition A Quantitative Approach" では、第7章にドメイン固有アーキテクチャ(DSA)の章が新設されています。

パターソンはRISC-Vの設計思想について、RISC-V原典の第1章でこう指摘しています。「ムーアの法則が通用しなくなったときにコスト・パフォーマンスを大きく向上させる唯一の道は、特定のドメイン向け命令を追加することである。例えばディープ・ラーニング、拡張現実、組み合せ最適化、グラフィックスなどのドメインが考えられる。つまり今日のISAにとって、オペコードの拡張の余地を予め確保しておくことが重要になっている」

コンピュータアーキテクチャの研究者は数十年もこのアイデアの周りで侃々諤々の議論を繰り広げてきましたが、ついに2015年に独立した非営利団体として「RISC-Vファウンデーション」を創設しました。

2016年、NvidiaはRISC-Vをグラフィック処理ユニット(GPU)のコントローラーとして使用すると発表しました。Nvidiaは現在、これらのチップを何百万個も出荷しています。そうは言っても、このようなチップでは、RISC-Vは組み込み制御プロセッサとして小さなタスクを処理する可能性が高いのですが、デバイスは依然としてメインプロセッサとしてArmデザインを使用しています。2017年、Western Digitalは、製品ライン全体をRISC-Vに移行すると発表し、コアをオープンソース化しました。

以前は、チップ設計者は、チップを製造するベンダーを選択する必要がありました。 RISC-Vを使用すると、RISC-Vを選択して、すべてのベンダーがビジネスを競います。許可を得ずに独自の拡張機能を追加できます。それは、まるでアプリケーションを開発するかのようです。そう彼らはまさしく「パンドラの箱」を開けようとしているのです。

なぜRISC−Vが注目を集めているか?

RISC-V が多くの関心を集めている理由はいくつかあります。1つは、RISC-V はオープンソースであり、ライセンス料を支払うことなく、誰でもISAを実装するプロセッサを設計できることを意味します。これにより、ISAは、時間の経過とともにアーキテクチャを確認、修正、および強化できる巨大な世界規模のデザインコミュニティに開かれます。しかし、ISAのみがオープンソースであるため、開発者はハードウェアデザインの知的財産を保護し、商用目的のために独自に所有することができます。

RISC-Vが業界の関心を集めた2番目の理由は、ISAが長期の実行可能性に対して安定であると同時に、幅広いアプリケーションに適応するようにカスタマイズできるように設計されていることです。ISAのコア仕様は、今後数か月で200人以上のRISC-V ファウンデーションのメンバーによる最終承認が予定されており、現在準拠しているプロセッサ向けに開発されたソフトウェアは、今から数年後に開発された同等のプロセッサ上で実行されるように凍結されます。ISAは、32ビット、64ビット、および128ビットの実装用に定義されており、より大きなベースの実装で実行可能なより小さなビット幅のコードを備えています。

ISAの基本仕様を補完するのは標準の拡張機能であり、多くは凍結され、最終承認に向けて順調に進んでいます。開発者は、アプリケーションの要求に応じて、これらの標準拡張を実装するかどうかを、基本実装で動作するように作成されたソフトウェアに悪影響を与えることなく実装できます。さらに、RISC-V開発者は、カスタマイズされた拡張機能を追加して設計をさらに最適化し、それがベースソフトウェアまたはツールへの悪影響をおよぼすことは、ほとんど確認されていません。

この標準ベースのカスタマイズ可能性のキメラは、業界の大きな関心を集めていますが、ISAのオープンソースの性質は、これを支援するエンジニアリングの盛況を助長しました。Linuxの基本ポート、GNUベースの開発ツール、およびいくつかのコアデザインは、オープンソースコミュニティからすでに入手可能です。さらに、SiFive、NXP、Kendryte、GreenWaves Technologiesなどの企業は、市販のRISC-Vチップを作成しました。NvidiaやWestern Digitalのような他の企業は、内部使用向けのプロセッサの開発に、RISC-Vを採用し始めています。商用ソフトウェアの開発も進行中であり、Adacoreは、安全性とセキュリティが重要なアプリケーションのために、AdaおよびSparcプログラミング言語をRISC-Vに導入するよう取り組んでいます。

RISC-Vの支援者は世界中にいます。たとえば、中国ではRISC-Vの勢いが増しており、インドでは新興企業のInCoreがRISC-VプロセッサとAIアクセラレータに取り組んでいます。さらに、EE Times Indiaのレポートによると、RISC-Vはインドの国家ISAとして採用されており、同国の設計産業がIntel x86およびArm ISAに依存しないよう支援しています。ヨーロッパのエンベデッドワールドショーの訪問者は、RISC-Vの展示を楽しみました。

現在、RISC-Vファウンデーションに参加する企業・団体・教育機関にはGoogleやNVIDIA、サムスン電子、テスラ、TSMC、アリババ、ウエスタンデジタルといった大手企業を含んでおり、高価なプロプライエタリのライセンスに手が届かない新興国を含んだ世界各国との連携が開始されているのです。

市場予測: RISC-V CPUの出荷  CAGR146.2%

Semico Researchのマーケットリサーチ報告書 "RISC-V Market Analysis: The New Kid on the Block" は、2025年までに合計624億個のRISC-V CPUコアが市場で消費され、産業部門は167億個のコアが出荷される最大のセグメントになると予測しています(図1)。Semicoは、コンピューター、消費者、通信、輸送、および産業市場を含むセグメントは、2018年から2025年の間に146.2%の年間平均成長率(CAGR)を実現すると予想しています。Semicoは、RISC-Vが高性能マルチコアSoC、バリューマルチコアSoC、基本SoCおよびFPGAの4つの分野すべてで出荷を拡大すると予測しています。

図1. 2025年に向けて著しい市場成長。Semicoは、コンピューター、消費者、通信、輸送、および産業市場を含むセグメントは、2018年から2025年の間に平均146.2%の年間平均成長率(CAGR)を実現すると予想。Source: Semico Research “RISC-V Market Analysis: The New Kid on the Block”

2018年から2025年までのRISC-V CPUコアのCAGRの予測では、Semicoは、5Gの導入と5Gの採用により可能になる多数の製品およびアプリケーションにより、通信セクターが最大のCAGRを獲得すると予測しています(図2)。

自動車業界では、電動化への注目が高まり、安全性、車内体験、運転者支援、無線通信のためのCPUベースのシステムの採用が増えているため、輸送はCAGRで2番目に速いと推定されます。Semicoは、組織・企業がさまざまな性能および応用手段にわたってRISC-Vを設計しているだけでなく、SoCのコア数では、1コアから1000コア以上までの非常に幅広い使用のCPUを設計していることを発見しました。

図2. カテゴリー別の2018年から2025年の間のCAGR予測。業種とチップの種類による分類。Comunication(通信)とTransportation(交通)の成長予測が目覚ましい。Source: Semico Research “RISC-V Market Analysis: The New Kid on the Block”

このような予測が秘める特性のひとつは、自己成就的であることです。予測がコミュニティに浸透すると、コミュニティは予測を「達成」するためのスケジュールを組むため、予測が達成されるのです。

Armがカスタム命令許可

イギリスのケンブリッジに本拠を置くArmは数十年前から存在し、そのアーキテクチャ設計はスマートフォンからサーバーに至るまですべてに使用されています。顧客はこれまでに1500億個以上のチップを出荷しており、ペースは加速しています。同社は今後2年間で500億個のチップの出荷を目標にしています。

ArmなどのISAの所有者は、断片化につながる可能性があるため、RISC-Vが許容するようなカスタマイズを許可するように動機付けられていません。Armは数十年にわたって同社のISAを厳密に管理してきました。しかし、2019年10月、RISC-V ISAの台頭とそのユーザーコンフィギュアビリティ(ユーザーによる設定が可能であること)を受け、Armは独自のカスタム命令を作ることを許可しました。これはRISC-Vの台頭を牽制する意味合いがあります。

Armの顧客には不満があります。Armとの契約内容は、ますます複雑化し、ライセンス料も上昇しています。Armのビジネスモデルは、アーキテクチャ設計のためのライセンス料を前払いし、半導体チップの出荷数量に応じてロイヤリティー料を支払います。また、顧客がSoCを設計し市場投入するまでの期間が短くなっており、Armの契約とビジネスプロセスは、柔軟性が欠けていると一部のプレイヤーからは考えられているようです。RISC-Vの表現する柔軟性、簡易さはこの点で対照をなしており、中国のベンダーなどはRISC-Vへのベットを増やしています。

RISC-Vの「IPの民主化」というゲームは、Armのプロプライエタリなビジネスモデルに疑問を投げかけています。Armはビジネスモデルの転換が迫られています。

参考文献

David Patterson. "Instruction Sets Want To Be Free: A Case for RISC-V". Youtube Video, Nov, 2015.

Chris Mellor. WD to move all its stuff to RISC-V processors, build some kind of super data-wrangling stack. 1 Dec 2017. The Register.

デイビッド・パターソン/アンドリュー・ウォーターマン/成田 光彰(訳).  RISC-V 原典. 日経BP社. 2018年.

Kevin Krewell. Armがカスタム命令に対応、「Cortex-M33」から. 2019年10月17日. EE Times Japan,

ジョン・ヘネシー.コンピュータアーキテクチャ[第6版]定量的アプローチ.Sep, 2019.

デイビッド・パターソン.RISC-V原典 オープンアーキテクチャのススメ.Oct, 2018.

"David Patterson. UC Berkeley’s David A. Patterson Sees the Future After Moore’s Law"  Heppo Reads Staff.

参考文献

David Patterson. "Instruction Sets Want To Be Free: A Case for RISC-V". Youtube Video, Nov, 2015.

Chris Mellor. WD to move all its stuff to RISC-V processors, build some kind of super data-wrangling stack. 1 Dec 2017. The Register.

デイビッド・パターソン/アンドリュー・ウォーターマン/成田 光彰(訳).  RISC-V 原典. 日経BP社. 2018年.

Kevin Krewell. Armがカスタム命令に対応、「Cortex-M33」から. 2019年10月17日. EE Times Japan,

ジョン・ヘネシー.コンピュータアーキテクチャ[第6版]定量的アプローチ.Sep, 2019.

デイビッド・パターソン.RISC-V原典 オープンアーキテクチャのススメ.Oct, 2018.

"David Patterson. UC Berkeley’s David A. Patterson Sees the Future After Moore’s Law"  Heppo Reads Staff.

Image via riscv.org

Takushi Yoshida

Published 4 months ago