三方ヶ原の次は伊賀越え:ソフトバンクへのクレディ・スイスによる法的措置の波紋
徳川家康三方ヶ原戦役画像。通称「しかみ像」。出典:徳川美術館

三方ヶ原の次は伊賀越え:ソフトバンクへのクレディ・スイスによる法的措置の波紋

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長は、2四半期に渡る5兆円の損失について「三方ヶ原の戦い」に言及したが、クレディ・スイスとのグリーンシル破綻を巡る法廷闘争は「伊賀越え」になり得る。窮地を救う服部半蔵はいるか。

吉田拓史

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長は、2四半期に渡る5兆円の損失について「三方ヶ原の戦い」に言及したが、クレディ・スイスとのグリーンシル破綻を巡る法廷闘争は「伊賀越え」になり得る。窮地を救う服部半蔵はいるか。


8月上旬にスイスの金融大手クレディ・スイス(以下クレディ)が英貸金業者グリーンシルの破綻をめぐって、その49%の株主だったSBGに対して正式な法的手続きを開始する許可を求めて、英国高等法院に申請を行ったと報じられた。これが認可されると、長きに渡る法廷闘争が始まる可能性がある。

両者が和解に至る可能性は薄い。クレディの前CEOのトマス・ゴットシュタインとSBG会長の孫は激しい応酬を繰り広げ、敵意をぶつけ合ったと言われる。クレディは顧客に法廷闘争等の決着に5年かかると言い、法廷闘争等のコストを顧客に請求している。これは控訴審を念頭に入れていることを意味するだろう。

クレディの訴えは、グリーンシルを介してSBG投資先の米建設会社カテラに貸されたクレディの顧客資金4億4,000万ドルを巡るものだ。

SBG、グリーンシル、カテラの三者は三角取引でカテラの4億4,000万ドルの債務放棄を実行した。その結果、仲間はずれの形になったクレディは顧客資金を回収する術を失った。グリーンシル、カテラはSBGの影響力にあったことから、クレディは自分が生贄の羊として陥れられたと考えてもおかしくはない。

しかも、グリーンシルの貸金を融通していた、還流する資金の大元となるクレディのファンドが危機に陥った際には、SBGはこのファンドにも資金を注入している。つまり、ある段階においては、SBGはすべてのステークホルダーの出資者だった。この循環的な構造は、仮に裁判が始まれば、大きな争点になるだろう。

また、クレディへの資金注入の時には、SBGはクレディに対して、ファンドの資金をグリーンシルの債権のみに注ぐことを規定する契約(下図)を結ばせた。1,200人の富裕層が投資したファンドは、あらゆる売掛債権担保融資の債権をその対象にしていたが、投資家の1人であるSBGの一存によってグリーンシルの債権に投資対象が限定されることとなり、これは1,200人の他の投資家にとってアンフェアな取引となった。これがクレディの内部調査やスイス金融当局の警告の引き金となった。

この一連の動きは、SBGが投資先の支援のためクレディ顧客のファンドを活用するスキームを想定していたとも考えられる状況である。グリーンシルは、このファンドを原資に、カテラ、インドの格安ホテルチェーンのオヨ、自動車リースのフェア等のSBG投資先への融資を実行した。

2019年のウィーワーク・スキャンダルによって金融機関はSBGのポートフォリオへの融資を敬遠していたと言われる(実際、グリーンシルがウィーワークの火中の栗を拾う案が話し合われている)。また、投資先のバリュエーションを下げないようにする狙いもあったのかもしれない。

仮に法廷闘争が始まった場合は、以下の3つが注目すべき点だ。

  1. クレディがSBGに陥れられたと立証できるか
  2. SBGとグリーンシルの関係についての新事実
  3. グリーンシルのシビアな法令遵守に関する新事実

SBGの欧州での評判にはすでに暗い影が落ちているが、本件は決定打となるかもしれない。欧州では、グリーンシルとSBGの関わりについても、すでに大量の報道が行われているばかりか、独フィンテック新興企業ワイヤーカードを巡る転換社債の取引において、SBGのラジーブ・ミスラ元副社長や佐護勝紀元副社長らが個人的利益を追求したことが知れ渡っている。ワイヤーカードは粉飾会計、金融詐欺等のかどで訴追プロセスの中にある。

ソフトバンクの過酷な真実
世界で最も過激なハイテク投資家集団のソフトバンクは見事な復活を遂げた。しかし、その欠点はまだ残っており、次のストレステストが近いかもしれない。

グリーンシル破綻は英国の一大政治スキャンダルでもある。同社の顧問を務め、ロビーイングに精を出したデービッド・キャメロン元首相の評判を地に貶めている。

SBGに明智光秀の手勢と一揆勢が迫ってきている。孫会長に伊賀の脱出ルートを教える服部半蔵はいるのだろうか?

そして、東京海上日動のことを付け足しておこう。同社はSBGと同様、脆弱な立場に置かれているかもしれない。東京海上の豪子会社は投資適格に達しなかったグリーンシルの債権に対して取引信用保険を提供するという高リスクな役割を引き受けていた。

東京海上、英グリーンシル破綻の損失はどの程度か
クレディ・スイスと奪い合うカルネアデスの板

東京海上はグリーンシルの保険取得が詐欺であるとの主張を掲げているが、クレディはすでに22億ドル相当の18件の保険請求を行っている。このエクスポージャーは再保険がかかっていないと言われる。


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