SNSに陰りの見えるMeta、メタバース生存戦略は実るか?
MetaのSNS収益の成長が止まり、不景気が予想されている。マーク・ザッカーバーグはメタバースに生き残りを賭けるが、より有力な競合他社の存在や技術的障壁が横たわっている。
MetaのSNS収益の成長が止まり、不景気が予想されている。マーク・ザッカーバーグはメタバースに生き残りを賭けるが、より有力な競合他社の存在や技術的障壁が横たわっている。
Metaの決算の前日に「強度を伴うオペレーション」を実行しているという社内メモを基にしたリーク記事がニューヨーク・タイムズやThe Vergeのような多数のメディアを騒がせた。これはMetaのマーケティング・PRが「いい仕事」をした、とみていいだろう。
これらの仕事をするからには、決算に何らかの「状況」があったのは推測がつく。
実際、決算はウォール・ストリート好みのものではなかった。決算自体は収益が前年同月比で1%減の結果。上場以来初めての前年同期比ベースでの減少となった。営業利益は前年同期比で32%減った。Metaは営業利益率が常に4割を超えていたが、今決算では29%まで落ち込んでいる。
純利益ベースでは、パンデミックブームに湧いた2020年Q4以降、100億ドル前後を基調としていたが、この2四半期でガクッと落ちている(それでもこの会社は異様に稼いでいると言えるのだが…)
この利益の急減は同社が注力するメタバース投資を織り込んだものである。これによってR&D費がかさみ、そしてまだ、この部門は確かな収益を生み出していない。ただ、金融市場の近視眼的な目線にとらわれなければ、数々の問題を引き起こし、依然として抱え続け、TikTokのようなライバルに陣地を削られているソーシャルメディア部門から得られるお金を次のビジネスの柱に振り向けるのは、納得のいく戦略である。
広告部門は今も紙幣印刷機と言っていいだろう。成長に陰りは見えるものの、インフレが消費者の可処分所得を削り、パンデミック時の「ボーナスステージ」が一服し、今後の不況を見越している今でも、広告は281億ドルをもたらしている。
もちろん、TikTokがMetaの地位を奪ったことが、今後の広告事業の見通しに暗い影を落としていることは否定できない。広告主のシフトは必ずしもメディアの人気と完全に一致するわけではなく、「広告効果」にその主眼を置いている。Metaは、最近同社から去ったシェリル・サンドバーグのもとで、この広告効果を最大化する努力を最も執拗に行った会社である。
https://www.axion.zone/10836652403-024/
その執拗さの余り、ケンブリッジ・アナリティカ事件に代表されるような政治操縦を世界中で許したり、フェイクや陰謀論を拡散するアルゴリズムの変更を退けたりしてきた。金融市場の要請に答えようとする余り、社会に大きな悪影響を及ぼしてきたのだ。
https://www.axion.zone/facebook/
MetaはTikTokをコピーすることでTikTokの良さを潰す作戦を始めた。インスタグラムは先週、インターフェイスを大きく変更し、ReelsというTikTokのFor Youを模倣した機能の占める範囲を拡張した。これに対し、キム・カーダシャンのようなインフルエンサーやセレブが猛反発するという一幕があった。他にもこれまでのつながりを加味したコンテンツレコメンドから、今後はTikTok風のレコメンドである「Discovery Engine」への移行を進め、フォローしていないアカウントからの投稿をさらに多く表示する方向に向かっている。
これは、5年前に急速に台頭したSnapchatの頭を押さえつけた戦略の繰り返しのように映る。マーク・ザッカーバーグはFacebookとInstagramの双方でSnapchatの機能をことごとくパクった。消費者はこれを歓迎し、予想されたSnapへの乗り換えは起きなかった(当時僕が書いたブログ)。その数年前には、ザッカーバーグはまだニッチで小さかったSnapchatに10億ドルの買収を持ちかけて、キラー・アクイジション(キラー買収)を実行しようとしてさえいるのだ(Snapchatのモデルと結婚したCEOはそれを拒み、孫子の兵法書を社内で配ったという)。
ザッカーバーグはテーブルの下で相手の足を蹴飛ばすことにも余念がない。Metaは反TikTokの噂を広めるために共和党系コンサル会社を利用したと報じられた。学校での子ども奇行をめぐる噂は、Metaが雇ったコンサル会社がライバルを蹴落とすために仕込んだ中傷だったとされている。
とにかく、メタバース投資を差っ引けば、メタは高収益性企業で有り続けている。同社のソーシャルメディア製品が社会に及ぼしている影響を除けば、金融市場はまだMetaを優等生だとみなしている。
メタバースの不確実性
しかし、Metaが大枚をはたいているメタバースでは不確実性が漂っている。
まず、大量の資金を燃焼している事が挙げられる。AppleのApp tracking transparency(ATT)のシフトはMetaに残酷な損失を強いていると言われ、Metaはそのコストを、2022年の営業キャッシュフローで100億ドルと見積もっている。しかし、Metaはほぼ同額をメタバース関連投資で燃やしているのだ。
「(ATTに関連する損失は)Facebook Reality Labsが昨年、様々なXRデバイス、ウェアラブル、OS、Horizon Worldsプラットフォームに費やしていた金額とぴったり一致する」とAmazon Studiosの元グローバル戦略責任者のマシュー・ボールは、米テクノロジーメディアThe Vergeのポッドキャストで語っている。
それから、カネで時間は買えない、ということが大きいだろう。ゲーミングやAR VRに長期で取り組んできた会社があり、Metaは長期に渡りゲーミングとそれに伴う3D世界の可能性に取り組んできたRoblox、Fortnite、Minecraft(Microsoft傘下)、Unityといった開発者側のリードには、正直、著しく遅れを取っているだろう。
だからこそのデバイスの成功による一発逆転の戦略を取っている側面がある。いまからゲームを作り始めてもゲームスタジオにはかなわないので、胴元となって次世代のAppleの地位を獲得することに必死になっているのだろう。スマートフォンの商慣習がメタバースにも引き継がれると想定するこの皮算用がどれほどの角度を持っているだろうか。
メタバース・デバイスに関しても様々な障壁が待ち構えている。メタのVRヘッドセットは世代を重ねており、技術的な洗練を遂げているものの、まだ商業的に意味のある規模に到達しておらず、新たな事業環境に直面する可能性が高い。
もっと難しいのがARグラスである。ARを実現するための性能の高いコンピューターをユーザーの体験を阻害せず、メガネのデザインを堅持したまま提供するハードルが高いのだ。
「ARデバイスはこれらのデバイスについて話すとき、サイズ、熱、ファンを持つことができず、電池が必要で、GPUが小さいなど、いくつかの新しい問題が発生する」「(Metaが)ARグラスに最大で12または14台のカメラを計画していることが分かっている。しかし、もう1つカメラを追加するたびに、別の機能のために駆動させるはずのGPUの手がふさがってしまう。これは非常に難しいことだ」とボールは語っている。
Metaと相反するマイクロソフトの戦略
Metaのメタバース戦略を評価するとき、マイクロソフトは興味深い評価軸になりうる。
Metaで働いているメタバース人材の一部はMicrosoftから合流した。MicrosoftはHoloLensを担当していた同社トップ技術フェローの一人であるAlex Kipmanを解雇し、そのチームをシャッフルした。今年1月には、HoloLens開発チームから過去1年間で約100人が離脱し、そのうち40人以上がMetaによって雇われたとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。
両者の大きな違いの一つとして、Microsoftは法人や政府をAR機器のユーザーと見込んでいることだ。特に、Microsoftが米陸軍と結んだ「HoloLens」を今後10年間で最大12万台を供給する総額220億ドルの契約は、同社の複合現実(MR)セクションに対しキャッシュフローを約束する、非常に決定的な取引である。これに対して、Metaはコンシューマにとって魅力的なユースケースを創造しないといけないのだ。
Metaがデバイスを制して「メタバースにおけるApple」になろうとする、ある種垂直統合的な戦略を採る一方、MicrosoftはXbox、ゲームストア、クラウドゲームのようなプラットフォームを占拠しながら、2017年以降、多数のゲームスタジオを傘下に収めることで、複合的な戦略をとっている。大学の寮から始まった会社の若々しさが見え隠れるMetaの一点突破の電撃戦に対し、サティア・ナデラCEOはゲーミングとメタバースにまたがる様々な領域の要所を固めていく、老獪な戦略を採っている。
ナデラのもとで行われた最初の買収が、3次元世界を構築するゲーム「マインクラフト」の買収だった。マインクラフトのゲーム性はメタバースの文脈にピッタリと一致する。このようなアセットがMicrosoftのもとにはあって、Metaのもとにはないのだ。
さて、Metaはメタバースに100億ドルを使ったというが、金はすべてを解決しない。競合のリードと本業のTikToKの侵食の中で、Metaは違いを生み出せるのだろうか。