SPACブーム、閉幕へ

2020年から2021年にかけて米株式市場を席巻した特別目的買収会社(SPAC)のブームが終りを迎えつつある。弱気相場が続き、規制当局が網を絞った結果、その複雑で高コストな上場手法の正当性が崩壊した。

SPACブーム、閉幕へ
2022年1月3日(月)、米ニューヨークのニューヨーク証券取引所(NYSE)のフロアで作業するトレーダーたち。Photographer: Michael Nagle/Bloomberg.

2020年から2021年にかけて米株式市場を席巻した特別目的買収会社(SPAC)のブームが終りを迎えつつある。弱気相場が続き、規制当局が網を絞った結果、その複雑で高コストな上場手法の正当性が崩壊した。

メディケアとメディケイドの支払いサービスを提供するMSPリカバリーはSPACとの合併を完了し、24日にナスダック市場で取引を開始した。その後、この株はすぐに価値の半分以上を失った。

MSPリカバリーは2021年7月の発表時に326億ドルのバリュエーションが与えられ、シンガポールのグラブについで史上2番目に大きなSPAC取引であった。これは夏の終りの最後の花火大会のように見えるだろう。

史上最大のSPAC取引のグラブも悲惨な運命をたどっている。ソフトバンクグループが筆頭株主の同社はSPAC取引合意時に400億ドルのバリュエーションを与えられた。しかし、いまや92億ドルと4分の1以下までメルトダウンしている。

史上最悪のSPAC案件の座はガラスメーカーのビューに与えられそうだ。この会社もまたソフトバンクGが筆頭株主である。ビューは2021年3月のSPAC取引完了から数カ月で発覚した会計スキャンダル以降、決算報告書を提出せず、上場廃止が差し迫っている。ビュー自体も余命数ヶ月と考えられている。ビューはSPACとの合併で得たキャッシュの大半をソフトバンクGが筆頭株主であったグリーンシルへの高利の負債の返済で使い果たし、上場して数ヶ月で会社は死に体となった。グリーンシルは巨大なスキャンダルを巻き起こしながら倒産し、今も余波を残している。

ソフトバンクの過酷な真実
世界で最も過激なハイテク投資家集団のソフトバンクは見事な復活を遂げた。しかし、その欠点はまだ残っており、次のストレステストが近いかもしれない。
グリーンシル問題はSBG、東京海上、クレディによるババ抜き
英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル問題。同社が残した大損失を誰が補填するか、これを決めるババ抜きが始まった。プレイヤーはソフトバンクG、東京海上、クレディ・スイスの三者だ。

投資銀行が手を引き出した

ウォール街の投資銀行はSPACから手を引いているという。金融機関は最近まで、このような「空箱」を市場に押し出し、合併や株式公開のターゲットとなる企業(残念ながらあまり良い企業ではない場合が多い)を見つける手助けをして、多額の手数料を徴収することに満足をしていた。しかし、米国証券取引委員会(SEC)が、SPAC上場を引き受けた投資銀行に対して、合併の目論見書に記載される情報の保証を要求したため、彼らは怖気づくことになった。そうなれば、投資銀行も大きな法的責任を負うことになる。

規制の厳格化によってSPACとの合併は上場のための近道ではないくなっているという。SECは現在、必要書類の審査にさらに数カ月を要している。例えば、クリプト(暗号通貨)取引所BullishのFar Peak Acquisition Corpとの合併は、最初に発表されてから1年前後で完了する見込みだ。

SPACはすでに株式市場に参加するための余りにも複雑で費用のかかる方法であった。SPACのスポンサーは新規株式公開(IPO)で資金を調達し、いわゆる白紙委任会社を設立し、その現金で購入する企業を探しに行くというものである。

その際、スポンサーはIPO投資家に対して、1口10ドルの投資に対して、株式とワラントと利息を含むマネーバックを保証するという信じられないような条件を提示する。スポンサーは、IPOで売り出される株式の20パーセントを手数料として取り、上前をはねる。

米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教授の研究によると、IPOで発行されたワラントによる希薄化、スポンサーの実質的な無料株、IPOと合併の両方にかかる銀行手数料(SPACは従来のIPOの2〜3倍)などが、合併後に企業が手にする現金を圧迫していたことが判明した。このようなコストを残りの株主に転嫁したため、最終的に企業のキャッシュは当初より40%減少した。

SPACの冷静な見方
SPACは未上場企業にとって株式公開のための安価な方法であるが、SPACの投資家がそのコストを負担しているだけであり、これは持続不可能な状況である。プロセスの中で33%の現金が消え、合併後の株価が平均で3分の1以上下落する。

LinkedInの創業者リード・ホフマンとテクノロジー系起業家マーク・ピンカスがスポンサーとなっているSPACは好例だ。彼らのReinvent Technology Partnersは4つのSPACを立ち上げたが、そのうちクローズしたのは3つだけである。最初のものは2020年9月に上場したが、これはブームが到来しているときだった。2021年8月10日にJoby Aviationとの合併に合意すると、IPOの初期投資家の62%が株式の償還を選択した。Hippoとの2回目のIPOが8月2日に終了したときには、約84%の株主が退場を希望していた。Hippoの株価は現在約1.60ドル、Joby Aviationは6ドルを下回っている。最も新しい案件であるAurora Innovationとの取引は11月に終了し、4ドルを下回って取引されている。IPO投資家の77%以上が償還を選択した。

英経済誌エコノミストによると、2021年の第1四半期には77件の買収が発表されたが、2022年の同時期では27件の買収が発表されたに過ぎない。2021年第1四半期に上場し、970億ドルを調達したSPAC298社のうち、196社はまだ合併を発表していない。全部で600以上の米国上場SPACがまだターゲットを探しているという。

SPACが調達した1,600億ドルが信託口座で宙吊り
2021年第1四半期に上場し、970億ドルを調達したSPAC298社のうち、196社はまだ“脱SPAC”を発表していない。全部で600以上の米国上場SPACがまだターゲットを探している。現在、約1,600億ドルが信託口座に保管され、リスクのない国債に投資されている。

合併の見込みのないSPACに大量の資金が閉じ込められている。エコノミストは、現在、約1,600億ドルが信託口座に保管され、リスクのない国債に投資されている、と指摘している。これは、マネーマーケット・ファンド(格付けの高い外貨建ての短期証券(CP、銀行引受手形、政府またはその機関の発行した証券など短期証券)や国債などの短期債券などを中心に運用される商品)に投資しているのと同じだ。

皮肉なことにSPACが合併するよりも合併しないまま低リスク資産に投じられている方がパフォーマンスがいいらしい。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)