ヘッジファンド化で公開市場の変動リスクにさらされるVC

ベンチャーキャピタル(VC)はヘッジファンドが自らの畑を荒らすのに対抗し、自らをヘッジファンドとのハイブリッドとして再定義した。長期的にはメリットの大きい変化だろうが、短期的には公開株が急落し、デメリットに苦しんでいる。

ヘッジファンド化で公開市場の変動リスクにさらされるVC
Photo by Oren Elbaz on Unsplash

ベンチャーキャピタル(VC)はヘッジファンドが自らの畑を荒らすのに対抗し、自らをヘッジファンドとのハイブリッドとして再定義した。長期的にはメリットの大きい変化だろうが、短期的には公開株が急落し、デメリットに苦しんでいる。


セコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズが保有する公開株は、3月31日から6月30日の間に価値の44%、183億ドルを失ったと報じられた。

S&P Global Market Intelligenceによる証券報告書の分析を引用した米テクノロジーメディアThe Informationによると、これらのベンチャー投資会社は新興企業として支援したハイテク企業の株式を相当量保有していた。テクノロジー株の風向きが変わった最近の数週間で多少回復してはいるようだ。

S&Pによると、セコイア・キャピタルの公開株の時価総額は、この期間に42%減の177億ドルだったという。過去2年間に上場した4社(宅配アプリのドアダッシュ、クラウドソフトウェアのスノーフレーク、ブラジルのデジタル銀行ヌーホールディングス、ゲームソフト開発のユニティポジションに引きずられて減少している。

しかし、S&P によれば、6月末以降、ハイテク株は損失を取り戻し、ベンチャー企業3社の公開ポートフォリオの合計価値は66億ドル、第2四半期に失った価値のおよそ3分の1以上上昇したとのことだ。「S&Pのデータによると、第3四半期までに公開株が22%回復して216億ドルになった。つまり、同時期のS&P 500とナスダック総合指数の下落率が6%と8%であるのに対し、セコイアのポートフォリオは第1四半期末から30%も下落したことになる」とThe InfomationのAkash Pasrichaは書いている。

タイガーとタイガーも大損

2021年、最もパフォーマンスの高かったヘッジファンドの一つとなったタイガー・グローバルは、ピーク時には900億ドル以上の資産を運用していたが、7月までに旗艦ファンドの価値が約半分になり、数十億ドルの投資家損失を出しているという。

FTが引用した規制当局への提出書類によると、米国とアジアの投資チームは2月以降、ビデオ会議の新興企業Zoom、電子署名の専門企業DocuSign、オンライン中古車会社Carvana、食品配達アプリDoorDash、ビデオゲーム会社Roblox、暗号仲介会社Robinhoodといった保有株を削減することを決めたようだ。

ヘッジファンドからベンチャーキャピタルへと足を伸ばした最古参であるタイガー・グローバルは、FTが入手した8月の投資家向け書簡で、「企業が予測を調整する中で、企業収益が価格に追随するかどうかに注目し、モデルの修正が必要だ」と述べている。

同じカテゴリーにあるソフトバンク・グループ(SBG)のビジョン・ファンドの投資損益は、2四半期連続で2兆9,000億円規模の赤字を計上した。ビジョン・ファンドの累計の投資利益(投資先の時価から投資額を差し引いたもの)は、ピーク時に約7兆円まで膨れ上がったが、直近2022年6月末時点ではわずか1122億円まで縮小。ファンド全体で損益がマイナスになろうとしている。

VCの変化

セコイアらは、オーソドックスなベンチャーキャピタル(VC)の形態で長年事業を行ってきたが、タイガー・グローバルのようなヘッジファンドやプライベート・エクイティらがVC投資に積極的に参加するようになって以降、上場株も保有できる形態へと変化してきた。セコイアの変化は特徴的で、10年満期という括りを外し、定期的に資金を出し入れできる、従来のVCとは完全に異なるファンド構造に転換した。

老舗セコイアがVCファンドのモデルを放棄
世界で最も歴史があり、最も成功しているベンチャーキャピタル(VC)の1つであるセコイア・キャピタルが、上場企業の株式も保有し、10年というククリを外し、いつでも資金を出し入れできる、従来のVCとは完全に異なるファンド構造に転換した。

この動きはタイガー・グローバルのようなクロスオーバーファンドの台頭や、それに呼応して変化したアンドリーセン・ホロウィッツのようなVCの変化を追うように行われた。

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