ソフトバンクグループ、土俵際に追い詰められる

11月中旬のソフトバンクグループ(SBG)の決算は同社の未来を占うものだ。米金利引き上げとともに訪れるであろう世界的不況の間、深手を負ったSBGは生き残れるか。その成否をめぐる試金石となっている。

ソフトバンクグループ、土俵際に追い詰められる
2019年11月6日(水)、東京で行われた記者会見で話すソフトバンクグループ株式会社の会長兼最高経営責任者(CEO)、孫正義氏。Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

11月中旬のソフトバンクグループ(SBG)の決算は同社の未来を占うものだ。米金利引き上げとともに訪れるであろう世界的不況の間、深手を負ったSBGは生き残れるか。その成否をめぐる試金石となっている。


ソフトバンクグループ(SBG)は先週、11月11日の決算説明会で、孫正義会長の出席が冒頭のあいさつのみになると発表した。これまで孫氏は決算説明会で決算と戦略について説明し、 記者からの質問にも答えていた。この変更が、様々な憶測を呼んでいる。

11日の説明会の前に、SBGの状況を整理すると、前回の決算から同社にとって有利な材料は何一つ加わっていない、ということになる。

むしろ険しさを増しているだろう。10月初旬にクレディ・スイスの経営状況を危ぶむ憶測が、米インターネット掲示板Redditから浮上し、SNSで拡散した。クレディ・スイスのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)コストの上昇が注目されたが、ソフトバンクはそのとき、クレディ・スイスの2倍以上の水準にいた。CDSは対象とされている会社が経営破綻するときに報酬を受け取れる保険だ。言い換えれば、その会社の破綻にベットできる金融商品である。そのベットに必要なコストが高いということは、破綻の見込みが高いとみなされている、ということだ。

今回の発表される損益計算書は、いつものSBGの決算と同じように、見る人の会計の理解度を試すものになるだろう。今回、アリババ株式先渡契約の現物決済に伴う会計処理に伴って、4.6兆円の利益が計上される見込みだ。そのからくりについて「これまで株式を20%以上保有しており持ち分法適用会社として簿価で評価していたが、20%を下回ったことで時価評価に変わった」とソフトバンクのグループ会社であるITmediaが親切に教えてくれている。

しかし、これは「クリエイティブな会計」の作品であり、キャッシュフローをもたらさない形式的な利益である。SBGは、アリババ株を信託に渡した時に現金を受け取っており、その現金はすでに使われたあとだ。今回の決済は、アリババ株を買い戻す権利を放棄したに過ぎない。

同社が算定するLTV(総資産有利子負債比率:Loan to Value)もまたクリエイティビティの片鱗が見られる。WSJが引用したブルームバーグ・インテリジェンスのデータによると、4月上旬時点で、同社のLTVはすでに「同社が安全水域としているライン」を大きく超えている。株式先渡契約と借入金を資産総額から除外し、SBノーススターとSVF2の偶発債務と純負債を含めると、SBGのLTVは36%を超えていたとブルームバーグのアナリストは分析した。株式先渡契約は事実上株式を売ったことにあたる。格付会社とのハッスルの末に社債を発行できなくなった同社傘下のエンティティは、ポートフォリオ企業を担保としたマージンローン(証券担保融資)に資金繰りを依存している。この4月上旬時点からSBGの資産は目に見えてしぼみ続けているため、同社はいま「炎に近づいている」可能性がある。

孫氏の帝国には、様々なキャッシュの需要がある。もっとも考慮しないといけないのは、サウジとアブダビが出資した、SVF1の約6割を占める優先株ユニットである。SBGはこのユニットに対し年7%の利回りを保証している。WSJの分析によると、これまでにSVF1が支払った優先株への分配額は約60億ドル相当だ。様々な付帯的な契約条項が存在しないと仮定すると、このファンドの満期は12年のため、最終的に累計500億ドル程度を支払わないとならなくなる。

しかし、SVFは現状リターンを生み出していないため、孫氏が説明会で執拗に繰り返す指標である、純資産総額(NAV)を切り崩さないといけないだろう。しかし、LTVの分母であるNAV自体が縮小し、LTVの分子である純負債が拡大する中で、やりくりは難しくなっているはずだ。

SVFの実態は、5兆円の損失を計上した過去2回の決算で示されたイーブンの地点(図表参照、1,122億円)より深く沈んでいる可能性が濃厚だ。SVFの損益は会計認識のタイミングに左右される。たとえば、前回の四半期でウィーワークの巨額損失が計上されたが、2019年のIPOの失敗から追加資本注入、SPACとの合併上場とその後の苦戦を経てのものだ。ベンチャーキャピタルでは、上場企業のような時価評価をしなくていいので、取り返す余地のない損失でさえも、会計認識するタイミングを先送りできる。

失われた投資事業の利益。「上げ潮演出」からの反転となり、会計認識されていない部分を含めるとどうなるか。出典:SBG決算説明会資料
失われた投資事業の利益。「上げ潮演出」からの反転となり、会計認識されていない部分を含めるとどうなるか。出典:SBG決算説明会資料

公開市場、非上場市場の双方が冷え込む中、潜在的な損失はたくさんあるとみられる。たとえば、中国の教育テック産業は習近平政権の「共同富裕」によって「処刑」された。「史上最悪のSPAC案件」と呼ばれたビューの時価総額は一時22億4,000万ドルに達したが、いまでは9分の1以下の水準まで落ちた。

なかでも、SBGが45%を握る格安ホテルチェーンのオヨはとても興味深い役割を果たしている。それは、創業者のリテシュ・アガルワルは2019年に米ベンチャーキャピタルから自社株を買取り、同時に増資の株式を引き受ける際に、みずほと野村を含む日本の金融機関から20億ドルを借り、孫氏がその債務を保証するというスキームを採用したことに拠る。同社は最近のバリュエーションが最高値から4分の1まで急落している。この負債は現状の8倍弱のバリュエーションでの上場を想定したもので、減価したアガルワルの現持分では全く足りない。仮にアガルワルが債務不履行に陥った場合、孫氏が10数億ドルの支払い義務を課せられることになる。

オヨの評価急減は孫正義氏、野村、みずほの頭痛の種に
ソフトバンクが筆頭株主を務めるインド新興企業のバリュエーションが急落したとされ、創業者が日本の金融機関から借りた20億ドルを孫正義氏が保証せざるを得ないシナリオが浮上している。

これが孫氏にとって手痛いボディブローになるのは想像に難くない。すでに孫氏の台所事情は苦しくなっているからだ。有価証券報告書によると、孫氏はすでにSBGの持ち分の多くを担保差し入れしている。また、孫氏は、SBGのビジョン・ファンド2の下で設立された非上場会社の株式の17.25%、および新興企業に投資するラテンアメリカ・ファンドのユニットの17.25%、ヘッジファンド部門「SBノーススター」の株式33%を取得する際に、支払いを後回しにしており、これは後で補填しないといけない。

公正を期すと、このような惨状に喘いでいるのは、SBGだけではない。昨年最もアクティブだったタイガー・グローバルのようなヘッジファンドとベンチャーキャピタルの両面で展開するファンドがいま似たようなダメージを負っている。

ただし、SVFの特殊な点を指摘したい。それは資金の一部が負債やそれに類する手法で調達されていることだ。タイガーらはファンドの金主(ファンドの幹部や従業員も含まれる)の資金を運用しており、運用成績が悪くても、返す必要はない。SVFは負債を返済するか、元本保証の上、利払いをしないといけない。不安なのは、この支払い能力が次第に弱まっていると見られることだ。SBGの財務健全性の重要な裏付けだったアリババ株は、昨年から長期に渡り大幅下落した。そして、保有するアリババ株の8割以上にレバレッジがかかっている、とも報じられている。

テクノロジーセクターのピーク

SVFが投資したテクノロジーセクターには明確なピークの気配がある。バイデンが再エネやEV、半導体等のディープテックの新領域にかけた法律を成立させ、中国式(元々は日本の伝家の宝刀だったのだが…)の産業政策かじを切ったことで、今までの「テックセクター」の開拓地としてのステータスが薄れた。

バイデン政権、過去数十年で最大の米経済の大改革を試みる
バイデン政権は産業政策によって雇用を創出し、排出量を削減し、製造業を活性化させようとしている。中間選挙前の最後の数日間、民主党の政権運営に関する話題のほとんどはインフレに集中するだろう。しかし、バイデノミクスの効果はもっと長続きする可能性が高い。それは、米国の経済モデルの本質に他ならない。

習近平氏の再選もまた、中国のテックセクターの「我が世の春」の終焉を最終的に決定づけるものだった。西側と中国のデカップリングが続くことが決定づけられ、3選が確定した際には中国株は派手に売られた。資本流出は続くだろう。これは、SBGの虎の子であるアリババ株やその他の中国の投資先がさらなる下降局面に直面するであろうことを意味する。

そして、連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは差し迫った脅威だ。現地時間の2日(水)午後2時にワシントンで行われる政策決定会合で、4会合連続で75ベーシスポイント(bp)の利上げを行うことがウォール街のエコノミストのコンセンサスだ。ブルームバーグの調査では、エコノミストは75bpの利上げ後、金利は12月にさらに50bp上昇し、その次の会合で25bp上昇すると予測している。

利上げに伴う資金調達コストの上昇と不況によって命運が断たれる投資先が現れ、それがSBG本体にもダメージを負わせるシナリオは最も想定しやすいものだ。株安が、さらなるポートフォリオ価値の縮小を招き、追い証が求められ、流動性確保の手段がなくなり、資金繰りが悪化する、というシナリオもありうるだろう。

先週は、ビッグテックの株価が派手に下がった一週間だった。彼らの業績はデジタル経済の成長の鈍化を示しており、これから忍耐を要する時期に突入する兆候を漂わせている。このような厳冬をSBGが生き残れるか、壮大な実験が始まろうとしているのだ。

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
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