ウクライナ侵攻が中銀デジタル通貨開発を促進する
SWIFTは米国が国境を越えた資金の流れを監視できる「金融パノプティコン」の側面を持つ。中国やその他の国がこの覇権を回避するために講じた方策の中で最新のものが、CBDCだ。
最近、多くの中国メディアが、中国における数字人民幣(e-CNY、デジタル人民元)のパイロットエリアの第3陣がまもなく公開されると報じている。天津市、浙江省杭州市、福建省福州市が選ばれる見通しだ。
地元メディアの証券日報が取材した業界関係者によると、前回の試験プログラムが広範な市場に浸透するにつれ、デジタル人民元の応用と技術的な仕組みが市場に理解されるようになったという。規制当局、商業銀行、関連サービスプロバイダーはこの過程で豊富な経験を蓄積しており、e-CNYの試験プログラムをさらに拡大する良い時期であることを示唆している。
実際、昨年後半から、非試行地域の省・市が電子人民元試行プログラムの最新ラウンドを競い合っている。例えば、黒龍江省、河南省、福州市は、最近の政策発表の中で電子人民元の試行に言及している。
中国人民銀行が開示した最新のデータによると、2021年末時点で、個人財布の開設数は計2億6,100万件、取引額は計875億6,500万元(約1兆5,900億円)であった。
今年に入ってから、e-CNYの試験運用はより多くの場所に拡大されている。1月4日には試験版e-CNYアプリがリリースされ、ダウンロード数は2,000万を超えた。北京冬季オリンピックの期間中、3つの大規模なデジタル人民元試験運用が行われ、取引額は96億元に上った。
日本国内では「デジタル人民元」の呼称が一般化しているe-CNYは国内決済においては依然として小さな存在だ。2020年4月の最初の試験運用から2021年末までの中国における電子人民元の取引総額は875億人民元(135億ドル)である。これは、同期間の中国におけるオンライン決済額715兆人民元のわずか0.002%に相当する。
また、e-CNYが13億人に対する大規模運用に耐えられるかどうかは、依然として未知数だ。これまでのホワイトペーパーと中銀幹部の発言内容を勘案すると、ブロックチェーンの特徴を実用性のために著しく改変した設計を採用しているとみられる。しかし、この長い記事で触れたように数億人のトランザクションを捌くアリペイのシステムを作るだけでも想像を絶する困難が存在したようであり、それをブロックチェーンベースのデジタルトークンで実行する場合には様々な制約が存在するだろう。
ウクライナ新興以降の世界で重要な国際決済ツールになりうる
ロシアがウクライナに侵攻し、米国とその同盟国が厳しい金融制裁を発動したことを受けて、各国がアメリカの経済制裁を回避できるような、e-CNYのような中央銀行デジタル通貨(CBDC)でドルの覇権構造を迂回する試みへの注目が再び集まっている。
米国の経済覇権を支える重要な3本柱は、国際銀行間通信協会 (SWIFT)、クリアリングハウス銀行間支払システム (CHIPS)、そしてドルである。そして今回の経済制裁ではこれらの支配力が存分に示された。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場はロシアがで債務不履行に陥る可能性が高いとする賭けがだいぶ優勢だ。
3本柱は米国が国境を越えた資金の流れを監視できる「金融パノプティコン」の側面を持っている。中国やその他の国がこの覇権を回避するために講じた方策の中で最新のものが、CBDCなのだ。
CBDCを利用したホールセール・クロスボーダー決済の多国間プロジェクトはすでに始まっている。中国、香港、アラブ首長国連邦、タイの中央銀行が参加する「mCBDCブリッジ」と豪州、マレーシア、シンガポール、南アフリカの中央銀行が参加する「プロジェクト・ダンバー」の2つが代表的だ。「マルチCBDC(mCBDC)アレンジメント」と呼ばれるこれらの実験は、黎明期を終えようとしているCBDCの焦点が、複数の通貨間の相互運用性に移ろうとしていることを示唆している。
mCBDCの有意義さは次のことに裏打ちされる。それは、SWIFTが時代遅れの決済システムであるということだ。
SWIFTは手数料が高い。送金元の銀行、復数の中継銀行(コルレス銀行)、受取先の銀行を経由する。送金元の銀行が一定のスプレッド(サヤ)の載った為替レートを採用するほか、すべての銀行が送金・中継・受け取り手数料を請求する。加えて決済完了も速い時で5分未満、遅い時では2日以上かかるという問題もある。これは現代のエンドユーザーがスマートフォンを破壊してしまいかねない遅さである。