GMがソフトバンクGのクルーズ持ち分を買い取った理由
なぜGMがクルーズのソフトバンクGの持ち分を買い取る取引に至ったのか。彼らは公式な声明を出していないが、周辺状況を整理すれば、それは容易に類推することができる。
ゼネラル・モーターズ(GM)は3月中旬、ソフトバンク・ビジョンファンド1が保有する自律走行車新興企業クルーズの株式を21億ドルで買い取った。この取引によってソフトバンクグループのクルーズへの出資が解消された。
なぜGMとソフトバンクGはこの取引に至ったのか。彼らは公式な声明を出していないが、周辺状況を整理すれば、それは容易に類推することができる。
おそらく主要な理由はクルーズとビジョンファンドが筆頭株主を務めるウーバーが完全に競合していることだと推察される。クルーズの展開が米国以外の市場に拡張したときには、他のビジョンファンドの配車ポートフォリオ(滴滴出行、グラブ等)とも競合することになる。
クルーズがセーフティドライバーなしの完全自律走行を実現した場合、ギグワーカーへの報酬分のコストを余分に負うウーバーは非常に不利に陥ることになるだろう。クルーズは2月下旬、午後10時から午前6時までの間、時速30マイルまでの運行を州規制当局から許可されており、完全自律走行の配車事業への橋頭堡を築いている。
これに対し、ウーバーはガソリン価格の高騰の影響を受け、乗客にサーチャージを課すようになったが、これが運転手の負担をカバーしていないため、なかには運転手を辞める決断をするギグワーカーもいる状況だ。
ギグエコノミーへの規制当局の圧力も高まっている。ギグワーカーの得ている報酬が最低賃金を下回ることがしばしばあることが明らかにされ、州や連邦政府がこの労働形態を疑問視している。カルフォルニア州では、議会がギグワーカーを独立請負業者と定義することを許容しないよう法律が改正した途端、ウーバーらが市民立法の抜け穴を使い、その法改正を無力化する新法を立てるという応酬が繰り広げられた。
これらの状況は、ギグワーカーを法の網目を抜いて従事させる必要のないクルーズにとっては格好の状況だろう。
自律走行車による配車事業は、自動車メーカーと自律走行ソフトウェア企業による収益分配によって運営されると目されている。自律走行のソフトウェアとハードウェアの双方を提供するNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアンはVentureBeatのディーン・タカハシのインタビューに対して収益分配の構造に言及している。「ライセンスが1万ドルであれば、50対50でシェアする。月々1,000ドルや100ドルのサブスクリプションベースであれば、50対50でシェアする」
クルーズが配車事業の認可を得て操業した場合、そのときに稼働するクルマは、GM(あるいはホンダ)の製品となるだろう。ここにウーバーが関与する隙間はない。
このような完全なる利害関係の対立を踏まえて、両者の間で競技が行われ、GMがビジョンファンドの持ち分を買い取ることで決着したと考えるのが自然だろう。
クルーズは外部パートナーとの連携は依然として重視している。同社の株主名簿にはまだ合計20%を所有する他の外部パートナーがいる。その中には、GMの自律走行車「クルーズ・オリジン」の開発を支援している本田技研工業、マイクロソフト、ウォルマート、T・ロウ・プライス・グループなどが含まれている。
一つのネットワークから離脱した格好のウーバーには自律走行配車事業で対抗するための頼みの綱がある。それは、社内の自律走行部門を買収したオーロラだ。ウーバーと優先的なソフトウェア提供の契約を結んでいるオーロラがウェイモやクルーズに追いつけるかどうかが、今後のビジョンファンドの配車ポートフォリオの命運を決めるだろう。
ウーバーは2021年2月の最高値から約半分の株価で取引されている。滴滴とグラブの株価低迷はもっと深刻だ。自律走行と配車が融合できるか否かは、パフォーマンスの低迷が鮮明なビジョンファンド1の行く末を決定しうるだけでなく、負債比率の急速な上昇が伝えられるソフトバンクGの命運をも左右するだろう。
今年は自律走行車の変曲点の年になろうとしているが、実用の幅が広まってきた。その中で、合従連衡の調整が行われており、新しい文脈に適応しない旧世代の製品が市場が追い出されようとしているのだ。