GMがソフトバンクGのクルーズ持ち分を買い取った理由

なぜGMがクルーズのソフトバンクGの持ち分を買い取る取引に至ったのか。彼らは公式な声明を出していないが、周辺状況を整理すれば、それは容易に類推することができる。

GMがソフトバンクGのクルーズ持ち分を買い取った理由
ドバイでは、自動運転配車事業者にクルーズを選定。このようなディールにソフトバンクGの配車ポートフォリオが関与するのは叶わず、競合関係が明白だ。Image by Cruise

ゼネラル・モーターズ(GM)は3月中旬、ソフトバンク・ビジョンファンド1が保有する自律走行車新興企業クルーズの株式を21億ドルで買い取った。この取引によってソフトバンクグループのクルーズへの出資が解消された。

GM、ソフトバンクGのクルーズ持ち分を21億ドルで買取
GMはソフトバンクGのビジョンファンド1が保有する自律走行車新興企業クルーズの株式を21億ドルで買い取り、同ファンドの投資関係を終了した。GMがクルーズの株式80%を保有することになった。

なぜGMとソフトバンクGはこの取引に至ったのか。彼らは公式な声明を出していないが、周辺状況を整理すれば、それは容易に類推することができる。

おそらく主要な理由はクルーズとビジョンファンドが筆頭株主を務めるウーバーが完全に競合していることだと推察される。クルーズの展開が米国以外の市場に拡張したときには、他のビジョンファンドの配車ポートフォリオ(滴滴出行、グラブ等)とも競合することになる。

クルーズがセーフティドライバーなしの完全自律走行を実現した場合、ギグワーカーへの報酬分のコストを余分に負うウーバーは非常に不利に陥ることになるだろう。クルーズは2月下旬、午後10時から午前6時までの間、時速30マイルまでの運行を州規制当局から許可されており、完全自律走行の配車事業への橋頭堡を築いている。

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これに対し、ウーバーはガソリン価格の高騰の影響を受け、乗客にサーチャージを課すようになったが、これが運転手の負担をカバーしていないため、なかには運転手を辞める決断をするギグワーカーもいる状況だ。

ギグワーカーとは 実態が捕捉されない低賃金労働者
ギグワークは、伝統的な長期的な雇用主と雇用主の関係の外で収入を得る活動で構成されている。米国の労働者の20〜30%はギグワーカーとして労働した経験があるが、その実態の公的な記録が残っていないため、労働者の権利保護などに課題がある。

ギグエコノミーへの規制当局の圧力も高まっている。ギグワーカーの得ている報酬が最低賃金を下回ることがしばしばあることが明らかにされ、州や連邦政府がこの労働形態を疑問視している。カルフォルニア州では、議会がギグワーカーを独立請負業者と定義することを許容しないよう法律が改正した途端、ウーバーらが市民立法の抜け穴を使い、その法改正を無力化する新法を立てるという応酬が繰り広げられた。

ギグエコノミーの終わりの始まり
世界でギグエコノミーの再考が進んでいる。一時は新しい労働スタイルやホットなアプリで人々の関心をさらったビジネスは、いまは労働者の劣悪な労働環境の象徴であり、欧米中の重要な政策的課題となっている。

これらの状況は、ギグワーカーを法の網目を抜いて従事させる必要のないクルーズにとっては格好の状況だろう。

自律走行車による配車事業は、自動車メーカーと自律走行ソフトウェア企業による収益分配によって運営されると目されている。自律走行のソフトウェアとハードウェアの双方を提供するNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアンはVentureBeatのディーン・タカハシのインタビューに対して収益分配の構造に言及している。「ライセンスが1万ドルであれば、50対50でシェアする。月々1,000ドルや100ドルのサブスクリプションベースであれば、50対50でシェアする」

クルーズが配車事業の認可を得て操業した場合、そのときに稼働するクルマは、GM(あるいはホンダ)の製品となるだろう。ここにウーバーが関与する隙間はない。

このような完全なる利害関係の対立を踏まえて、両者の間で競技が行われ、GMがビジョンファンドの持ち分を買い取ることで決着したと考えるのが自然だろう。

クルーズは外部パートナーとの連携は依然として重視している。同社の株主名簿にはまだ合計20%を所有する他の外部パートナーがいる。その中には、GMの自律走行車「クルーズ・オリジン」の開発を支援している本田技研工業、マイクロソフト、ウォルマート、T・ロウ・プライス・グループなどが含まれている。

一つのネットワークから離脱した格好のウーバーには自律走行配車事業で対抗するための頼みの綱がある。それは、社内の自律走行部門を買収したオーロラだ。ウーバーと優先的なソフトウェア提供の契約を結んでいるオーロラがウェイモやクルーズに追いつけるかどうかが、今後のビジョンファンドの配車ポートフォリオの命運を決めるだろう。

ウーバーは2021年2月の最高値から約半分の株価で取引されている。滴滴とグラブの株価低迷はもっと深刻だ。自律走行と配車が融合できるか否かは、パフォーマンスの低迷が鮮明なビジョンファンド1の行く末を決定しうるだけでなく、負債比率の急速な上昇が伝えられるソフトバンクGの命運をも左右するだろう。

今年は自律走行車の変曲点の年になろうとしているが、実用の幅が広まってきた。その中で、合従連衡の調整が行われており、新しい文脈に適応しない旧世代の製品が市場が追い出されようとしているのだ。

今年は自律走行車の変曲点の年
ウェイモとクルーズはサンフランシスコでついに乗客に運賃を課せられるようになった。今年は自律走行の変曲点の年となり、ロボタクシー以外のアプリケーションが何千何万と出てくる可能性がある。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)