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ヤフーと新聞 どのような戦略をパブリッシャーはもつべきか デジタルメディアの未来 #1

ヤフーはコンテンツプロバイダーに対し十分な収益分配をしていません。このゲームは、その過程に関与できないパブリッシャーのためのゲームではありません。違うゲームを模索するべきです。

4 months ago

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Key Takeaway このブログで重要な点

前置き

毎日新聞取締役、元社会部長の小川一(敬称略、以下全て)が連載「令和のジャーナリズム同時代史」「巨大プラットホーム・ヤフーとメディア」「ヤフーと新聞」と日本のメディアをめぐる課題に踏み込んでいます。僕の最初の職場「じゃかるた新聞」は、元毎日新聞ジャカルタ支局長の草野靖夫が共同創業したものであり、次の職場のマーケティング、メディアのデジタル化を扱うDIGIDAYでは、小川にメディアの未来についてインタビューをしています。

また、昨年末には、ニューズウィーク日本版の特集「進撃のYahoo!」では、ノンフィクションライターの石戸諭がヤフー・ジャパンのプラットフォームとしてのあり方を厳しく精査しています。石戸は元々はヤフージャパンとバズフィードの合弁事業であるバズフィードジャパンの記者だったことがこの特集記事に一定の文脈を添えています。

僕のキャリアは記者、編集者のキャリアから起業という流れですが、実際には、日本の伝統的なメディアにおいても、デジタルメディアにおいても「異邦人」であり、完全に浮いています。現在は異邦人の立場から、日本のデジタルメディア業界の課題の解決策として「ニュースのNetflix」である「Axion」を作っています。このブログでは、エコシステムに組み込まれず集団的な思考から距離を置いている僕が、記者・編集者という立場から得られた知見を基に、日本のデジタルメディア業界について語ってみようと思います。

また、僕の関心は「業界を良くしよう」というものだけにとどまらず、会社のビジョンに基づくものです。ソーシャルメディアやニュースアグリゲーターからフェイクニュースの拡散やトロールが実行され、人間と同様のレベルの文章を生成したり、ディープフェイクが偽造映像の作成を容易にし、画像認識や顔認識追跡技術を組み合わせることでサイエンス・フィクション的な超監視社会を造ることも可能になった現代、どんなデジタルメディアが必要なのか、は異なる視点から重要な問いになっています。そしてこれは僕のライフワークでもあります。前置きが長いですが、これらの理由から、不定期な形で、日本のデジタルメディアに関するブログを連載していこう、と思います。


ヤフーと「コンテンツプロバイダー」の関係

今回は、前述の小川、石戸の記事で言及がされていますが、ニュースアグリゲーターとパブリッシャー(新聞社、出版社などを含む広義の「出版社」)の関係について考えてみましょう。

新聞協会によると、新聞社売上はピークの96年には新聞業界の売上は2兆4900億円ありました。それが2018年は1兆6619億円となり、8000億円以上も減らしました。これに対し、ヤフー(Zホールディングス)の売上は1998年の12億円から8971億円へと増えました。これは新聞の売上がヤフーへ付け替えられたと説明できるわけではありません。

ただし、「ニュース消費」という消費者行動が、新聞からヤフーの両面市場(需要と供給をプラットフォームが仲介する仕組み)に移行したことは、その消費されるコンテンツの製作者が共通していることからも確実でしょう。これにより、収益化する主体やその手段が変わった、と表現することは可能です。そして、新聞社の役割は、ヤフーの仕組みの中では、「コンテンツプロバイダー」という名前の力なきサプライヤーになっています。

ヤフーの売上の柱は、電子商取引とメディアです。電子商取引は、近年急激に進められるアリババ化のための投資をしており、儲かっていません。長らくヤフーの屋台骨を支えてきたのは高い収益性を誇るメディア事業です。昨年9月に公開された2018年通期決算によると、Zホールディングスの広告関連売上収益が3238億円、内訳は検索連動型広告1642億円、ディスプレイ広告1595億円、YDN(ヤフーディスプレイネットワーク)1063億円、プレミアム広告532億円です。この内パブリッシャーからのコンテンツの収益化と関連しそうなのはディスプレイ広告とプレミアム広告で合計2027億円の規模です。

ヤフーが2027億円の売上を作るのにはそれ相応の費用が必要ですが、ヤフーはテクノロジー企業特有のビジネスの拡張可能性を享受しており、運営に必要な費用は、この売上のなかの小さな割合に過ぎないと推定できます。同時に、石戸の特集「進撃のYahoo!」に詳しいですが、ヤフーはコンテンツプロバイダーに対し十分な収益分配をしていません。ヤフーは、インターネット広告事業が成立するための規模の経済を享受し、収益分配を抑制することで、以前は粗利50%程度と公開していた、高い収益性を得ていると表現できます。ヤフーとサプライヤーのビジネス上の関係は、セブンイレブンとそのフランチャイジーの関係に似ています。

アグリゲーターとパブリッシャーの相互依存関係

ただし、必ずしも、ヤフーのようなアグリゲーターが製作者と利用者の間に入り、製作者を搾取していると、断定することはできません。ユーザーは自分がしたいことを選ぶ生き物であり、彼らが選ぶのは必ずしもニュース消費ではない、ということです。

スタンフォード大学ビジネススクールのSusan Athey、Microsoft Research、ミシガン大学のMarkus Mobiusらによるワーキングペーパー ”The Impact of Aggregators on Internet News Consumption” は、2014年12月にGoogle Newsのスペイン版が一時的に閉鎖したのを活用して、Google Newsユーザーと非ユーザーを比較した結果、Googleニュースの閉鎖により、もともと同アプリを利用していたユーザーのニュース全体の消費が約20%減り、Googleニュース以外の出版社でのページビューが10%削減されることがわかった、と結論づけています。

このワーキングペーパーで試みられている研究の面白い点は、Googleニュースがシャットダウンすると、ユーザーは以前読んだニュースのすべてをほかの経路で補填しようとするのではなく、その一部だけを補填することが分かったとAtheyらが主張していることです。Google News利用者のニュース消費の減少は小規模のパブリッシャーに集中し、大規模なパブリッシャーではトラフィック全体に大きな変化は見られません。 つまり、確立したニュースサイトはアグリゲーターへの依存が薄く、確立していないサイトは依存が深いのです。

したがって、このペーパーは「アグリゲーターがなくなるとパブリッシャーが滅びる」ことを示しませんし「アグリゲーターがすべてのパブリッシャーを搾取している」ことを示すわけでもありません(そもそもこの論文は査読を受けていません)。僕が重要なポイントだと感じるのは、パブリッシャーはその規模によって異なる戦略がある、ということです。つまり、このペーパーだけを踏まえるならば、新聞のような確立したブランドを持っているのなら、アグリゲーターが設定した柵の外への冒険は有望な選択肢なのです。アグリゲーターと取引しながら、同時に柵の外を探索する、というのが、最適な戦略の匂いがします。

ほか、このワーキングペーパーが、日本のヤフーと新聞の関係を説明するためにあまり役に立たないことを支持する2つの点も組み合わせておきます。(ごちゃごちゃうるさい感じなので、下の2段落は読み飛ばしてもいいかも知れません)。

ひとつは、アグリゲーターがもたらすトラフィックはパブリッシャーにとって大事なのですが、パブリッシャーにはそのトラフィックを収益になめらかに転換する術がないことです。広告収益は明確にトラフィックのスケールに依存し、一定のしきい値を超えるまでは、非常に情けない線を描き、超えたあとに一気に跳ね上がる傾向があり、少数の勝者しか許容しない傾向があります。サプライヤーにはアグリゲーター自体が持つ規模を表現するすべがありません。加えて、アドテクの構造はパブリッシャーを「カモる」ような設計がされており、広告収益の成長はパブリッシャー取り分にはあまり影響しないのです。その構造はこのブログで詳しく触れています。

もうひとつは、ヤフートピックスもヤフーニュースもコンテンツプロバイダーサイトに遷移しないので、2014年当時のデスクトップ版のGoogle Newsとは比較しようがないということです。サイトに遷移しないことは、サイトにトラフィックをもたらさないことを意味します。ヤフーの場合、収益分配が薄いことにとどまらず、大半のパブリッシャーに対してはほぼトラフィックの提供すらも行っていないので、「不平等条約」なのは疑いがありません。ヤフーは昔から、欧米のパブリッシャーが飲まないような手厳しい条件を、日本のパブリッシャーに飲ませることに成功してきたわけです。

低い広告価格がもたらす市場のゆがみ

さらにもうひとつ、避けては通れない大きな事情が存在します。それは、日本でデジタル広告で収益化する全てのプレイヤーにとって好ましくない事実です。それは、日本のデジタル広告単価は先進国の中でも、目を見張る水準で低いことです。この日本独特の商慣行と業界構造が生み出した歪みは、日本最大級のサイトの収益性に明確なプレッシャーをかけています。それはヤフーがパブリッシャーへの収益分配を抑制することを正当化するかも知れません。

また、この低いデジタル広告価格問題は、マスメディアのニュース消費をデジタル化したとき、もとあった市場よりも縮ませることに寄与します。新聞社の販売収入からは3072億円以上が失われ(データが取得可能な2004年度と2018年度の比較)、出版業界の販売から約1兆1000万円(電子書籍の補完分を差し引いた出版物販売額)が消えました。他方、広告市場では、電通の「日本の広告費」によると、新聞、雑誌の出版物への広告費がデジタル広告に転換されたと推定できる動きを示しています。つまり、販売から消えた1兆4000億円のうちいくらかは、消失してしまった可能性があるのです。もちろん、もっと精緻な調べ方が必要なのは確かですが、それでも、これは余りにも大きな数字です。

この消失をどう捉えるか、ですが、無料の製品が大きな消費者余剰をもたらしている、という考え方があります。消費者余剰とは、消費者が支払ってもいいと考える価格からその商品の実際の価格を差し引いたものです。たとえば、あなたがタダでYou Tubeの動画を見ているとき、あなたは実際はその動画に300円払ってもいいと感じているが、無料なので払わない。このとき消費者余剰が300円に達すると考えます。

これは、日本のメディア産業はデジタル空間において有効な収益化手段を長い間もたなかったことを示唆しています。

どのような戦略をパブリッシャーはもつべきか

さて、ヤフーは適切な収益分配をするべきでしょうが、自由競争の社会には強制力は存在しません。だからパブリッシャーのとるべき「戦略」の話をしましょう。

国際的に見ると、米国のテクノロジー企業が市場を侵食する中で生き残るポータルサイト、ヤフーは稀有な存在です。本家の米Yahooは、ビックテック(日本で言うGAFA)に圧迫され、AOLに敗者連合の形で事業を売却し、Alibaba株の持株会社が残りました。

国内でもデジタル広告の売上では、ヤフーはGoogleに首位の座を譲ったとされています。日本のデジタル広告市場は拡大していますが、その市場の拡大を享受しているのはヤフーではないようです。最も楽しんでいるのはGoogle、GoogleのYou Tube、Twitter、Amazon、Facebookです。2007年にスマートフォンが登場して以降、日本市場は多様化しており、それはほぼ米国のテクノロジー企業によるものです。

そしてデジタル広告の世界は、恐ろしいほど弱肉強食の傾向を示しています。あなたが、GoogleやFacebook、そしてヤフーに対して、スモールプレイヤーだと自認しているなら、彼らが大きな収益をあげて、それを分配しないことに腹を立てているだけではなく、デジタル広告のゲームから降りるべきときかもしれません。

最後にポジショントークを付け加えておきます。Axionとのゲームに取り組むほうがパブリッシャーのためになります。日本のパブリッシングのデジタル化にとって好ましい未来を提示できると僕は信じています。

次回はビジネスモデル(サブスクリプションモデル)の話をしてみようと思います。

参考文献

Susan Athey, Mark Mobius, Jeno Pal. The Impact of News Aggregators on Internet News Consumption: The Case of Localization. January, 2017. Stanford Business School Working Paper No. 3353.

"うめ"by cyawan is licensed under CC BY 2.0

Takushi Yoshida

Published 4 months ago