ゲーム業界もWeb3を見限る 富者と貧者の分断がゲームの楽しみを壊す
Web3は「持てる者」と「持たざる者」にプレイヤーを分断し、ゲーム本来の楽しみを破壊すると懸念されている。すでに業界での熱は冷え、ゲーマーと開発者からは蛇蝎のごとく嫌われていると言ってもいいだろう。
Web3は「持てる者」と「持たざる者」にプレイヤーを分断し、ゲーム本来の楽しみを破壊すると懸念されている。すでに業界での熱は冷え、ゲーマーと開発者からは蛇蝎のごとく嫌われていると言ってもいいだろう。
7月中旬、人気ゲーム『マインクラフト』の運営元Mojang Studios(Microsoft傘下)は、公にNFTを採用しないと宣言した。声明ではNFT が「希少性と排除」を生み出すと繰り返し言及し、これはマインクラフトのビジョンと相容れないものだと主張している。
MojangはゲームとWeb3の相性を精緻に検証した上でこのような結論を下したことは間違いない。大きなユーザーベースを持ち、いわゆるメタバースの初期の典型例ともされるマインクラフトによるNFTの拒絶は、ゲーム業界が一時期の熱狂を経て、NFTの評価を確定しつつあることを示唆する出来事だ。
Mojangは「持てる者と持たざる者にユーザーを分ける」「NFTにまつわる投機的な価格設定と投資の考え方は、ゲームのプレイから焦点を遠ざけ、利益追求を助長し、プレイヤーの長期的な喜びと成功とは矛盾していると考える」とNFTの不採用を説明している。
言い換えれば、彼らのNFT批判の中で最も先鋭的な部分は「ゲーム内経済が外部から破壊される」ということだ。
Web3ゲームとポンジ・スキーム
ゲーム内経済とはプレイ時間が長時間化し、他のプレイヤーとのインタラクションを楽しむようになった最近のゲームにとって切っても切り離せない、重要なゲームデザインの一側面である。
例えば、任天堂の「あつまれ どうぶつの森」は非常に巧妙なゲーム内経済を成功させたと言われている。このゲームでは、「たぬきバンク」と呼ばれる金融機関があり、これが中央銀行の役割を果たしている。ゲーム内通貨「ベル」をたぬきバンクに預けると、金利をもらえる。たぬきバンクが金利を突如10分の1に下げると、ゲーマーは今度は株式に似た「カブ」の裁定取引に殺到し、ゲームデザインとプレイヤーの反応が混ざりあうことで独自の金融システムが築かれていった。
このゲームは資本主義を学ぶのに最適だ、と評価する向きもあり、ほぼ金融資本主義的にプレイするゲーマーもいて、中にはカブ価の解析ツールを開発する猛者までいた。
また、サバイバルファーストパーソン・シューティング(FPS)『Escape from Tarkov』では、アイテム取引に使われる通貨には「ルーブル」が採用され、現実の「ロシア・ルーブル」の市場価値と連動するという興味深いシステムが採られていた。これによって、ウクライナ侵攻に対する経済制裁の後、ルーブルが暴落し、これにつられてゲーム内マーケットで一部アイテムの価値が暴落してしまうという興味深い出来事が起きている。
さて、ではWeb3ゲームの経済はどんなものだろうか?
状況は明るくないように見える。これまで、Web3の要素がゲームに追加されると、ゲーム性がNFTや暗号通貨の価格の上がり下がりに収斂していく傾向が見えることがあった。さらにゲーム内経済のデザインがお粗末な場合(あるいは悪意に満ちている場合)、それはポンジ・スキームに仕上がったケースもある。そして多くの場合、お粗末なのだ。
ポンジ・スキームとは投資家から預かった資金を運用し、その利益を投資家に還元する(配当等)」とうたいながら、実際には資金を運用せず、後から参加した投資家から新たに集めた資金を「配当金」として既存の投資家に回すスキームを指す。
この典型例が「プレイ・トゥ・アーン(遊んで稼げる)」ゲームの筆頭であるAxie Infinityである。このゲームでは、初期プレイヤーから購入した投機性の高いNFTの価値を高めるために、後発プレイヤーからの新たな資金が必要とされている。コンサルティング会社Naavikは、Axie Infinityは「プレイ・トゥ・アーン」経済を動かすために、常に成長するプレイヤーベースを必要とすると結論づけ、「後発プレイヤーは、毎日プレイしても、フィリピンの最低賃金の仕事よりも少ない収入しか得られない」と指摘している。
Axie Infinityはそのグロテスクなゲームデザインによって「デジタル小作農」を誕生させた画期的なゲームでもある。ベトナムの開発会社が運営するこのゲームでは、トークンの大口保持者が、必要なトークンを持たない小口保有者に対してゲーム権を与えることができ、その見返りとして大口は小口が獲得したトークンの上前をはねることができた。
かわいいアートワークとは裏腹に、Axie Infinityの中身は『賭博黙示録カイジ』に登場するエスポワール号の最下層の強制労働施設の様相を呈している。米国のベンチャーキャピタルが資本を出し、ベトナムのゲーム会社が悲惨なゲームシステムをデザインし、フィリピンやベネズエラの低所得者が「小作農」として搾取される、というふうに、だ。
また、運営主側の不品行を助長するインセンティブも働いたことも追記しておこう。運営会社Sky Mavisとその従業員は、Axie Infinityのブロックチェーンに対する3月のハッキングを公表することによって暗号通貨が暴落する前に売り抜けるインサイダー取引を行ったと指摘されている。同社は疑惑を否定している。
Web3はパチンコの景品交換所?
「ムーブ・トゥ・アーン(移動すると稼げる)」を唄うStepnもまた、ポンジ・スキームと揶揄され続けているWen3ゲームである。
Stepnでは、最初にアプリ内で「靴」というデジタルアイテムを購入する必要があり、これがロケットニュース24の中澤星児が体験記事を執筆した際には3万8,000円相当のコインを支払わないといけなかったという。すべての歩行が暗号通貨に換算されない「エナジー」というシステムが、歩きまくるという攻略法に上限を設けており、中澤は1カ月歩き続けた末の収入が約1,316円で、収支は−4万8,189円だったという。
さらに、この収入が続くと想定すると、元が取れるのは約28カ月後になるという。ただし、この想定はゲームシステムがそのまま維持されているという前提に依存しており、運営元の方針次第で成り立たなくなってしまうだろう。
運営元にはゲーム内経済を最終的にどのように設計する意図があるのかが気になるところだ。運営元は集めたお金を再分配しているだけであり、ギャンブルや保険にように配当を受け取れない「敗者」を作らない限りは、ユーザーを儲けさせることはかなわない。すべてのユーザーが儲けられることを約束するなら、これまでそうしてきたように補助金を与え続ける必要がある。しかし、暗号資産が冬の時代を迎えたいま、Stepnに補助金の原資を与える投資家はいるのだろうか。
Stepnに残された選択肢は、「ユーザー全員に損をしてもらう」ということだ。最初にStepnで儲けた一握りの初期参入者を使ってマーケティングし、かき集めた後発参入者から徴収するということだ(中澤はもしかしたらこちらに分類されるかもしれない)。「歩けば稼げる」のマーケティング文句が嘘だったことになることを除けば、ソフトランディングと言えるだろう。
また、Stepnはユーザーの動機づけにおいても興味深い実験となっている。中澤は「先行投資の靴が高いだけに、稼ぐ目的で始めた場合、失敗して『詐欺』と批判する人もいそうな気がする」としながらも、「稼ぐためというより、靴を育てるゲームとして捉えるのが平和だ」と考えているようだ。
ここで、興味深いのは、「歩いてコインを得る」というシンプルなゲーム性が、そのコインに換金可能性が付与されるだけで、投機や労働のようなものに変わるということだ。「健康のために歩きたい」のようなプレイヤーの内発的モチベーションが、「金銭のために歩く」という外発的モチベーションによって代替される。
これはMojangの主張の趣旨と一致する。マインクラフトのゲーム性の中で「自分の好きなものを作ってみたい」「創意工夫を凝らしたい」というユーザーの内発的モチベーションは、重要なドライバーであることは間違いない。しかし、NFTが絡むとモチベーションがすべてお金に引き寄せられてしまう、そしてついには「持てる者と持たざる者にユーザーを分ける」とMojangは主張している。
(この現象に「人生の悲哀」を感じてしまうのは私だけだろうか)
つまり、NFTや暗号資産はパチンコ屋の景品換金所のような作用をゲームに与えるように見受けられる。Web3がくっつくと、すべからく全てのゲームがパチンコやスロットマシーンの側面を宿し、プレイヤーはコインやNFTを換金することばかりに考えが向かってしまう。
第三者が無許可でNFTを作ることのリスク
あと、もっと悪質なNFTについても指摘しておかないといけないだろう。それは第三者が勝手に作った「サードパーティNFT」のことだ。
Mojangは前述の声明で、第三者が勝手にマインクラフト内のアイテムを鋳造する、サードパーティNFTについては敵意をみなぎらせている。それもそのはずで、第三者がゲームを改造して無許可のNFTシステムを構築した場合、運営元から知的財産権(IP)とそのコントロールが奪われてしまうことになるからだ。ゲーム開発会社はIPを生み出すのに文字通り血を流す努力をし、その中のほんの一握りだけが人気ゲームとなる現実があり、その果実を横取りするサードパーティNFTへのデベロッパーやパブリッシャーの視線は冷たい。
また、サードパーティNFTは、NFTが一度広まると回収不能であるという「不都合な真実」を暴露した。8月上旬、米ゲーム販売店GameStopが立ち上げたNFTマーケットプレイスで、第三者が作者の許可を得ずにサードパーティNFTを鋳造し、販売した。
NiFTy Arcadeと呼ばれるNFT提供者が、所有者の暗号通貨ウォレット、またはマーケットプレイスのページ自体から、完全にプレイできるHTML5ゲームにリンクした「インタラクティブNFT」を提供したが、NFTはクリエイターの許可なく鋳造・販売されており、クリエイターとの間で利益を共有する取り決めがされていなかったことが判明した。
権利者ではない人間がNFTを鋳造するリスクは常に指摘され続けたものだが、さらに新しいリスクを呼び起こした。マーケットプレイスでNiFTy Arcadeの鋳造権限が停止されたものの、すでに流通したNFTはまだピアツーピア(P2P)のストレージネットワークであるIPFSにプレイできるバージョンが残存しているという。
NFT界隈では画像などのIPFSへのデータのアップロードが推奨されていたが、P2Pでは一度データが広まると収集がつかなくなり、それがこのケースでは火傷を招いている。このリスクは前々から指摘されており、「リベンジポルノのNFTが鋳造されたら救済するすべがない」という議論が存在するほどだ。
もう2006年前後のWinnyの状況を知らない若い子も多いのかのお。 https://t.co/LXIf1ah8C4 pic.twitter.com/Nng0FzLuT9
— Hiromitsu Takagi (@HiromitsuTakagi) July 26, 2022
サードパーティNFTは「誰もがいくつでもNFTを複製できる脆弱性」に狙いを定めた最新の例である。他にも有名な例として、現代美術家がデジタルアート「BAYC」のNFTを複製してコンセプトアートとして販売したことがある(現在係争中)。
懐疑論が支配的に
これらを踏まえて、業界ではNFTへの懐疑論がすでに醸成されている。
世界中の何千ものゲームメーカーからなる専門家集団、国際ゲーム開発者協会(IGDA)の暫定ディレクターに任命されたジャキン・ヴェラ博士は、NFTゲームに関する誇大広告や投資の増加に対処することが、IGDAの「優先事項の1つ」であるとテクノロジーメディアのArsTechnicaに語っている。
IGDAは、昨年7月のNFTに関する「行動への呼びかけ」声明で「シンプルではるかにコストの低いデータベーステーブルを管理することでNFTと同じ情報と利点を提供できる。(ゲーム開発者は)NFTを決して使用すべきではない」と述べていた。IGDAの内部組織であるClimate Special Interest Groupも、ゲームにおけるNFTに反対する論拠のリストを作成し、増やしている。
ヴェラ博士は「ポンジ・スキーム」の蔓延を指摘するだけでなく、NFTゲーム経済には「持つ者と持たざる者が生まれるという倫理的な問題もある」とし、「力の差が重要な要素となり得る」と述べている(これもまたMojangの声明と重なり合う)。「まさに社会政治的な爆発が起こるのを待っているようなものだ」とヴェラ博士はArsTechnicaに対して語っている。
Web3ゲームを通じてお金を稼ごうとするプレイヤーは、「彼らのリソース、つまり雇用活動への投資全体が、この規制されていない、本当に不確かな未来のエコシステムに依存している」状況に直面し、「それは人々を濁った水の中に置くことになると思う」と彼は言う。
急速にしぼむ関心
そしてゲーム会社の関心も急速にしぼんでいる。
NFTは当初、ゲーム業界を席巻する「フリー・トゥ・プレイ」のための収益化方法になるのではないか、あるいは既存のゲームに新たな収益を追加できるのではないか、のような理由で注目された。
エレクトロニック・アーツ(EA)のCEOであるアンドリュー・ウィルソンは、11月にNFTについて語った際、かなり楽観的な見方をしていた。米テイクツー・インタラクティブのストラウス・ゼルニック等、他のゲーム会社のトップも何らかの興味を示していた。
12月にウィルソンがNFTを追求することに引き続き関心があると述べた後、会社のSlackチャンネルで受け取った従業員からの明らかにネガティブな絵文字の反応が多く寄せられたという。
ゲーム業界ではNFTは2022年までにモメンタムを保つことができなかったようだ。最終的に同年2月の決算説明会では、ウィルソンは「時間をかけて評価することになるが、現時点では、強く反対するものではない」と語るにとどめた。それ以降、EAからNFTの話題が出てくることはなくなった。
7割のゲーム開発者は関心を失っている。2022年1月、GDCの主催者でInformaのメディア・エンターテインメント市場担当バイスプレジデントのケイティー・スターンは、GDCの「業界の現状」調査で、72%の開発者がNFTゲームの制作に興味がないと答えたと明らかにしている。「ゲームとお金の関わり方に関する倫理観に影響を与える。また、環境にも影響を及ぼし、今まさに火種となっている」とスターンは説明している。
一つの選択肢は、事業者が自社のIPに基づく、または関連するNFTを意図的に開発することだ。その最も有名な例の1つであり、業界の他部門にとって重要なテストケースとなったのが、ユービーアイソフト(Ubisoft)の「Digits」で、これはあっけなく失敗した。Ubisoftは昨年末、当時2年目でプレイヤー数が減少していたシューティングゲーム『ゴーストリコンブレイクポイント』で、収集可能なアイテムを発売した。プレイヤーの反発は激しく、NFTの価値が上がることはなく、Ubisoftは4カ月後にすべてを打ち切った。
それ以来、メインストリームのゲームパブリッシャーや開発者はNFTの立ち上げを試みていない。明らかな例外が、スクウェア・エニックスで、先月中旬、NFTを開始することを選択している。『ファイナル・ファンタジー』のような大作ゲームを作る人々は、NFTについて、上司の目を盗んで何と言っているだろうか。とても興味深いところだ。
結論
ゲーム業界は、NFTや暗号資産がゲームにおいてパチンコの景品交換のように作用し、投機熱を煽り、プレーヤーを「持つ者」と「持たざる者」に分け、「デジタル階級制度」を生み出すことを懸念している。
代表的なWeb3ゲームは、ゲーム内経済の欠陥や様々なモラルハザードの存在が指摘されており、持続可能ではなかった。また第三者がゲームやアイテムのNFTを許可を得ずに作成することには恐ろしいほどのリスクが潜んでいることも確認された。
大手ゲーム会社はブームから儲ける術を探していたが、使い物にならないとわかり、熱は冷めた。そして、ゲームを愛する人からは蛇蝎のごとく嫌われていると言っていいだろう。
追記
ゲームの中で、新たなカール・マルクスが生まれそうなエグい資本主義を作ってしまう人間の行状を、冥王星の裏側から人類をモニターしている、我々より1万倍知性の発達した宇宙人たちがいると仮定してみよう。
彼らはWeb3ゲームを見て「人類はまだ資本主義とかいう馬鹿げた仕組みが好きなみたいだ」と呆れ返っているだろう。「何でもかんでも、一つのやり口を当てはめようとするんだ。『何とかの一つ覚え』ってやつだな」
彼らには人類に提案がある。たぶん、それは経済を管理することをAIに任せ、経済のアクターをもAIに任せることだ。彼らの見方では、人類の知性では経済を扱うのは大変すぎるみたいだ。じゃあ、AIは十分なのだろうか? 彼らは我々のような馬鹿でもわかるように地球の文献を教えてくれた。
「AIに報酬を与えるだけで十分なんだよ。地球人クン!」
追々記
しかし、弊社は極めて資本主義的な状況の中に含まれており、ある意味Web3ゲーム的な状況です。この世界線ではAIはまだ問題を解ききっていません。このため弊社ではエンジェル投資を募集しています。50万円から投資可能です。
追々々記
僕はこれまでこれとこれでWeb3、NFTを非難しているし、これではNFTの著作権の致命的な脆弱性を指摘している。こういうのが優先的に読めるのが、アクシオン有料版です。いまなら初月無料。ぜひご利用ください。