【特集】東南アジア・デジタル経済・攻略法 モバイルインターネットにつながる6.5億人
21世紀はアジアの時代である。GDPの50パーセントと消費の40%を地域が占めることになる。東南アジアがデジタルエコノミーをテコにどのようなポジションを築こうとしているのか
序文
「暴利をむさぼる恥知らず」。1997年、マレーシアのマハティール首相はアジア通貨危機の引き金を引いた通貨トレーダーをこう非難したことは今でも語り草だ。国際通貨基金(IMF)による救済を拒否し資本統制を敷くという思い切った行動をとったマハティールはいまでもトレーダーが嫌いのようであり、今年4月に東京で行われた会議で東アジアの金ペッグされた貿易決済通貨の提案をしているほどだ。
マハティールが怒るのも当たり前だった。ASEAN諸国はアジア通貨危機を経験し、その際、ASEANのいくつかの国は資本が流出し、通貨が大幅に下落することで、経済は危機的状況に陥ったからだ。
地域の人口の4割を抱え、GDPの4割を占めるインドネシアもまた通貨危機で大きく躓いた。重度に腐敗しながらも強制力を盾に開発計画を実行するスハルト独裁政権が倒れ、民主化の混乱の中でインドネシア経済は停滞を迫られた。
2億6000万人の経済が再び世界の脚光を浴びたのは2007~2008年の世界金融危機の時だった。各国の経済指標が低迷するなか、内需主導型の好況のなかにあったインドネシアは影響を受けなかった。それが同国への投資を加速させ、旺盛な個人消費は止まるところを知らなかった。
それでもインドネシアのGDP成長率は5%のレンジで安定しているようであり、新しい成長エンジンが必要になっている。これはインドネシアに限ったことはなく、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピンに共通する状況だ。彼ら「ASEANの優等生」は開発独裁政権の下で長期計画に基づいた経済開発を進め堅調な経済成長を遂げてきたが、通貨危機によるショック以降は安定成長の時代に突入している。富裕国に比べれば人口動態は若いものの高齢化の波は確実に迫ってきている。
ここに大きな機会が巡ってきた。それはデジタルエコノミーである。シンガポールとマレーシアを除いた国ではインターネットはモバイル中心で普及しており、その環境は先進国のモデル飛躍することを許容する。
マッキンゼーの論考にもあるように、21世紀はアジアの時代である。世界のGDPの50パーセントと消費の40%をアジアが占めることになる。そのなかで東南アジアがデジタルエコノミーを梃子にどのようなポジションを築くか。歴史の中で中国とインドの影響を受け続けてきた地域である東南アジア。そのデジタル経済には中華型モデルの移植とその独自の解釈が生まれている。この「攻略本」で探索を始めることを薦めたい。
特集記事
[1] 人口6.5億人を抱える東南アジアのデジタル経済は成長著しく、2025年に世界で5番目のデジタル経済圏へ
『6億経済圏のデジタル変革 東南アジアのデジタルエコノミー』
[2] デジタルエコノミーの成長を見越しスタートアップが躍進。時価総額1兆円を超すデカコーンの決戦。
『GO-JEK VS GRAB 1兆円スーパーアプリの決戦 テック経済レビュー』
[3] Go-JekとGrabは超多機能の「スーパーアプリ」と呼ばれるが、それが中国で生まれた経緯とは?
『スーパーアプリとは?WECHATが編み出した最強のモバイルファースト戦略』
[4] モバイル決済の総取引額は、2027年には1兆910億ドルに達すると予想されており、それを見越した大競争が勃発している
『大競争時代の到来:東南アジアのデジタルウォレット テック経済レビュー#10』
[5]「離陸」寸前のインドネシアのモバイル決済。成長の鍵はデジタルウォレット内で購入できる金融商品であり中華型モデルの移植実験が行われている。
[6] 東南アジアの電子商取引市場は著しい成長の最中にあり投資マネーも急増。Tokopedia、Shopee、Lazadaの三者が地域の覇者へと成長した。
[7] 2025年の780億ドル市場をめぐり欧米系に加え、地元のTraveloka等のプレイヤーが急成長。だが、エアアジアという域内最大航空会社が自分たちもプラットフォームになると宣戦布告をし、風雲急を告げた。