public

風雲急を告げる東南アジアのオンライン旅行市場:地場ユニコーンに格安航空会社が挑戦状

2025年までに780億ドルに達する東南アジアのオンライン旅行市場。欧米系のBooking.com、Expedia等に加え、地元のTraveloka等のマーケットプレイスモデルのプレイヤーが急成長している。だが、エアアジアという域内最大航空会社が自分たちもマーケットプレイスになると宣戦布告をした。

10 months ago

Latest Post 無視できなくなったTikTokの政治的影響力 by Takushi Yoshida public

本記事は富裕国を飛躍(リープフロッグ)する東南アジアのデジタル経済の「攻略本」となる『【特集】東南アジア デジタル経済 攻略』 の連載のひとつです。特集のトップページはこちらです。

【連載目次】

  1. 『6億経済圏のデジタル変革 東南アジアのデジタルエコノミー』
  2. 『GO-JEK VS GRAB 1兆円スーパーアプリの決戦 テック経済レビュー』
  3. 『スーパーアプリとは?WECHATが編み出した最強のモバイルファースト戦略』
  4. 『大競争時代の到来:東南アジアのデジタルウォレット テック経済レビュー#10』
  5. インドネシア デジタル決済: 中国モデルの「移植実験」
  6. 『東南アジアEコマース帝国の台頭』
  7. 風雲急を告げる 東南アジアのオンライン旅行市場

まとめ

2025年までに780億ドルに達する東南アジアのオンライン旅行市場。欧米系のBooking.com、Expedia等に加え、地元のTraveloka等のマーケットプレイスモデルのプレイヤーが急成長している。だが、エアアジアという域内最大航空会社が自分たちもマーケットプレイスになると宣戦布告をした。

1. 東南アジアのオンライン旅行市場

東南アジアはオンライン旅行は最大かつ安定した市場である。GoogleとTemasekの「e-Conomy SEA」によると、2018年の段階では、オンライン旅行セクターは東南アジアのインターネット経済の4つのセクターの中で最も大きく、最も確立されているセクターだ。航空券、ホテルのオンライン予約、および、Airbnbのようなレンタル宿泊予約を含めると、2018年の総予約額(GBV)は約300億ドルに達すると予想していた。2015年から2018年の間に15%と、劇的な成長を見せる他セクターよりは穏やかだが「健全」なCAGR(年平均成長率)であり、今後も同様のペースで成長を続け、2025年までに780億ドルに達すると予想されている。

報告書は2018年に東南アジアで行われたすべての旅行予約の41%がオンラインで完了したと推定する。2015年の34%から7ポイント伸ばした。旅行予約は、従来の旅行代理店、コールセンターから、航空会社、ホテルチェーン、オンライン旅行アグリゲータ(OTA)が運営するオンラインチャネルへの移転が起きている。

これは主にAgoda、Booking、Expedia、Traveokaなどの主要プレイヤーに対する消費者の信頼の継続的な向上によって推進されてきた。従来型のプレイヤーの価値提供が薄く、スイッチングコストがとても低いことや、そもそも旅行代理店等のプレゼンスが確立される前にモバイルインターネットドリブンな新規プレイヤーが参入したことも大きな要因と考えられる。

このようなマーケットプレイスを使用すると、旅行者は最良の製品と価格を簡単に比較して見つけられると「感じられる」だけでなく、航空便、ホテル等の予約を一度に完了できる。インドネシアのような潜在性のある国以外の、経済上位国ではスマートフォンの普及率がかなり高い水準に達している。いわゆる「モバイルオンリー」の消費者を捉えるために、不安定なインターネット接続や比較的非力なマシン等の現地の事情を勘案し、主要プレイヤーはモバイルWebサイトとアプリでのユーザー体験を大幅な改善を成し遂げてきた。

報告書は、このような基礎的要因に支えられ、ネットへの移転トレンドは継続し、2025年までに旅行予約の最大57%がオンラインで完了すると予測している。

オンライン航空は、オンライン旅行内で最大かつ最も確立されたセグメントである。2018年のオンライン予約で180億ドルの価値があり、CAGRは14%だ。実質的にすべての航空会社が自社のウェブサイトやアプリ、または外部の旅行プラットフォームを介してフライトを購入する機能を提供している。ホテルのオンライン予約は、2018年に140億ドル相当で、CAGRが18%と算定されているが、さらに高い成長の可能性がある。東南アジアの多くのホテル、特に「秘境」に類する目的地は、オフラインチャネルを通じて予約の大部分を受け取るが、これらが今後数年でオンラインに移行する態勢が整うからだ。

同報告書ではAirbnbのような宿泊シェアを「オンラインバケーションレンタル」というセクターで扱っており、2018年の予約は6億ドルを超え、CAGR24%で成長すると想定されるオンライン旅行の最もダイナミックなセグメントだ。Airbnb等が東南アジアでの消費者の関心の高まりを経験し、個人の家や部屋の提供を拡大している。オンラインバケーションレンタルは、規制の不確実性と黎明期の消費者の信頼が得られていないことが障害になり得るが、2025年までに20億ドル近くまで成長する可能性があると予測されている。

2. マーケットプレイスの類型と変遷

オンライン旅行プラットフォームは基本的に「マーケットプレイスモデル」を採用している。旅行をしたい利用者とマーチャント(航空会社、ホテル、ツアーコンダクター等)が提供する旅行商品が集う場を提供し、マッチメイキングをし、それに伴う手数料を徴収することで収益化する。マーケットプレイスは商業インターネット登場以降、とても成功したモデルだが、実際にはとても細やかな類型が存在する。マーケットプレイスモデルの変遷を簡単に辿ってみよう。

1995年開始のeBayではいままで消費者が到達できなかった「物品プール」への透過性を作ることを目標にしてきた。完全にオープンで透過的なマーケットプレイス(あるいはプラットフォーム)を設計した。ユーザーはプラットフォームに対し透過性を感じそれを操作できていると感じると、快適になる生き物であり、その需要に応えた設計である。それまで、セカンドハンドの物品売買は、フリーマーケットや突発的なガレッジセールなどでしか行えなかったが、商業インターネットが生み出したこの類型のマーケットプレイスでは、「いつでもそこですべてを探索できる」という可能性がユーザーを心地よくさせていた。

この設計を進化させたのが、エアビーアンドビー(Airbnb)やExpediaである。旅行という目的においては、利用者は自分が「発見」しその固有の体験を楽しんだ、という「感覚」を重視する人が多いのは想像に難くない。

この発見の感覚を利用者が持つためには、彼らの「透過性(Transparency)」 や「可視度(Visibility)」に注意を払う必要がある。そのような可視度は、実際には、プラットフォーム側がユーザーの快適さを様々な手段で下支えする側面が年々強くなっている。というのも、本当に透過性だった場合、利用者は往々にして自分が欲しいものを探す間に、そのコストに疲れてしまうものだからだ。

例えば、Airbnbが検索で深層学習を活用し、利用者の宿泊の探索を劇的に改善したのはとても有名な事例であり、これはある意味、深層学習による接ぎ木をすることで、利用者の目に見える商品をパーソナライズすることで、マーケットプレイスの中のマッチングを最適化している。

Expediaの2016年のホワイトペーパーによると、消費者は、最初から「ニーズ」を満たすホテルを見たいと考えているとExpediaシニアバイスプレジデント(Global Partner Group)のMelissa Maherは説明している。ExpediaのMarketplaceは、消費者の検索条件を考慮して、最も競争力のあるサービスをリストの最上位に配置する。それが消費者のニーズを満たす可能性が最も高いためだ。

消費者は検索結果を価格、場所、アメニティ、またはその他の要因でフィルタリングすることを選択できるが、ほとんどの消費者は、最初のフィルタリングが最も役立つと考えているという。検索結果は検索条件に合わせて調整された最も競争力のある製品で構成されるためだ。利用者が検索した際に最初にみえるもの(可視性)は、オファー強度(価値に対する価格のベンチマーク)、品質スコア、および報酬(Expediaを含めた提供者側のもうけのこと)という3つの要因によって決定されるとMaherは説明している。ここからも多数派のユーザーは「すべてのものを調べ尽くして自分にあったものを見つけたい」のではなく、「自分のニーズを満たしていると説得してくれるものに出会いたい」傾向があることが見受けられる。

UberやLyftはマーケットプレイスを「最適化」することを目的とした。透過性は追求せず、マッチングと価格をシビアに管理する。一定の地域で需要超過になった場合、需給バランスやそのほかの要素を織り込んで、価格が動的に設定される「ダイナミックプライシング」はその端的な例である。彼らは透過性を制限し、利用者の探索コストを抑え、需要を制御することで、生産者の操作の余地を減らすというマーケットプレイス設計をしている。これは取引する「配車」に対して、需要側に素早い供給のニーズが強くあることが関係しているはずだ(タクシー待ちをしていらいらしたけいけんがあるのではないか)。待っていることによる「いらいら」は、自分の好きな車を選べる便益を簡単に上回りうるのである。

さて、少し余談にそれたが、今回のオンラン旅行サービスはAirbnbやExpediaと同じ類型のマーケットプレイスである。

3. 45億ドルの地元プレイヤーTraveloka

インドネシアは東南アジアで最大の旅行市場であり、最も急速に成長している。この市場成長を踏まえ旅行マーケットプレイスが急速に発展したのがこの数年のできごとである。初期にはAgoda、Bookingのような海外プレーヤーの浸透が進んだものの、その後はTravelokaやTiket.com、Nusatrip、Ezytravelなどの地元企業が成長した。

特にTravelokaは企業価値45億ドル(推定)のユニコーン企業であり、航空券の発券やホテル予約のオンラインサービスである。Travelokaは現在、国内市場に加えてマレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポールのほか、オーストラリアの旅行市場に進出し、インドに研究開発部門を設置した。Travelokaは2012年に創業し、当初は市場とのフィットを模索したが、その後は市場拡大の波に乗った。Crunchbaseによると、5回のラウンドで9億2000万ドルを調達、東南アジア最大のオンライン旅行会社に成長した。Expedia Groupの時価総額218億ドル、Bookingの810億ドルと比べればまだまだ小規模なものの、Travelokaは成長市場に拠点を置いている。

TravelokaをExpediaやBookingと差別化するのは事業の多様化である。国内市場を対象に、航空券、ホテル、ツアーとアクティビティだけでなく、いわゆる食事、美容、スパ、映画等を含む「ライフスタイル商品」にもマーケットプレイスの幅を広げた。

「食事」は現在インドネシアのみで展開されている「発見」機能の一部分である。機能を通じてインドネシア人にレストランの割引券を発行し、Travelokaのクレカ所有者向けの特別価格、食事場所の提案、ユーザー作成のレビューを提供するのだ。インドネシアのユーザーはジャカルタ、バリ、バンドン、スラバヤ、ジョグジャカルタ、メダン、タンゲラン、ボゴールなど6〜8主要都市で食事の選択肢を見つけることができる。

たとえば、ジャカルタでは、ライフスタイル商品、あるいはサービスを提供するショッピングモールのテナントの80%がTravelokaで予約可能になったと、と同社は説明している。予約可能な商品のラインナップは、ベンダーやパートナーとの直接的な交渉、およびサードパーティのチャネルの組み合わせを通じて調達されるようだ。同社はレストラン予約の市場は旅行予約の市場の5倍の規模があると推定している。

これはYelpや食べログのようなレストランアプリを旅行アプリに取り込んだ形である。インドネシアでは中国で生まれた「スーパーアプリ」の広範な範囲への移植が試みられている。配車から支払い、フードデリバリーへと拡大したGo-JekやGrabがその先例だ。企業価値45億ドルに到達したTravelokaにも同様の拡大路線を歩む力学が働いているように見える。Airbnbは宿泊予約から事業を開始し、近年旅行先でのツアー予約を扱い始めた。後続のインドネシアのアプリは、既存プレイヤーが手薄なのをみて、ツアー予約に留まらず、隣のレストランや美容、スパ、映画の予約まで事業範囲を拡張している、ということだ。

Travelokaは、同社が運営している他の東南アジアの国々、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポール、オーストラリアでも「発見」機能を立ち上げる予定のようだ。現在この範囲内で海外旅行をした旅行者は、本国から目的地までTravelokaだけで航空便、ホテルのほかツアーやアクティビティまでを予約できており、最終的にはそこにレストランや美容、スパ、映画の予約が組み込まれようとしているのだ。

このような各種の産業への急速な拡大は人的ネットワークや商慣習を心得た地元企業の強みと考えられる。ただし、他のプレイヤーも手をこまねいているわけではない。

4. エアアジア

東南アジアオンライン旅行市場の「動乱」を物語るのが同地域最大の航空会社エアアジア(AirAsia)である。このエアアジアですらGo-JekやGrabの「スーパーアプリ」に魅了されたようだ。

エアアジアは、毎月ウェブサイトを訪れる6500万人の顧客に、競合しない航空会社の飛行機のチケット、および地方の目的地向けのレンタカーと宿泊パッケージを提供し始めた。東南アジア最大の航空会社グループで、クアラルンプールに本拠地を置くエアアジアは、すでにレンタカー、50万のホテルの宿泊施設、世界中のサービスアパートメント、5つの地域のホリデーパッケージを販売しており、 ネットワーク上の頻繁な旅行者から利用可能なデータ量のため、既存のオンライン旅行マーケットプレイスよりもいい商品を提供できると同社は考えているという。

トニー・フェルナンデスCEOは「誰もがプラットフォームビジネスに興奮している。誰もがGoJekとGrabに興奮している。そして誰もが、『誰にリーチできるか』『何を売れるか』という無限の可能性に誰もが興奮している」とSCMPへのインタビューで語っている。フェルナンデスは、人々が旅行したいときに最初にすることは、ホテルではなく航空券を購入することと指摘している。利用者の行動の起点を抑えているため、その後の行動にも影響を与えられると目論んでいるようだ。

この決定に大きく影響したのが、Travelokaとのトラブルである。今年2月14日から17日の間にエアアジアの航空券がTravelokaのマーケットプレイスから一時的に消えるという「事故」が起きた。エアアジアは3月に「不公平な競争の兆候」があるとみなし、Travelokaから自社の航空券およびホテルの商品をすべて引き上げている。おそらくエアアジアは「マーケットプレイスのさじ加減で自社商品の販売機会が損なわれる」という危機感を持ったと考えられる。以降、4月からフェルナンデスがマーケットプレイス化、あるいはスーパーアプリ化の宣言を各国で行い、サイトや提供サービスはじわじわTraveloka化をしているのだ。

「AirAsia.com」自体がTraveloka等に匹敵するモンスターサイトである。同サイトとアプリの組み合わせは、昨年自社の格安航空チケット販売で40億ドルを生み出している。彼はAirAsia.comで、自社と競合しない航空会社の老醜路線チケットを自社の「プラットフォーム」で販売する可能性に触れていた。

エアアジアは上述したような利用者の探索を助ける仕組みを作ったり、購買パターンを予測してマーケティングしたりするための十分なデータを保有している。エアアジアは消費者のデータを収集する装置をたくさんもっている。サイト/アプリの多量のユーザー、彼らがチケットを購入する際の支払い情報、航空機内ので購買、滞在日数、エアアジアのホテルに滞在した際にはその行動範囲、算定される旅行予算等である。同社の利用客には一定のリピーターがおり、リピーターが旅行を繰り返せば繰り返すほど、顧客への洞察は深まるばかりである。

これに対して、地域の多くの航空会社が遅れをとっている。彼らはうまく機能しているシステムを持っておらず、エアアジアが航空券販売のアグリゲーターに慣れる機会がある。

エアアジアはフライト以外のサービスを取り払い低価格を実現し、乗客データの分析に基づき、心理をうまくつくような他を圧倒する価格戦略をとってきたため、アグリゲーターが行う戦い方にキャッチアップできる可能性はある。

そうなると、競争力のある商品を自ら多数供給できるというのが競争力になりそうだ。エアアジアはTravelokaやBooking、Expediaがアグリゲイトする商品の大半を自分たちで供給でき、その商品をTraveloka等に渡さないようプロプライエタリにし、他の業者の商品を加えたマーケットプレイスを作ろうとしている。東南アジアの航空はLCCによって爆発的に規模を拡大してきた経緯があり、12万ドルと2台の航空機からビジネスを急拡大させたエアアジアは最もそのトレンドを物語る存在なのだ。だからこの参入の「宣言」は非常にインパクトがあった。

エアアジアはインドのバンガロールに技術センターを設立し、ポーランドとインドネシアにセンターを開設する。 また、データ分析ではPeter Thiel等を創業者とする非公開の大型データソフトウェア企業Palantirと連携し、機械学習ではGoogleと連携したとフェルナンデスはSkiftに対して語っている。

5. コメント

Traveloka等のプレイヤーがeコマースにおけるタオバオやeBayのようなマーケットプレイスであるのならば、エアアジアはウォルマートがマーケットプレイスとAmazonのようなオンライン小売りの双方に進出したという出来事である。エアアジアの事例は、米国や中国の事例と比べると、伝統的なプレイヤーがいわゆるテック企業のビジネスモデルへと変化するまでの「所要時間」はかなり短かったという印象である。しかも、競争相手は基本的にアグリゲーターだが、エアアジアは競争力のある大量の物量を持っており、この競争がどのような帰結に向かうか非常に興味深い。

Image by Korin Ogata /雷神図(尾形光琳)

参考文献

Rajan Anandan, Vice President, India and Southeast Asia, Google, Rohit Sipahimalani, Joint Head, Investment Group, Temasek(2018), "Southeast Asia’s Accelerating Internet Economy", Google, Temsek

Melissa Maher, Senior vice president, Global Partner Group, Expedia, Inc.(2016), "UNDERSTANDING THE SCIENCE BEHIND EXPEDIA’S MARKETPLACE", Expedia Group

Derianto Kusuma, As an expat Indonesian, will you return after studying or working overseas? Why?, Quora

"MASTERS OF MOBILE, Southeast Asia Regional Report 2018" Google, Accenture Interactive

Takushi Yoshida

Published 10 months ago