本書(翻訳版)のムーアの法則の説明には不満があります。ムーアの法則は、集積回路のトランジスタ数が24カ月ごとに2倍になるという観察です(1965年に18カ月から24カ月にゴードン・ムーアは改定しました)。ムーアはコンポーネントが2倍になるとだけ書いており、24カ月ごとに2倍速くなるというのは、ポップカルチャーにおける解釈です。原著は読んでいませんが、翻訳版では「最小コストで得られる素子の性能が2倍」とされており、これは誤りです。翻訳の誤りなのか、原著の誤りなのかどうか。

ただし、これは一般書なので、銃箱の隅をつついているのは確かです。また、コンポーネントの増加は2倍ではないものの続いており、それに伴う性能改善は起きづらくなっており、コンピュータは今後、固有アーキテクチャへの分岐軌道を描くと見られています(関連記事『エッジの逆襲』/English: "2019 Prediction: post mobile, edge strike back" First part  Second part)。

さて初っ端にケチを付けましたが、本書の「大局観」は素晴らしいです。伝統的な経済学が説明できないものを説明することを試みる内容になっています。本書は2014年の出版ですが、時間の経過が著者らの推定の確からしさを強くしています。

著者のエリック・ブリニョルフソンはマサチューセッツ工科大学(MIT)スーロン・スクール・オブ・マネジメントの経営学教授。専門分野は情報科学とデジタル経済であり、1999年に設立されたMIT センター・フォー・デジタル・ビジネス(CDB)のディレクターであり、2013年から始まったMITデジタル・エコノミー・イニシアティブのディレクター(IDE)です。経済学における実証分析に特化した権威ある民間研究組織、全米経済研究所(NBER)のリサーチアソシエイトも務めています。

ブリニョルフソンによる著書や論文の多くが、アンドリュー・マカフィー(Andrew P. McAfee)との共同執筆であり、本書もそのとおりです。マカフィーは、MITのCDBの首席研究員であり、ブリニョルフソンとともにIDBの共同ディレクターで、盟友のような関係なのでしょう。

ブリニョルフソンはデジタルな情報通信技術による技術革新でもたらされる「デジタルエコノミー」と呼ばれる情報化社会の変容を、主要な研究課題としており、情報化社会がもたらす経済効果をめぐる「ソロー・パラドクス」も独自の解釈で説明を試みています。

「ソロー・パラドクス」あるいは「生産性パラドクス」と呼ばれる議論は、景気が低迷していた1980年代後半の米国では、活発化しました。これは、MIT教授であり、のちにノーベル経済学賞を受賞したロバート M. ソロー(Robert M. Solow)が1987年に提起したもので、コンピュータなどの情報化投資を積極的に行っても、生産性の向上を統計上には実証できないという、投資と生産性が逆説の関係であることを意味しています。ブリニョルフソンは、無形資産(Intangible Assets)、消費者余剰をその論拠として、デジタル経済の大きな広がりを主張してきました。

『ザ・セカンド・マシン・エイジ』というタイトルは、デジタル技術は、産業革命中に蒸気エンジンと関連技術が人間の筋力にしたことを、人間の脳にしている、という含意です。彼らは私たちが多くの制限を迅速に克服し、前例のないスピードで新しいフロンティアを開くことを可能にしている、と本書は論じています。

2014年当時、本書が論じていたことで、確からしくなったことはいくつもあります。ひとつはスーパースターの経済学です。近年の世界経済では、べき分布がもたらす現象である、あらゆるスーパースター効果の存在が確認されており、スーパースター都市、スーパースターセクター、スーパースター企業はその代表例です。スーパースターはいくつかの特徴を共有しています。より多くの収入を獲得し、群を抜いていることに加えて、スーパースターは比較的高いレベルのデジタル化、熟練労働力の囲い込み、著しいイノベーションを達成しています。加えて、貿易、金融、サービスの世界的な流れに対して、より多くの接続をもち、より多くの無形資産を保持しているのです。

次に、GDPがもはや現実的な尺度ではないことです。ブリニョルフソンは本書におけるGDPへの批判を進め、共著者らとともに行った2019年の研究では、大規模なオンライン選択実験を行い、厚生の主要な要素である消費者余剰の変化を推定し、それによってGDPのような従来の指標を補完することができる、と主張しています。多くのデジタル商品の価格がゼロであり、その結果、これらの商品から得られる福祉厚生がGDPまたは生産性統計に反映されないデジタル経済において、消費者余剰は消費者の幸福度のより良い尺度である、というのは、「電子市場で利用できるようになった製品の種類の増加が消費者の余剰利益の大幅な増加源になる」と主張する、2003年の論文"Consumer Surplus in the Digital Economy: Estimating the Value of Increased Product Variety at Online Booksellers"から一貫した彼の考え方です。

米国経済ではいま、もともと一緒だったものが2つに分離してしまう急激な現象が起きています。それは、経済的豊かさは上向きの軌道にとどまっていますが、典型的な労働者の収入と仕事の見通しは行き詰っていることを指します。

ブリニョルフソンは「デジタル技術により、ほぼゼロのコストでコピーを作成できます。 各コピーは完全なレプリカであり、各コピーはほぼ瞬時に地球上のどこにでも送信できます。これらはFirst Machine Ageの特徴ではありませんでしたが、デジタル商品の標準であり、勝者が最も多い市場など、いくつかの異常な結果につながります」と指摘しています。

多くの産業では、大学教育を受けた人と受けていない人との間の賃金格差の拡大は、最上位層のなかの大きな変化によって、相対的に小さくなっています。2002年から2007年にかけて、上位1%は米国経済の成長による利益の3分の2を獲得しました。

「1%」がすべてウォール街にいるわけではありません。シカゴ大学のエコノミストであるスティーブ・カプランは、彼らが起業家、上級管理職であり、メディア、エンターテインメント、スポーツ、法律の象徴でもあることを発見しました。上位1%のなかにも激しい格差が存在します。上位1%が米国の全収入の約19%を稼いだのに対し、上位0.01%は国民所得のシェアを1995年から2007年にかけて3%から6%に倍増させているのです。収入レベルで信頼できるデータを取得するのは困難ですそれよりも高いが、収入の相違はフラクタルのような形態で成長し続け、スーパースターの各サブセットがさらに小さなスーパースターのグループを引き離すことを示唆している、とブリニョルフソンは指摘しています。

このようなデジタル経済で起きる現象を「Axion」では伝えていこうと僕は思っています。ブリニョルフソンの業績に関連するものはすでに頻出しています。