Axion Podcastは、テクノロジー業界の最新トレンドを、元DIGIDAY編集者で起業家の吉田と280万会員の写真を扱うベンチャーの事業統括者の平田でディスカッションする対話形式のラジオです

Key Takeaway

  • 13年前からのモバイルのトレンドは終わりを迎えつつある
  • イノベーションは停滞し、副作用が目立つようになってきた
  • 小さなスクリーンに人々が人生を埋没させる現象は、次のイノベーションで吹き飛ばされる

1. iPhone神話の終わり

2007年にスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した。これがいままで続くモバイルのトレンドの始まりだ、と吉田と平田は振り返りました。

インターネットに接続する電話機は、iPhoneが初めてではない。日本のiモード等が先行していたが、どうやら目標を見誤っていたようです。メッセンジャー機能を搭載したブラックベリーは慧眼の持ち主位だったけど、"ポピュリスト"のジョブズが提案するiPhoneが人々の欲求をうまく捉えていた。

iPhoneは最初の「接続されたパーソナルコンピュータ」の地位を獲得しました。プラットフォームのサードパーティアプリへの開放とアプリストアの仕組みはそこに新しい経済を生み出しました。iPhoneのスタイルはすぐさま模倣され、電話機のスタンダードになったのです。

2020年のいま、iPhoneが、販売台数が頭打ちになり、一台あたりの価格を引き上げる戦略をとるようになった。若者向けのベンツ、BMWのような「嗜好品」のポジションが確定的になりました。

たいした利用手段もないのにiPhoneの最新機種を使う人は、イノベーションではなく、記号を購入しているかもしれません。ジャン・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』的な話です。「モノそのものの使用価値、あるいは生産に利用された労働の集約度にあるのではなく、商品に付与された記号にある」ということ。

MacWorld Conference & Expo 2007 - San Francisco Steven P. Jobs present Apple's phone : the iPhone by Blake Patterson (CC BY 2.0)

モバイルの2つの方向性

新興国、途上国におけるリープフロッグ

スマートフォンの価格が1万円程度、あるいはそれ以下まで下がっており、家電の「三種の神器」(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)よりもスマホを先に買う傾向が見られます。スマートフィーチャーフォンという安価な電話機がインド、南アフリカ、南米でアンドロイド電話機のシェアを喰っています。このスマホとフィーチャーフォンの間の子は、Mozillaが昔開発した電話機用OSのフォーク(分岐)であるKaiOSを搭載しています。Googleは抜け目なくKaiOSの開発会社に投資をしています。

新興国では、大規模な中華型イノベーションの移植が実行されており、スーパーアプリの移植は東南アジアとインドで近年ブームとなっているのです。このようなゼロから、モバイル基点のデジタル化が進行する状況は、もしかしたら先進国よりも進んでいるかもしれません。これをリープフロッグと呼びます。そして、そのような国々は、モバイルを基点にしたデジタル経済の著しい発展を目にしているのです。

2. 停滞、高価格化する先進国

先進国のモバイルの特徴はイノベーションの停滞と高価格化です。

ハイエンドスマホが世代が変わっても昔ほど、速さを増さなくなりました。2007年当時はハードウェアとソフトウェアの双方に改良の余地があったが、現在は飽和しつつある状況です。

また、ユーザーの行動が怠惰になり、競争を勝ち抜いたいくつかのアプリに利用が集中するようになりました。You Tube、インスタグラムのような勝者のアプリのなかで、利用時間の集中が起きています。彼らの認知の中では、スマートフォンの利用によって得られる利得は既知の事実となるものの、それによって受ける副作用への不安が増えています。Facebookのようなソーシャルメディア、LINEのようなコミュニケーションアプリのなかで、ケンブリッジ・アナリティカのような政治広告による市民操作疑惑、危険な行動を誘発するフェイクニュースやネット工作(トロール)という脅威が台頭し、ユーザーはその世界に自信を持てなくなりつつあるのです。したがって、アテンション・エコノミー(注意経済)はついに飽和し、次のフロンティアが求められているのです。

先進国ではすでに数年前から「ポストスマホ」を視野に入れています。世界で最も動きの速い中国はどのように反応しているか。同国でのベンチャー投資は昨年、著しく低迷し、モバイルインターネットの勝者が確定したことに加え、モバイルのなかの可能性を使い切った、と、彼らはみなしています。その結果、彼らが取った行動はいつもどおり果断でした。中国勢のベンチャー投資は主に東南アジア、インドなどにシフトしました。中華ビックテックは、VCの投資サイクルではまかなえないハードテック領域である、5G、機械学習、IoT等に世界で最も大きなベットをしているのです。

3. コンピュータとしての停滞

モバイルをコンピュータと捉えたときの「ムーアの法則の終焉」をめぐる論争があります。RISCの共同発明者である、元カルフォルニア大学バークリー校教授で、Google Distiguished Engineerのデイビッド・パターソン、MIPS Computer Sytem創業者で、現在はGoogleの親会社Alphabetの会長ジョン・ヘネシーはムーアの法則が終わったと主張しています。

彼らのコンピューターサイエンスの教科書である『コンピューターアーキテクチャ定量的アプローチ』の最新版にはドメイン固有アーキテクチャの章が付け加えられました。パターソンはGoogleの機械学習向けDSAのチップ、テンサー・プロセッシング・ユニット(Tensor processing unitTPU)開発チームに名を連ねています。

過去40年間の32ビットおよび64ビットプロセッサコアのSPECCPUintのパフォーマンス推移。based on Hennessy and Patterson's "Computer Architecture: A Quantitative Approach". Source: A domanin-specific architechture for deep neural networks (Norman P. Jouppi, Cliff Young, Nishant Patil, David Patterson) via ACM Digital Library.

もうひとり、有名なムーアの法則の死の預言者がいます。それは、大手半導体メーカーNvidiaのCEO、ジェンスン・ファンです。彼は何度となく「ムーアの法則の終わり」を宣言し、「グラフィックスプロセッサは、ムーアの法則よりも優れた開発経路を通っている」と主張しています。もちろん、彼がGPUという区分を自ら設定し、その商業的成功を自己実現させた優れた経営者であることは、忘れてはいけません。彼に言わせると、GPUの性能改善のカーブには、CPUに見られるような異常は存在せず、CPUから多彩な固有アーキテクチャへと多様性の爆発が起きるコンピュータアーキテクチャのカンブリアを、業界は迎えている、ということになります。

これに対し、インテルのジム・ケラーは、ムーアの法則は20〜30年存続する、と反論しています。ケラーは、現在、インテルの牙城を脅かしているAMDのZenアーキテクチャ開発チームの統括者でした。Zenはインテルのチップよりも多くのコア数を達成し、PC用のCPUでは、低いコストでインテルと同等かそれ以上のパフォーマンスを達成しています。ムーアの法則が停滞していたのではなく、市場独占にあぐらをかいたインテルが停滞していただけではないか、と言われています。チップの3D化やさらなる微細化、マルチコア化を組み合わせることで、ムーアの法則が存続できる、と彼は踏んでいるようです。

ただし、インテルは、AIチップにも、GPUチップにも、RISC-Vのチップデザイン企業SiFiveにも隈なく投資してもいるのです。誰が正しいかは市場が決めるでしょう。

これがスマホに及ぼす影響

2007年の時、スマホは性能改善のための余地が、ハードウェアとソフトウェアの両方に残っていましたが、それがサチってきているのです。スマホが世代が変わっても性能向上はそこそこで、一般の消費者を喜ばせるものではなくなりました。ソフトウェアエンジニアはパフォーマンスチューニングに精を出さないといけなくなりました。

スマホは消費電力の制約が大きいです。消費電力は発熱量とほぼ同義であり、携帯電話があなたのポケットの中で、熱くなっていた経験があるのではないでしょうか。加えて、スマートフォン接触時間が増加するにつれて、近年の利用者はバッテリーをとても気にする傾向があります。

したがって、スマホはスクリーンが大きくなるに従い、裏側でバッテリーのサイズが拡大してきた。昔より格段に重くなっている主要因はバッテリー。

また、消費電力の制約から、シリコンチップ上で電力を供給してオンにしないエリアが生まれています。これらをダークシリコンといいます。DSA(ドメイン固有アーキテクチャ)、たとえば、グラフィック、機械学習等のためのチップやアクセラレーターは、通常の処理のときは、眠っていて、電気を消費しないから、スマホのSoCのなかで正当化される点もあるのです。

4. 結論

テクノロジー業界としては、スマホの次がほしいのです。デバイスとしての魅力、コンピュータとしての技術革新に陰りがみえるからです。スーパーアプリは、このような文脈の中で、最終戦争、のようなものです。次への手がかりが5G、エッジコンピューティング、機械学習等なのです。

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参照

  1. Gordon E. Moore. Cramming more components onto integrated circuits. 1965.
  2. David Patterson. UC Berkeley’s David A. Patterson Sees the Future After Moore’s Law.
  3. Norman P. Jouppi, Cliff Young, Nishant Patil, David Patterson.  "A Domain-Specific Architecture for Deep Neural Networks". Communications of the ACM, September 2018, Vol. 61 No. 9, Pages 50-59
    10.1145/3154484
  4. Jim Keller. Moore’s Law is Not Dead. Berkeley EECS.
  5. Omo, Miyagawa. Black Boz Dark Silicon (Omo).  rebuild.fm. Nov, 2019.
  6. 後藤弘茂. 後藤弘茂のWeekly海外ニュース モバイルSoCにおけるダークシリコンの呪縛. PC Watch.

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