本記事は富裕国を飛躍(リープフロッグ)する東南アジアのデジタル経済の「攻略本」となる『【特集】東南アジア デジタル経済 攻略』 の連載のひとつです。特集のトップページはこちらです。

【連載目次】

  1. 『6億経済圏のデジタル変革 東南アジアのデジタルエコノミー』
  2. 『GO-JEK VS GRAB 1兆円スーパーアプリの決戦 テック経済レビュー』
  3. 『スーパーアプリとは?WECHATが編み出した最強のモバイルファースト戦略』
  4. 『大競争時代の到来:東南アジアのデジタルウォレット テック経済レビュー#10』
  5. インドネシア デジタル決済: 中国モデルの「移植実験」
  6. 『東南アジアEコマース帝国の台頭』
  7. 風雲急を告げる 東南アジアのオンライン旅行市場

インドネシアでは従来型の保険商品では多数派の人々の関心を買うことができない。OJK(インドネシア金融庁)のデータによると、インドネシアの保険リテラシーは実際には2013年の17.9%から2017年には15.8%に低下。2016年にOJKが実施した全国調査では、金融全体のリテラシーも2013年に21.8%から29.6%に上昇したが、低調なままである。2億6,400万人の国の保険普及率は、世界で2%未満(加入者は450万人)に過ぎない。このためOJKは、国民がより身近に接するデジタルチャネルでの保険加入を奨励している。

現在、インドネシアでは生命保険が支配的なセグメントであり、セクターの3分の2を占めている。 生命保険は、2016年の保険料で126億ドルに達している。損害保険は、損害保険と自動車保険によって推進されており、2つが損害保険市場の54%を占めている。ミュンヘン再保険によると、保険料で最も急成長している損害市場の中で、インドネシアのCAGR(年平均成長率)はインドに次いで2番目であり、生命保険市場では世界で最も高いCAGRを誇っている。

Figure : Growth of the 40 most important markets in P&C and Life premium

インドネシアの銀行はすでに既存の顧客基盤を持っているため、インドネシアの成長保険の主なチャネルはバンカシュアランス(銀行とのパートナーシップを通じて製品を販売する保険会社)だった。 バンカシュアランスチャネルを通じた生命保険料は、2016年と比較して74%増加した。 Oxford Business Groupによると、従来型の代理店では6%の増加に留まる。チューリッヒによる地元保険会社Adira Insuranceの買収やFWD Groupによるオーストラリア連邦銀行のインドネシア生命保険ユニットの買収など、海外保険会社による近年のM&Aには、成長分野である長期的な銀行販売パートナーシップが含まれている。

健康保険に関しては、社会保障庁(BPJS)が管理するインドネシアの健康保険制度に登録されているインドネシア人は1億3千万人を超えている。ただし、BPJSの保険からは美容、矯正、不妊治療、薬物リハビリなどのサービスは除外されている。 BPJSは、活発な参加者の増加のため巨額の赤字に苦しんでいる。

デジタル保険の勃興

インドネシアの起業家は、さまざまなビジネスモデルをインドネシア市場に採用し、調整している。初期の2つの例は、SleekrとPasarPolisだ。

2015年に設立されたSleekrは、米国のGustoのモデルから借用し、人事管理、給与計算、あるいはビジネスプロセスのために、小規模企業に業務自動化ソフトウェアの組み合わせを提供している。 今日、Sleekrはインドネシアの10,000の中小企業で働いており、従業員1人あたり月額1〜2ドルを請求している。

将来的には、Sleekrは健康保険を含む金融サービスの販売業者になると思われる。これは、Gustoが医療、ビジョン、歯科保険を仲介する方法を模すことになるが、Sleekrは時間のかかる政府のBPJSプログラムを通過するのを嫌がる小企業にグループ健康保険を販売できる等の利点があるだろう。

一方、PasarPolisは中国の衆安保険のB2B2Cモデルの移植を進めている。PasarPolisは元々行っていた労働集約的なモデルから衆安保険のモデルにシフトしてきた。提携するGo-Jek、Tokopedia、およびTravelokaのビジネスの周辺に保険商品を開発していくことになるだろう。PasarPolisは25万件のマイクロ保険をGo-Jekのドライバー80万人に販売した。Travelokaとの協同の目的は旅行保険サービスを提供し Tokopediaはプラットフォーム上の売り手と買い手に保険サービスを提供することを目指している。金銭条件は非公開だが、DealStreetAsiaが3つの地場ユニコーンがPasarPolisに500万〜800万ドルを注ぎ込んだという報告がされていた。

PasarPolisのビジネスはスーパーアプリを標榜する各社にとってとても戦略性が高いものだ。デジタルウォレットを含む情報源をもとに作成した信用スコアに応じて保険料が動的に変化するなどの商品開発が想定できる。ユニコーン3社から投資を受けたことからもその状況がうかがい知れるし、ユニコーンは3社ともインドネシアのものであり、GO-JEKのエコシステムの中に入ったと考えていいだろう。

ただ、衆安保険が演じる中国のGMV1兆ドルのeコマース市場は、インドネシアの現在のデジタル経済よりも37倍大きいため、PasarPolisにはよりインドネシアの規模に合う保険商品の開発などのローカライズも必要になってくるだろう。

しかし、Pasar Polisには厳しい外部要因が生まれつつある。それはモデルの衆安保険自体がインドネシアに上陸しようとしていることだ。

衆安保険とGrabの提携

衆安保険は、2013年にAnt Financial、中国平安グループ、テンセントの合弁で設立されたインターネット専業の損害保険会社。同社が最初に一般消費者向けに投入した商品はeコマース向けの返品送料保険だ。これは淘宝網(タオバオ)などで商品を購入する際、商品が思った通りの内容・品質でなかったときに返品する場合の返送料金を補償する保険である。この保険は中国Eコマースの成長と相まって急激に普及してきた。

返品送料保険のほかにも「フライト遅延保険」や「スマホ破損保険」などの商品を次々に投入。これまで衆安保険は、日常消費・ファイナンス・航空旅行・健康・自動車保険の5大分野において300以上の保険商品を投入してきた。

香港上場3カ月後の2017年12月、衆安保険は香港法人「衆安国際」を設立、グローバル化の一歩を踏み出した。また、今年8月の中間決算発表では、衆安国際がソフトバンク・ビジョン・ファンドと2億ドルを拠出して合弁会社を設立し、海外企業に商品を販売することになっている。

衆安国際が重要視する市場はアジアであり、シンガポール、タイ、マレーシア、日本、韓国に進出。衆安国際はソフトバンクの投資先を潜在的なパートナーと捉えており、その最初の例がビジョン・ファンドが出資するGrabだった。

衆安はGrabの直近のラウンドに投資し、同時に衆安国際とGrabはシンガポールで合弁会社を設立すると発表している。合弁会社は、Grabモバイルアプリを介してユーザーに直接保険商品を提供するデジタル保険市場を作成。また合弁会社はグローバルな保険パートナーと協力して、東南アジアのライフスタイルのニーズに合わせて特別に調整された製品を開発するという。

オフラインをオンライン化するプレイヤー

インドネシアでは、オフラインチャネルは、デジタル金融サービス顧客を加入させるために非常に重要な役割になる。これは2017年にGrabがオフラインからオンラインへの取引を助けるKudoを8000万〜1億ドルで買収したことで明らかになった。

Kudoは、電子商取引のBukaLapak、Lazada、通信キャリアIndosat、格安航空Lion Airなどの企業と提携することで、銀行口座を持たない消費者をデジタル取引に乗せるための現金支払いシステムと500都市にまたがる50万人のエージェントネットワークを提供している。

Kudoは「オンライン商人用キオスク(Kios Untuk Dagan Online)」の頭字語であり、ビジネスの最初のモデルは文字通りキオスクだったが数度の事業モデルの転換の末、キオスクという小店舗にいるエージェントがデジタル取引を代行するというモデルにたどり着いた。ほとんどのインドネシア人は、商取引が機能するために依然として信頼の要素を必要としており、 彼らは何かを購入するために個人的および社会的な繋がりが必要だったからだという。つまりこれは「人力O2O(Online to Offline)」である。

Via https://www.slideshare.net/panjigautama/on-being-a-startup-employee

それが富裕層以外の人がデジタル購買に参加するようになったこの数年、Tier1以外の都市が顧客獲得の重要なプレイグラウンドとなる中で、Kudoのエージェントネットワークが輝きを増したのだ。

最近では、PayFazzはTiger GlobalとDSTから2,100万ドルを調達し、100万人を超える銀行エージェントのネットワークを活用して、銀行を持たない消費者と銀行の間の仲介者として機能した。 PayFazzエージェントは銀行の窓口として機能し、現金預金をPayFazz残高に変換する。

KudoやPayFazzのようなプレイヤーはエージェントを保険商品の営業パーソンとして利用できる。インドネシア人が商取引において人と人のコミュニケーションを重視しているなら、彼らはかなり優位な立場にたてるだろう。

GO-JEKが買収したMokaなどのPOSスタートアップは月額わずか10ドルであるため、Squareのように将来の融資と保険のバンドルが可能だとみられる。

参考文献

Michael Menhart, Monika Gruber, "Insurance Market Outlook for 2018/2019", Munich RE

"Financial Inclusion: Is it truly about access? Reaching Out the Indonesian Non-Inclusive Market" CXGO Consulting

Photo by Til Man on Unsplash